ギョウジャニンニクと思ったら猛毒イヌサフランだった 相次ぐ誤食死亡事故と命を守る見分け方

ギョウジャニンニクとイヌサフランだった 相次ぐ誤食死亡事故と命を守る見分け方 時事・ニュース
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2026年4月下旬、岩手県で痛ましい事故が起きました。知人から「ギョウジャニンニクだ」と言って渡された植物を卵とじにして食べた50代と80代の親子が、食後約1時間で激しい倦怠感などの症状を訴えたのです。その植物の正体は、猛毒を持つイヌサフランでした。

80代の女性はその後回復に向かいましたが、50代の女性は食べてから6日後の4月27日に亡くなりました。植物を渡した知人も「ギョウジャニンニクだと思い込んでいた」と話しており、悪意のある行為ではなく、純粋な「思い込み」が招いた悲劇でした。

この事故は岩手県内で21年ぶりとなる植物性自然毒による死亡事故として記録されています。山菜シーズンの春に、このような事故がなぜ繰り返されてしまうのでしょうか。


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2026年春だけで3人死亡——全国で相次ぐ有毒植物の誤食事故

今春(2026年)に入り、有毒植物の誤食による死亡事故はこの岩手の事例だけではありません。

  • 北海道室蘭保健所管内:80代男性が猛毒のトリカブトの葉を山菜の「ニリンソウ」と間違えておひたしにして食べ、搬送先の病院で死亡
  • 札幌市:70代女性が自宅の庭で栽培していたイヌサフランをギョウジャニンニクと誤って天ぷらにして食べ、死亡
  • 宮崎県小林市:80代男性が観賞用植物のグロリオサの根塊をヤマノイモと間違えて食べ、食中毒で死亡

さらに、誤ってトリカブトを使った料理を提供してしまった飲食店で、60代男性が一時意識不明の重体となる事故も発生しています。

日本農業新聞の報道によると、厚生労働省のデータでは有毒植物(キノコとジャガイモを除く)による食中毒患者は過去5年間で200人にのぼり、うち60歳以上が約6割(125人)を占めています。死亡者は計7人で、そのうち6人が60代以上という深刻な状況です。


なぜベテランでも間違えるのか——ギョウジャニンニクとイヌサフランの「怖い共通点」

今回の事故でとりわけ注目を集めているのが、ギョウジャニンニクとイヌサフランの見た目の酷似です。

ギョウジャニンニクは北海道から近畿にかけての山地・沢沿いに自生する山菜で、春になると地面から細長い葉を伸ばします。独特の強烈なニンニク臭があり、疲労回復や滋養強壮に効果があるとして昔から珍重されてきました。山菜として人気が高く、近年はスーパーでも見かけるようになっています。

一方のイヌサフランは、もともとは観賞用として庭や花壇に植えられる多年草です。秋にピンク色の美しい花を咲かせることで知られていますが、春になると20〜30センチほどの細長い葉を茂らせます。この葉の形や大きさ・色合いが、ギョウジャニンニクと非常によく似ているのです。

しかも、庭に長年イヌサフランを植えていた方が、ある春「そういえば行者ニンニクも生えていたはず」と思い込んで誤食するケースが後を絶ちません。今回の北海道の事故も、自宅の庭で両方を栽培していた女性が取り間違えたことが原因でした。


命を守る「2つの見分けポイント」——においと茎の色を確認

専門家や各保健所が強調しているのが、次の2つのチェックポイントです。

ポイント①:においをかぐ

ギョウジャニンニクの最大の特徴は、強烈なニンニクのような香りです。葉をちぎったり軽く握ったりすると、すぐにはっきりとしたニンニク臭がします。これはギョウジャニンニクが含む「アリシン」という成分によるもので、むしろニンニク以上に強い香りがすると言われています。

イヌサフランには、このような香りがまったくありません。においがなければ、ギョウジャニンニクではないと考えましょう。

ポイント②:茎の根元の色を見る

ギョウジャニンニクの茎の根元に近い部分は、赤紫色の薄皮に覆われています。これが重要な識別サインです。

一方、イヌサフランの茎の根元は緑色で、赤紫色の特徴がありません。植物を採取する際は、必ず根元まで確認するクセをつけてください。

この2点さえ押さえておけば、多くの誤食事故を防ぐことができます。


加熱しても毒は消えない——イヌサフランに含まれる「コルヒチン」の恐ろしさ

イヌサフランが特に危険な理由の一つが、その毒性の強さです。植物全体に「コルヒチン」という有毒成分を含んでおり、根・茎・葉・球根のいずれの部位も危険です。

コルヒチンを摂取すると嘔吐・下痢・腹痛・皮膚の知覚減退・呼吸困難などの症状を引き起こし、重篤な場合は死亡することがあります。さらに恐ろしいのは、加熱調理しても毒性が失われないという点です。卵とじ・天ぷら・おひたしなど、どのように調理しても毒は残り続けます。

北海道内だけで見ても、過去10年間(2017〜2026年)の有毒植物による食中毒22件のうち、約半数の11件がイヌサフランによるもので、被害を受けた16人のうち8人が命を落としています。決して珍しい事故ではなく、山菜シーズンになるたびに繰り返されている深刻な問題です。


専門家が呼びかける「絶対ルール4か条」

東京都薬用植物園の中村耕主任研究員は、「高齢になると体力が落ち、毒成分への抵抗が弱まる傾向がある」と指摘した上で、少しでも疑問を感じたら次の4つのルールを徹底するよう強調しています。

  1. 採らない
  2. 食べない
  3. 売らない
  4. 人にあげない

今回の岩手の事故は、まさにこの「人にあげない」というルールが守られていれば防げたかもしれない悲劇です。善意で山菜を分け合う文化は素晴らしいものですが、「たぶんこれだろう」という曖昧な知識で他人に植物を渡すことは、思わぬ形で命を危険にさらすことになりかねません。

同様に注意したい植物の組み合わせとして、「スイセン」と「ニラ」、「トリカブト」と「ニリンソウ」、「グロリオサの球根」と「ヤマノイモ」などがあります。いずれも食用と有毒植物の見た目が非常に似ているため、自信を持って判断できない場合は絶対に口にしないことが大切です。


山菜採りを楽しむために——安全に楽しむための心がけ

春の山菜採りは、季節を感じる豊かな文化です。ギョウジャニンニクをはじめとした山の恵みを安全に楽しむために、以下の点を心がけてみてください。

まず、図鑑や専門家の知識をしっかり確認する習慣をつけましょう。スマートフォンの植物識別アプリも参考になりますが、最終的には実物の香りや形状をしっかり確かめることが重要です。

次に、庭にイヌサフランなど有毒植物を植えている場合は、食用植物と明確に区別して管理することが求められます。スペースを分け、ラベルをつけるなどして混同しないようにしましょう。

また、今年は熊の出没件数が例年の2倍以上にのぼっているとも報告されています(環境省、2026年2月末時点で前年同時期の約2倍・735件)。山菜採りに出かける際は、有毒植物への注意と合わせて、熊よけスプレーの携帯など安全対策も忘れずに。

知識は命を守る最強の道具です。「これは大丈夫だろう」という思い込みを一度手放し、山の恵みを安全に、そして長く楽しんでいただければと思います。

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