2025年5月、茨城県内で飼い猫(メス、1歳)が重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスに感染し、発症後数日で死亡したことが確認されました。この事例は、関東地方で初めてのペット由来陽性例とみられ、マダニとペットを介した人獣共通感染症リスクが関東にも広まり始めている可能性が浮上しています。

SFTSとはどんな病気?
基本情報と感染経路
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、マダニを介して広がるウイルス性疾患のひとつで、野外で活動する人や動物に感染のリスクがあります。主な感染経路はマダニに刺されることですが、発症した動物や人の血液・体液・飛沫・排泄物などとの接触による感染も報告されています。感染した猫や犬に咬まれたり、引っかかれたりすることでウイルスが広がる可能性もあり、注意が必要です。
症状と影響
対象 | 潜伏期間 | 主な症状 | 重症化のリスク |
---|---|---|---|
人 | 6~14日 | 発熱、倦怠感、嘔吐、下痢など | 中程度〜高い |
猫 | 数日 | 発熱、元気がない、食欲不振、嘔吐、黄疸など | 非常に高い |
犬 | 同上 | 軽度の症状または無症状もある | 中程度 |
猫や犬の発症は急速に進行する傾向があり、特に猫では短期間で重篤になる場合があります。人も含め、できるだけ早期に異常に気づいて対処することが大切です。

獣医師の安全と感染拡大の兆候
近年、ペットに関連するSFTS感染が報告されるなか、動物医療従事者にも注意が求められています。
三重県では、SFTSウイルスに感染した猫を診療していた獣医師が発症し死亡した事例が報告されました。この獣医師はマダニに刺された痕はなかったものの、猫との濃厚接触が原因と強く疑われています。
防護具の使用や感染症に関する事前知識が重要視されています。
関東でも油断禁物!感染拡大の兆候
これまでSFTSは西日本を中心に報告されていましたが、ここ数年で中部・関東にも感染が広がってきており、全国的な注意が必要とされています。ペットを飼っているご家庭でも、地域に関わらず予防意識を高めることが求められます。

感染症を媒介するマダニとは?
マダニは、私たちの身近な環境から山林まで、幅広い場所に生息する吸血性のダニです。その生態には特徴的なライフサイクルと活動パターンがあります。
1. 生息場所
マダニは主に屋外に生息しています。
- 草むら、藪、森林、河川敷:野生動物(シカ、イノシシ、野ウサギなど)が多く生息する自然豊かな場所に特に多く見られます。葉の裏や茎の先端などに潜んで、近くを通る動物や人に取り付く機会をうかがっています。
- 民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道:意外にも、私たちの生活圏に近い場所にも生息しています。野生動物が持ち込んだり、自然環境が残っている場所に発生することがあります。
- 公園や庭園:都市部の公園や河川敷など、人が頻繁に訪れる場所でも見つかることがあります。
通常は地面から1.5m程度の高さまでの草木に潜んでいます。幼ダニはより低い場所(30cm以内)に、若ダニは1m未満、成ダニは1.5m以内といったように、成長段階によって潜む高さが異なる場合もあります。
2. 大きさ
- 吸血前:種類にもよりますが、成虫で体長3〜8mmほどで、肉眼で確認できます。
- 吸血後:吸血して満腹になると、体が10〜20mmにも膨らみ、小豆のような形になります。
3. ライフサイクル
マダニの一生は、卵 → 幼ダニ → 若ダニ → 成ダニという段階を経て成長します。各段階で吸血と脱皮を繰り返します。
- 卵:吸血して満腹になったメスの成ダニは、宿主から離れて地上に落ち、数千個もの卵を産みます。産卵を終えると、メスは生涯を終えます。
- 幼ダニ:卵から孵化した幼ダニ(体長約1mm)は、小型の動物(ネズミなど)に寄生して2〜5日間吸血し、地上に落下します。
- 若ダニ:脱皮して若ダニ(体長約2〜3mm)になると、再び別の宿主(中型の動物など)に寄生して3〜7日間吸血し、地上に落下します。
- 成ダニ:さらに脱皮して成ダニ(体長3〜8mm)になると、大型の動物(シカ、イノシシ、人間など)に寄生し、数日から長いものでは10日間以上吸血します。十分に吸血すると再び地上に落下し、メスは産卵して一生を終えます。
このように、ほとんどのマダニは幼ダニ、若ダニ、成ダニの各段階で異なる宿主から吸血する「3宿主性マダニ」です。マダニは、吸血する際に唾液腺物質を宿主に注入します。この唾液には血液が固まるのを防ぐ成分や麻酔作用のある成分が含まれているため、咬まれても気づかないことがほとんどです。
また、マダニは数ヶ月から数年は何も食べずに生きられるほど、飢餓に非常に強い特徴があります。
4. 活動時期
マダニは1年を通して活動していますが、特に気温が上昇し、湿度が高くなる春から秋(3月〜11月頃)にかけて活動が活発になります。梅雨時と秋の2回が活動のピークと言われることもあります。
ただし、種類によっては冬でも活動するマダニもいるため、年間を通して注意が必要です。特に近年は気候変動の影響で温暖化が進み、マダニの生息地域が拡大している可能性も指摘されています。
5. 媒介する病気
マダニは、吸血する際に病原体を媒介することがあり、人間や動物に様々な感染症を引き起こす可能性があります。代表的なものには、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、ライム病、ダニ媒介性脳炎、バベシア症などがあります。
これらの病気は重症化すると命に関わることもあるため、マダニの生息環境に立ち入る際は、十分な予防対策が重要です。
ペットのマダニ予防はどうすればいい?
1. 定期的なマダニ予防薬の使用
マダニからペットを守るために最も効果的な方法は、動物病院で処方されるマダニ予防薬の使用です。首の後ろに滴下するスポットタイプや、内服するタイプがあります。月1回の投与を習慣にすることで、マダニの付着・吸血を防ぐことができます。市販品ではなく、獣医師と相談しながらペットに合ったものを選ぶのが安心です。
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2. 散歩コースの見直しと外出後のチェック
草むらや茂み、公園の脇などはマダニの生息域です。ペットがこうした場所に入らないように注意し、散歩後には毛や皮膚のチェックを行いましょう。耳の後ろ、首元、足の付け根、お腹まわりなど、マダニが好んで付く部位を重点的に確認してください。
3. グルーミングと衛生管理
こまめなブラッシングやシャンプーもマダニ対策になります。特に長毛種の猫や犬は毛の中にマダニが隠れやすいため、グルーミングを習慣化することで早期発見・早期対処につながります。
4. 室内でも油断しない
ペットが外に出ていなくても、飼い主の衣服や靴に付着したマダニが家の中に入り込むこともあります。玄関、ベランダ、植木鉢の周囲などは定期的に掃除を行い、屋内環境を清潔に保つことが大切です。
ペットと家族を守るために今できること
SFTSという言葉に過剰に不安を感じる必要はありませんが、正しく知り、備えることはとても大切です。マダニはどこにでもいる可能性があるため、普段の生活のなかで少しの注意を払うだけでも大きな予防になります。
- ペットの健康チェックを習慣にする
- マダニ予防薬を定期的に使用する
- 散歩のあとには被毛チェックを欠かさない
- 必要に応じて動物病院で相談する
こうした対策を行うことで、ペットと飼い主の健康を守りながら、安心して季節のレジャーを楽しむことができます。