ストーカー加害者にGPS装着義務化へ 被害者を守る新制度の可能性と課題

ストーカー加害者にGPS装着義務化へ 被害者を守る新制度の可能性と課題 時事・ニュース
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2026年5月19日、自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会は、ストーカー対策として加害者にGPS端末を装着させることを盛り込んだ提言案をまとめました。

ストーカー規制法に基づく「禁止命令」が出た加害者に装着させ、被害者に接近した際に相手へ自動通知する仕組みを想定しています。

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ストーカー被害の現状——年間約2万件、過去最多の検挙数

この提言が生まれた背景には、深刻な被害実態があります。警察庁の統計によると、2025年のストーカー事案に関する相談件数は2万2,881件と、依然として高い水準で推移しています。

ストーカー規制法違反の検挙件数は1,546件と、2000年の法律施行以降で過去最多を記録しました。同法に基づく「禁止命令」も初めて3,000件を超え、3,037件に達しています。

数字が示すのは、現行の対策だけでは被害を食い止めきれていないという厳しい現実です。2020年から2025年の間に、ストーカー事案が発端となって4件が殺人事件に、56件が殺人未遂事件へと発展しています。「つきまとい」という言葉が持つイメージよりはるかに、ストーカーは命に直結する重大な問題なのです。

ストーカー・DV・児童虐待等|警察庁Webサイト

自民党の提言——GPS装着と治療義務化の二本柱

今回の提言案の核心は大きく二点あります。

一つ目は、GPSによる位置情報の常時把握です。ストーカー規制法の「禁止命令」が出た加害者の身体にGPS端末を装着させ、被害者の居住地や職場など、接近が禁じられたエリアに近づいた場合に、被害者のスマートフォンへ即座に通知が届く仕組みを想定しています。これにより、被害者が危険を察知して避難する時間的猶予が生まれることが期待されています。

二つ目は、加害者へのカウンセリング・治療の義務化です。警察当局は現状でも加害者に治療やカウンセリングの受診を勧めていますが、その受診率はわずか5%程度にとどまっています。任意では機能しないと判断し、受診を法的に義務付ける方向性が示されました。

調査会の葉梨康弘会長は「技術的な制約も検討し、ストーカー規制法の改正も含めた対策を急ぐべきだ」と語っており、単なる議論にとどまらず、法改正を含めた具体的な制度化を急ぐ姿勢を示しています。


世界はどう対応しているか——韓国・イギリスなど先行する電子監視制度

加害者へのGPS装着は、日本では新しいアイデアに映りますが、海外では先行事例が存在します。

韓国では、2007年に「位置追跡電子装置装着法」が成立し、2008年9月から性的暴行犯を対象にGPS足輪(アンクレット)の装着制度が本格施行されました。監視は24時間体制で行われており、禁止地域に対象者が入ると警察が即座に対応します。制度施行前と比べ、性犯罪の再犯率が7分の1にまで減少したという法務省のデータも示されています。さらに2023年の法改正で、ストーキング犯罪も電子監視の対象に加えられました。

アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・カナダ・スウェーデンなど多くの国でも、一定の犯罪前歴者に対するGPS装着制度が導入されています。これらの国々では、刑事司法の枠組みの中で、仮釈放中の者や執行猶予中の者を対象に運用されているケースが多くあります。

こうした世界の流れを見れば、日本の議論は決して突飛なものではなく、むしろ国際的には標準的な方向に向かっているともいえます。


「新たな刑罰」か「被害者保護の手段」か——人権と安全の間で

もっとも、この制度には重大な論点が伴います。

まず指摘されるのが、人権・プライバシーの問題です。GPS装着は常時位置情報を把握されることを意味します。加害者がまだ「犯罪者」として有罪判決を受けていない段階——つまりストーカー規制法の「禁止命令」が出た時点——から装着が義務付けられる場合、それは実質的に、司法の判断によらない身体的拘束の一形態ともいえます。

長期にわたる監視が続けば、それは事実上「新たな刑罰」ではないかという議論も生まれます。刑罰とは本来、裁判所が適正手続きのもとに下すものです。行政命令である「禁止命令」だけを根拠に、常時監視を課すことが憲法上の適正手続き(デュー・プロセス)に適合するかどうかは、慎重な法的検討が必要です。

一方で、こうした反論に対しては、明確な答えがあると私は思います。加害者のプライバシーや人権より、守られるべきは被害者の人生であり、命です。 禁止命令が出るほどの状況に至った加害者の「監視されない自由」と、毎日怯えながら生活しなければならない被害者の「安全に生きる権利」を同じ天秤で量ることが、そもそも適切なのか。答えは明らかではないでしょうか。

韓国でも制度導入当初は「人権侵害だ」との反対意見がありました。しかし、重大な性犯罪事件が契機となり、社会的合意が形成されて法制化に至った経緯があります。制度の正当性は、被害の深刻さと照らし合わせて議論されるべきものです。


慎重な制度設計が不可欠——克服すべき課題

感情論だけで突き進んでも、実効性のある制度にはなりません。GPS装着義務化を実現するためには、乗り越えるべき課題がいくつもあります。

①対象者の要件を明確にする 「禁止命令」が出た全員に装着するのか、危険度を判定して一部に絞るのか。危険度のアセスメント手法の確立が必要です。基準が曖昧では、過剰適用と過少適用の両方のリスクを生みます。

②法的根拠の整備 現行のストーカー規制法の枠組みでGPS装着を義務付けることができるか、それとも新たな立法が必要か。また、装着命令を出す主体を行政(公安委員会)とするのか、裁判所とするのかも重要な論点です。韓国では裁判所が発する司法処分として運用されており、行政命令との違いは大きいといえます。

③監視体制の整備 GPSからのデータをリアルタイムで処理し、被害者に通知するシステムには相当のインフラと人員が必要です。通知を受けた被害者が即座に安全を確保できる体制(警察の迅速な出動など)がセットでなければ、通知が来ても間に合わないという事態になりかねません。

④装置の改ざん・逃亡への対応 韓国でも、GPS足輪を切断して逃走するケースが発生しています。装置の堅牢化と、外れた際の即時対応体制が必要です。

⑤治療義務化との連携 GPS監視はあくまでも「接近を知らせる」ための手段であり、根本的な解決策ではありません。加害者の行動変容には専門的な治療・カウンセリングが不可欠です。治療の義務化と組み合わせることで、監視期間終了後の再犯防止にもつなげる視点が重要です。


まとめ——被害者の命を守るために、今こそ制度の本気度が問われる

ストーカー被害は、放置すれば死に直結しうる問題です。年間約2万件という高水準の相談件数が続くなか、現行の対策に限界があることは数字が証明しています。

加害者へのGPS装着義務化は、被害者保護の観点から見て、検討に値する有力な選択肢です。韓国をはじめとした先行国の経験は、適切な制度設計のもとで運用すれば効果を上げうることを示しています。

ただし、急いで粗雑な制度を作ることは避けなければなりません。法的根拠、対象者の選定基準、監視体制、治療との連携——これらをしっかりと議論し、実効性と人権保障を両立させた制度を設計することが求められます。

被害者が「もし加害者が近づいたら」と毎日怯えながら暮らす現実を、私たちは変えなければなりません。今回の自民党の提言が、単なる議論に終わらず、被害者の命を守る具体的な法整備につながることを願います。

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