2026年6月22日、川崎市議会の定例一般質問で、市内の市立小中学校2校において、児童・生徒が下着や体操服を脱いだ状態、つまり上半身を露出した状態で健康診断を受けていたことが明らかになりました。
この事実は、無所属の月本琢也市議の質問をきっかけに、川崎市教育委員会が公表したものです。市教委健康教育課が今年度、市内167校ある市立小中学校のうち、各区3校ずつ計21校の養護教諭らに聞き取り調査を行ったところ、そのうち2校で胸部を露出した状態で内科健診が行われていたことが確認されました。具体的には、「下着と体操服の両方を脱ぐ」か、「下着を脱いだ上で体操服をめくって診察する」という方法が取られていたといいます。
今回の問題は、単に一部の学校の対応ミスというにとどまらず、学校における健康診断のあり方、子どものプライバシーの尊重、そして医療の正確性という複数の問題が複雑に絡み合った、難しい課題を突きつけています。
文部科学省はすでに「配慮を求める通知」を出していた
この問題を理解するうえで欠かせないのが、2024年1月22日に文部科学省が全国の教育委員会などに対して発出した通知「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について」です。
この通知では、健康診断の際には原則として体操服や下着などの着衣を維持することを求め、健診時には体操服やタオルで身体を覆えるよう環境を整えること、また他の児童生徒から診察が見えないよう個別スペースを確保することなどが具体的に示されました。
文部科学省は2021年にも脱衣を伴う検査における留意点をまとめた事務連絡を出しており、今回の2024年通知はその内容をさらに詳しく具体化したものです。つまり国のレベルでは、子どものプライバシー保護に関する方針はすでに示されていたのです。
にもかかわらず今回の調査で、川崎市内の学校で文科省の指針に沿わない健診が行われていたことが判明しました。実施方法が学校ごとに異なっている現状について、市教委は「全ての学校で調査し、通知を踏まえながら関係団体と協議する必要がある」と応答しています。

大人と子どもで異なる対応——川崎市立病院の場合
この問題を際立たせているのが、同じ川崎市の公的医療機関における対応との対比です。
川崎市立病院での成人女性に対する健診については、市の佐藤佳哉病院局長が市議会で「原則、衣服や下着を着用したまま、服の下から聴診器を当てるなど、プライバシーに配慮した対応をしている」と答弁しています。
成人女性には下着を着けたまま聴診器を入れる対応を「原則」としながら、学齢期の子どもたちには下着を脱がせて診察する——この矛盾は、多くの保護者や支援者から疑問の声を呼んでいます。特に、川崎市立の中学校で女子生徒がブラジャーの着用を認められなかったという事例も明らかになっており、思春期の女子生徒の精神的な負担は決して軽いものではありません。
医療的な必要性との両立は可能か
一方で、学校医や日本医師会などの医療側からは、配慮を最大限行いながらも、一部の検査については着衣での実施が診断精度に影響するという意見もあります。
文科省の2024年通知でも、「特に留意が必要な検査項目」として、脊柱および胸郭の疾病・異常の有無、皮膚疾患の有無、心臓の疾病・異常の有無などが挙げられており、これらについては、「医師が着衣をめくって視触診したり、着衣の下から聴診器を入れたりする場合がある」と明記されています。
川崎市教育委員会も自身のウェブサイトで、「正確な検査・診察に支障のない範囲で、原則、体操服や下着等の着衣またはタオル等により身体を覆い、プライバシーや心情に配慮しながら行う」としつつ、必要に応じて医師が衣服をめくって確認する場合があることを説明しています。
つまり、「完全に着衣のまま」でなければならないという絶対的なルールではなく、あくまで「可能な限り配慮した上で、医療的に必要な範囲に限って最小限の露出を行う」というバランスが求められているのです。学校・学校医・保護者の間で丁寧に共通理解を図ることが、制度の根幹にあります。
今後求められること——「子どもの視点」を中心に
今回の川崎市の事例が明らかにしたのは、国が方針を示しても現場での実施方法が統一されていないという構造的な問題です。学校によって、学校医によって、対応がバラバラであることは、子どもたちに不公平な状況をもたらしています。
文科省の通知もまさにその「共通認識」を求めているものです。あわせて、日頃から子どもたちが自分の身体を守る権利や「嫌だ」と言える大切さを学べるプライベートゾーン教育を充実させ、健診の場でつらい思いをした子どもが安心して打ち明けられる相談窓口を整えることも欠かせません。
まとめ——子どもの「身体の自律性」を守る社会へ
学校の健康診断は、子どもたちの病気を早期に発見し、健康を守るための大切な制度です。その目的は誰も否定しません。しかし、健診の「正確性」と子どもの「プライバシーや心情への配慮」は、対立するものではなく、両立できるはずです。
成人女性にはできる配慮が、なぜ子どもには徹底されないのか——この問いに、私たち社会はきちんと向き合わなければなりません。子どもは小さな大人ではなく、大人と同じかそれ以上に、心と身体の尊厳が守られるべき存在です。
川崎市の今回の問題を一つのきっかけとして、全国の学校でこの議論が深まり、すべての子どもが安心して健診を受けられる環境が整うことを願います。
参考:毎日新聞「下着脱ぎ、上半身露出して健康診断 川崎市立小中学校の2校」(2026年6月22日)、東京新聞「健康診断で胸を露出させ視触診…川崎市立で2校」(2026年6月22日)、文部科学省「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について」(2024年1月22日)、川崎市教育委員会「児童生徒の健康診断について」
