警察官や検察官を名乗り、偽の逮捕状をレターパックで送りつけて現金をだまし取る「ニセ警察詐欺」が全国で急増しています。
2025年の被害額は985億円に達し、特殊詐欺全体の約7割を占める深刻な状況。鳥取市では70代の女性が2320万円を失う被害が発生しており、警察は注意を呼び掛けています。
本記事では、その具体的な手口と20年以上にわたる詐欺の変遷、そして被害を防ぐための対策を解説します。
ある日突然「あなたは捜査対象です」──鳥取市で起きた2320万円詐欺の全貌
2025年1月、鳥取市に住む70代の女性の自宅固定電話に、一本の電話がかかってきました。相手は警察官や検察官を名乗り、「暴力団員が関わる事件にあなたが関わっているとみて捜査している」と告げました。
突然の連絡に動揺した女性のもとへ、数日後にはレターパックが届きます。中には「逮捕状」と記された書類が入っており、「捜査に協力しないと逮捕することになる」と脅されました。
その後、「お金の指紋を照合する捜査が必要」という名目で、毎日ATMで限度額いっぱいまで現金を引き出すよう指示されます。そして2度にわたり「袋に入れて玄関先に置いておくように」と言われた女性は、合計2320万円を持ち去られてしまいました。
警察官を名乗る男と連絡が取れなくなってから、息子に相談して初めて詐欺だと気づいた──これが今回の事件の全貌です。
なぜ信じてしまうのか?「ニセ警察詐欺」が巧妙すぎる理由
公文書のような偽の逮捕状で「本物感」を演出
この詐欺が恐ろしいのは、電話だけでなく「物証」を使う点です。
愛知県でも類似の被害が報告されており、届いた偽の逮捕状には被疑者欄に本人の名前・生年月日・住所が記されており、罪名として「組織犯罪処罰法違反」「犯罪収益移転防止法違反」などが列記されていました。「最高裁裁判官」名義で発付されたような体裁が取られており、一見すると本物の公文書のように見えます。
突然「あなたは犯罪に関わっている」と言われ、さらに公文書風の書類まで届いたとなれば、冷静さを失ってしまうのは無理もありません。詐欺師たちはこの「パニック状態」を意図的に作り出しているのです。
段階的に信頼を積み重ね、逃げ場をなくす
詐欺の手口は一度に大金を要求するのではなく、段階を踏んで心理的に追い詰めます。
「毎日ATMで引き出す」という指示も、一度従ってしまうと「もうここまで来たのだから」という心理が働き、次の指示にも従いやすくなります。これは「コミットメントと一貫性」と呼ばれる心理的な罠です。
被害は全国で急増中──数字が示す深刻な実態
このような「ニセ警察詐欺」の被害は、鳥取だけの話ではありません。
警察庁が2026年2月に公表した統計によると、ニセ警察詐欺の2025年の認知件数は1万936件、被害額は985億4000万円に達しています。これは特殊詐欺被害全体(1414億円)の実に約7割を占める数字です。
1件あたりの被害額は910万8000円で、ニセ警察詐欺を除く特殊詐欺の263万3000円と比べると約3.5倍にのぼります。被害額が突出して大きいのが、この詐欺の特徴です。
また、2024年は警察官をかたって「あなたの口座が犯罪に使われている」などと被害者をだますニセ警察官詐欺の件数が前年比4倍以上(4261件)に急増しました。
さらに、従来のオレオレ詐欺被害者は9割が高齢者(65歳以上)でしたが、2025年は65歳未満の被害者が50%を超えるなど、被害者の年齢層が若年化しています。高齢者だけの問題ではなくなっているのです。
「レターパックで逮捕状」──絶対にあり得ない理由
警察や検察は、逮捕状をレターパックやSNSで送ることは絶対にありません。
そもそも逮捕状は裁判官が発付するものであり、捜査機関が独自に作成・送付できるものではありません。本物の逮捕状は、警察官が直接本人のもとへ出向いて執行するものです。郵便で届くことはあり得ません。
警察は「逮捕状を送ることは決してない」と注意を呼び掛けています。また、郵便法第17条に「現金を送る時は現金書留による」と規定されており、現金書留以外では現金を送金できないとされているため、レターパックなどで現金を送るよう指示された場合は詐欺です。
詐欺師が使う「6つのだましのテクニック」
- 権威の利用:警察・検察・裁判所といった公的機関を名乗ることで、相手の判断力を奪う
- 緊迫感の演出:「逮捕される」「今すぐ行動しないと」という焦りを生み出す
- 物的証拠の提示:偽の逮捕状や書類を送ることで「本物感」を演出する
- 孤立化:「家族や知人には話してはいけない」と口止めし、相談できなくさせる
- 段階的要求:少しずつ従わせることで、断りにくい状況を作り出す
- 現金の直接受け取り:振込ではなく「玄関先に置く」形にすることで記録を残させない
「オレオレ詐欺」から「ニセ警察詐欺」へ──20年以上にわたる手口の変遷
今回のレターパック詐欺を正しく理解するためには、この詐欺がどのように「進化」してきたかを知っておくことが重要です。対策が広まるたびに、詐欺師たちは新しい手口へと姿を変えてきました。
第1世代(2000年代前半):「俺だよ、俺」──シンプルな家族へのなりすまし
オレオレ詐欺の始まりは2000年代前後で、電話口で「俺だよ俺」と家族を装ってだまし取るという手口でした。息子や孫を名乗り、「お金が急に必要になった」と訴えて振り込ませるシンプルな手口です。2003年2月、鳥取県警米子署が初めて「オレオレ詐欺」という言葉を使い、各地の警察に広がりました。
当初の防止策として「こちらから名前を言わなければ騙されない」と言われていましたが、犯罪者集団は卒業名簿や会社名簿などの個人情報が載っている資料を集め出し、家族の名前や年齢などを調べ上げてから電話をかけるようになりました。「名前を知っているはずがない」という思い込みが逆に罠となったのです。
第2世代(2004年〜):「振り込め詐欺」──手口の多様化と名称変更
2004年12月、手口の多様化で名称と実態が合わなくなったため、警察庁はなりすまし詐欺・架空請求詐欺・融資保証金詐欺・還付金詐欺の4類型を「振り込め詐欺」として統一名称にしました。架空の料金請求や「医療費の還付金がある」といった口実が登場し、被害は急拡大しました。
ところが、金融機関の窓口やATM付近での声かけ、高額振込への注意喚起が浸透し始めると、振り込みによる送金が難しくなっていきます。
第3世代(2013年頃〜):「劇団型」・現金の手渡し──振込回避の工夫
振り込み対策が浸透すると、詐欺師たちは「現金を直接受け取る」方法に切り替えます。2013年前後には複数人による「劇団型犯罪」・「母さん助けて詐欺」と呼ばれる手口が横行しました。電話担当の「息子・娘」以外にも、会社の「上司」や金貸しの「債権者」、交通事故の「被害者」などが登場する、まるで舞台のような組織的な詐欺です。銀行に気づかれないよう「受け子」が自宅へ現金を取りに来るスタイルが定着しました。
第4世代(2010年代後半〜):「レターパック」送金──金融機関の監視をかいくぐる
現金の手渡し型も、金融機関や郵便局での声かけ対策が普及すると抜け道が必要になります。以前は専ら現金振込や、プリペイドカードで送る方法が使われていましたが、携帯電話片手に振込をしようとする者に金融機関関係者が声をかけたり、多額のプリペイドカードを買おうとすると店員が阻止するなど防止策が浸透していき、送金が困難になっていきました。そこで詐欺師が目をつけたのがレターパックです。
ポスト投函だけで完結し、窓口での確認が不要なレターパックは、詐欺師にとって「邪魔の入らない」送金手段となりました。ただし今回の鳥取の事例では、レターパックを「偽の逮捕状の送付」に使い、現金は玄関先への置き去りという形を取っており、レターパックの使われ方も変化しています。
第5世代(2020年代〜):「ニセ警察詐欺」+SNS+闇バイト──組織化と若年化
現在の詐欺は、これまでの手口を組み合わせ、さらに社会的権威(警察・検察)への恐怖心を最大限に利用する形へと進化しています。犯行グループは、介護施設の入居権や医療費など高齢者にとって身近で関心を持ちやすい話題を名目にしたり、複数の人物が入れ替わり電話をかけることで詐欺と気づかれにくいよう演出するなど、だまし方を一層巧妙にしています。
さらに、SNSを通じた「闇バイト」による実行犯の調達が組み合わさり、指示役・電話役・受け子が分業化した犯罪組織へと発展しています。従来のオレオレ詐欺被害者は9割が高齢者でしたが、2025年は65歳未満の被害者が50%を超え、若い世代でも携帯電話への架電をきっかけとした被害が急増しています。
被害を防ぐために今すぐできること
①「おかしい」と感じたらすぐ電話を切る
警察官や検察官を名乗る電話がかかってきたら、いったん電話を切りましょう。その後、自分で電話帳などから警察署の代表番号を調べ、かけ直して確認することが大切です。絶対にかかってきた電話番号に折り返してはいけません。
②家族や知人に相談する
詐欺師は必ず「誰にも話すな」と口止めします。逆に言えば、そう言われたときこそ詐欺のサインです。「一人で抱え込まない」ことが最大の防衛策です。
③ATMで高額の引き出しをしない
最近では、金融機関の窓口やATM付近に「詐欺防止」の声かけを行うスタッフが配置されている場合があります。高齢のご家族がATMで大金を引き出そうとしているとの連絡があれば、すぐに確認しましょう。
④家族間で「合言葉」を決めておく
緊急時に「本当に家族かどうか」を確認するための合言葉を、事前に家族間で決めておくことが有効です。
ご家族へ──高齢の両親を守るために
この詐欺の被害者は、今回の鳥取の事例のように高齢の方が多く、一人で抱え込んでしまうケースが後を絶ちません。
ぜひ、ご両親や祖父母と「こんな詐欺が増えているよ」という話をしてみてください。「警察がレターパックで逮捕状を送ることはない」「現金を玄関先に置くよう言われたら必ず詐欺」という2点だけでも伝えておくだけで、被害を防げる可能性が大きく高まります。
困ったときは、警察相談専用電話「#9110」(全国共通)にいつでも相談できます。
まとめ
「逮捕状がレターパックで届く」という手口は、一見荒唐無稽に見えても、実際には全国で多くの方が被害にあっています。焦らず、一人で判断せず、必ず誰かに相談する──この姿勢が身を守る最大の盾になります。
詐欺師たちは日々手口を巧妙にしています。正しい知識を持ち、大切な家族を守りましょう。
