育休を取ったら学童を退所させられる?全国6割の自治体で続く「育休退所」問題

育休を取ったら学童を退所させられる?全国6割の自治体で続く「育休退所」問題 時事・ニュース
スポンサーリンク

読売新聞が2026年に実施した調査によると、東京23区・道府県庁所在地・政令市・中核市など全国の主要109区市のうち、実に6割近い61区市が「親が育休を取得した場合、きょうだいを退所させる」という運用を行っていることが明らかになりました。

過去3年間(2023〜2025年度)の退所児童数を開示した9区市だけで655人にのぼり、集計していない自治体も多いため、実際の数はさらに大きくなると考えられます。

子どもにとって、慣れ親しんだ場所と友達を突然失うことは、想像以上に大きなストレスです。なぜこのような事態が生じているのか、そして解決に向けた動きはあるのか、詳しく見ていきましょう。


スポンサーリンク

学童保育とはどのような制度なのか

学童保育(正式名称:放課後児童健全育成事業)は、共働き世帯やひとり親家庭の小学生を対象に、放課後の適切な遊びと生活の場を提供する事業です。国の補助を受けて主に自治体が設置・運営しており、空き教室や児童館などが活用されています。

共働き世帯の増加とともに需要は年々高まり、こども家庭庁によると昨年(2025年)5月時点の登録児童数は過去最多となる約157万人に達しています。一方で、待機児童数は令和7年5月時点の速報値で1万7013人と、前年より673人減少したものの依然として高い水準にあります。

需要の高まりに対して受け皿の整備が追いついていない現状は、今回の「育休退所」問題の背景にも深く関係しています。


なぜ育休を取ると子どもが学童を辞めさせられるのか

「労働等」の解釈をめぐる混乱

問題の根本には、学童保育の対象者を定める児童福祉法の解釈があります。

放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)は、児童福祉法第6条の3第2項の規定に基づき、保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童に対し、授業の終了後等に適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るものです。

この「労働等により昼間家庭にいない」という要件について、こども家庭庁は「職場復帰が前提となる育休は『労働等』に含まれ、育休中でも学童を利用できる」という見解を示しています。しかし、この見解が現場に十分に周知されてこなかったため、多くの自治体が「育休中は労働していないため対象外」と独自に解釈し、退所を求める運用を続けてきたのです。

各地の対応のばらつき

今回の調査では、回答した109区市のうち「育休中の利用は認めない」と答えたのは新潟市や神戸市を含む69区市。そのうち61区市が育休取得を理由にきょうだいの退所を求めるという厳しい運用をとっています。残る8区市は「柔軟に対応する」という姿勢を見せていますが、全体的に自治体ごとの対応に大きなばらつきがあるのが現状です。


子どもへの影響と専門家の指摘

慣れ親しんだ環境から引き離される辛さ

親の都合で学童をやめさせられる子どもは、自分の意思とは関係なく、毎日一緒に過ごしてきた友達や指導員と突然の別れを強いられます。

親や学童の指導員らで作る全国組織「全国学童保育連絡協議会」(東京)はこの問題を深刻に受け止め、「慣れ親しんだ環境や友達から引き離すのは子どもにとって負担が大きい」として国に改善を申し入れる方針を示しています。

放課後児童クラブ運営指針には「子どもが放課後児童クラブを退所する場合には、その子どもの生活の連続性や家庭の状況に配慮し、保護者等からの相談に応じて適切な支援への引き継ぎを行う」と定められています。制度の指針としては子どもの生活の継続性を尊重することが求められているにもかかわらず、実際には退所を強いられるケースが後を絶たないのは大きな矛盾です。


現場が抱えるジレンマ――待機児童と人手不足

一方で、自治体や学童の現場が一概に「意地悪をしている」わけではないという側面も理解しておく必要があります。

全国の学童保育の待機児童は毎年約1万6000〜1万7000人に上ります。また、保育所等を利用する児童と学童保育を利用する児童の数の差から、学童の登録数が保育園と比べて100万人以上少なく、今後もしばらく潜在的な利用ニーズが掘り起こされ続ける可能性があります。

東京・杉並区のように「受け入れる余裕がない」と正直に状況を説明する自治体もあります。育休中に自宅にいる親がいる家庭の枠を、より切実に必要としている待機家庭に回したいという発想は、制度設計の面では一定の合理性を持っているかもしれません。

しかし、その「しわ寄せ」を子どもに押しつけていいのか、というのが今問われている問題の本質です。


変わりつつある動き――国の周知と自治体の方針転換

今回の読売新聞の調査や全国学童保育連絡協議会の動きを受け、状況は少しずつ変わりはじめています。

国の見解(育休中も学童利用可能)を把握した東京都江戸川区は、今年度中に受け入れを始める方針を決めました。首都圏の別の市も方針を転換する予定としており、「育休は対象外だと思っていた。国はわかりやすく示してほしい」という声が現場から上がっています。

こども家庭庁が「放課後児童対策パッケージ2026」を策定し、待機児童対策の一層の強化放課後のこどもの居場所確保に取り組んでいるなかで、育休退所問題も明確な形で解決に向かうことが期待されます。

放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)|こども家庭庁
こども家庭庁は、こどもがまんなかの社会を実現するためにこどもの視点に立って意見を聴き、こどもにとっていちばんの利益を考え、こどもと家庭の、福祉や健康の向上を支援し、こどもの権利を守るためのこども政策に強力なリーダーシップをもって取り組みます...

「育休退所」問題が問いかけるもの

今回の問題は、単なる学童保育の運用ルールの話にとどまりません。

少子化対策として政府が育休取得を推進する一方で、育休を取ったことで上の子が学童を退所させられるという矛盾した現実があります。第2子・第3子の出産を考える親にとって、「育休を取ると上の子の居場所がなくなる」というリスクは、少子化をさらに加速させる要因になりかねません。

子どもにとって「安心できる放課後の居場所」は、親の就労状況が一時的に変わったからといって突然奪われてよいものではないはずです。制度の運用を見直し、子どもの最善の利益を中心に据えた政策へと転換することが、今まさに求められています。

国・自治体・現場が一体となって、子どもたちの放課後の安心を守る仕組みをつくり上げていくことが不可欠です。


まとめ

  • 全国主要109区市の約6割が、保護者の育休取得を理由に上の子を学童退所させる運用を行っている
  • こども家庭庁は「育休中も学童を利用できる」との見解だが、周知が不十分だったため多くの自治体が誤った解釈をしてきた
  • 子どもを突然慣れた環境から引き離すことは、精神的な負担が大きく、子どもの権利の観点からも問題がある
  • 一方、待機児童問題や人手不足など学童現場の深刻な課題も存在し、単純に「全員受け入れよ」と言えない現実もある
  • 江戸川区など方針を転換しはじめる自治体も出てきており、国が明確な指針を示すことが急務
タイトルとURLをコピーしました