最近、ピットブルなどの大型犬が人や他の犬を襲う事件が相次いで報道され、犬の管理責任や安全対策についての社会的関心が高まっています。必ずしもこのような事故が急増しているわけではありませんが、「もし自分の犬が他人にケガをさせてしまったら…」という想定をする飼い主が増えているのも事実です。
2025年6月、大阪高裁はゴールデンレトリバーに衝突されて後遺症が残った男性に対し、飼い主が1600万円を賠償するよう命じました。この裁判は、「普段は穏やかな犬でも、興奮状態では予期せぬ事故を起こす可能性がある」という現実を改めて突きつけるものでした。
本記事では、この判決をきっかけに、「犬が事故を起こしたとき、飼い主にどのような法的責任があるのか」「どのような保険で備えることができるのか」、また「海外ではどのように規制されているのか」などを、愛犬家の立場からわかりやすくお伝えします。
ドッグランでの事故、高裁が飼い主に1600万円賠償命令
背景と判決内容
兵庫県の男性は、大阪市内のドッグランで走ってきた大型犬(ゴールデンレトリバー)に背後からぶつけられて転倒。左足を骨折し、肩の可動域が制限される後遺症が残りました。
1審では「飼い主は監視していた」として請求が棄却されましたが、2審の大阪高裁は「犬が興奮していたのにリードもつけず、制止もしなかった」として、飼い主の過失を認定。約1600万円の損害賠償を命じる判決が出ました。
飼い主の注意義務は免れない
「ドッグランではリードを外して自由に遊ばせるのが普通」と思いがちですが、裁判所は「興奮した犬がぶつかって事故を起こす危険は予見できた」と判断。ドッグランであっても飼い主の責任は免れないという重要な判例になりま
した。

なぜ大型犬は特に注意が必要なのか?
普段はおとなしくても、興奮すれば別の行動に
大型犬は性格がおだやかな個体が多い一方で、体格やパワーがあるため、興奮時のリスクは中型・小型犬よりも大きくなります。
- 遊びで走ってぶつかっただけで人が転倒
- じゃれて飛びついたら高齢者が骨折
- 歯が当たって皮膚が裂けるようなケガになることも
特にドッグランのような開放的な環境では、犬もテンションが上がりやすく、普段のしつけだけでは対応しきれない場面も出てきます。
犬による事故、飼い主にどんな責任がある?
日本の民法第718条では、動物による損害について、次のように定めています。
動物の占有者(飼い主など)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
つまり、犬が事故を起こせば、たとえ飼い主に明確な過失がなくても、原則として責任を負うことになります。
また、ドッグランのような私有地でも「管理責任を免れるわけではない」というのが裁判所の判断です。事故が起きれば多額の賠償金が発生する可能性もあり、事前の備えが重要です。

散歩中に起こる事故も他人事ではない
「ドッグランには行かないから関係ない」と思うかもしれませんが、通常の散歩中にも同様のリスクがあります。
- 吠えたことで通行人が驚いて転倒
- リードを引っ張った拍子に誰かにぶつかる
- 子どもが犬に近づいて咬まれた
これらもすべて、飼い主に「相当な注意義務」が求められ、違反すれば損害賠償の対象になります。
しつけに不安があるなら、専門家の力を借りる選択も
犬の事故を防ぐには、日頃のしつけ(トレーニング)がとても大切です。特に「止まれ」「待て」「戻れ」などの基本的な指示が通らない場合、ドッグランや公共の場でのトラブルにつながる可能性が高くなります。
しつけに自信のない方や、「どうしてもうまくいかない」と感じている飼い主さんは、無理をせずプロの訓練士(ドッグトレーナー)に相談するのも一つの方法です。
最近では、個別指導やオンラインレッスンも普及しており、犬種や性格に合わせたトレーニングプランを提案してくれる専門家も増えています。
事故を未然に防ぐためにも、「問題が起きてから」ではなく、「起きる前」に行動することが、飼い主の責任ある選択といえるでしょう。

飼い主はどんな保険に入るべき?賠償リスクに備える方法
① ペット保険の「賠償責任特約」
最近のペット保険には、「愛犬が他人にケガをさせた場合の賠償責任」を補償するオプションがあります。
- 月々数百円で補償額3000万円〜1億円のプランも
- 裁判費用・示談交渉費用も含まれる場合あり
- 保険会社例:アニコム、楽天ペット保険、SBIプリズムなど
② 火災・自動車保険の「個人賠償責任特約」
すでに火災保険や自動車保険に加入している方は、オプションとして「個人賠償責任特約」を追加できることがあります。これは自転車事故やペット事故、日常生活での偶発的な損害を補償するもので、犬の事故にも適用可能です。
飼い主の責任、海外ではどうなっている?
イギリス
- 「危険な犬法(Dangerous Dogs Act)」により、犬が人を傷つけた場合、刑事責任と民事賠償の両方が課せられる
- ピットブルなど特定犬種は、リードや口輪の義務、飼育制限あり
アメリカ
- 州ごとに法律は異なるが、「飼い主は無条件で賠償責任を負う」州も
- 例えばオハイオ州では、犬が転倒させただけでも賠償責任
フランス・ オーストリア
- 犬による事故で人が死亡した場合、懲役刑や罰金刑
- 大型犬の飼育には保険加入や資格証明の義務がある国も

飼い主が安心して愛犬と過ごすためにできること
- ドッグランでは犬の様子を常に観察し、興奮しすぎたら一時的にリードをつける
- 普段から「止まれ」「待て」などのコマンド練習をしておく
- 保険に加入して万が一に備える
- 事故を起こさない工夫を、飼い主が率先して行う
まとめ|ドッグランでも散歩中でも、飼い主の責任を忘れずに
普段おとなしい犬でも、興奮すると思わぬ事故を起こすことがあります。特に大型犬は体格ゆえに衝突や転倒のリスクも大きく、万が一の際には高額の損害賠償**に発展することもあります。
日本だけでなく、海外でも飼い主の責任は厳しく問われる傾向にあり、「うちの子は大丈夫」と思わず、備えと配慮を欠かさないことが大切です。
愛犬との楽しい時間を守るために、「注意」「しつけ」「保険」の3つを意識して、安全なペットライフを送りましょう。