東京都中野区にある商業施設「中野ブロードウェイ」の時計店で、2億円相当の高級腕時計が盗まれる事件が起こりました。
警視庁は事件から2日後、チリ国籍の男2人を窃盗容疑で逮捕しています。今回は、事件の経緯や中野ブロードウェイという施設の特徴、なぜこの店が狙われたと見られるのかを、これまでに分かっている情報をもとにまとめます。
中野ブロードウェイ腕時計窃盗事件の経緯
事件が起きたのは2026年8月25日午前11時50分ごろ。中野ブロードウェイ1階にある時計専門店「TIMEWALKER」に男2人が押し入り、入り口付近のショーケースをハンマーのようなもので割って、腕時計4本を持ち去りました。
盗まれたのは「リシャール・ミル」3本と「パテック・フィリップ」1本で、販売価格の合計は約2億円にのぼるとみられています。犯行時間はわずか10秒ほどだったと報じられており、店内にいた従業員5人にけがはありませんでした。
犯行後、男の1人は電動キックボードで、もう1人は徒歩で現場から走り去ったとされます。事件は施設の警備会社からの110番通報で発覚し、警視庁中野署が捜査を始めました。
チリ国籍の容疑者2人の逮捕までの流れ
逮捕されたのは、チリ国籍のピニャ・グスマン・ジェレミー・パオロ容疑者とマンサーノ・ケサダ・ボリス・アレクシス容疑者で、いずれも20代から30代です。2人は事件発生の2日後にあたる8月27日午後、大阪市内の民泊施設に潜伏しているところを捜査員に確保されました。確保時には、盗まれたものと同じブランドの腕時計1本を所持していたということです。
取り調べに対し、ピニャ・グスマン容疑者は自分が盗んだのは1本のみだとして容疑を一部否認しています。一方でマンサーノ・ケサダ容疑者は容疑を認め、時計を売却して得た金を持って母国に戻るつもりだったという趣旨の説明をしているとされます。
中野ブロードウェイとは?
「中野ブロードウェイ」は、JR中野駅から徒歩数分の場所にある複合商業施設です。もとは1966年に開業した高級マンション兼商業ビルで、現在は雑貨店、フィギュア専門店、古書店、アイドルグッズ店などが密集する場所として知られています。
漫画・アニメ・特撮関連のグッズを扱う店が集まっていることから、「サブカルチャーの聖地」として国内外から多くの観光客やコレクターが訪れる施設になっています。近年は外国人観光客の来館も目立ち、SNSなどを通じて海外にもその存在が知られるようになりました。
中野ブロードウェイに高級時計店が集まる理由
中野ブロードウェイには、被害に遭った店舗以外にも高級腕時計を扱う専門店が複数出店しています。ヴィンテージ品やレアモデルを取り扱う店舗も多く、1本で数千万円を超える時計を扱う店も珍しくありません。こうした「時計の聖地」とも呼べる集積は、一朝一夕にできたものではなく、施設の歴史に理由があります。
サブカルの磁場と相性の良さが、まず挙げられます。1980年代以降、中野ブロードウェイには漫画やアニメなどのマニア向け専門店が集まり、国内外から価値にこだわる客層が訪れる場所として知られるようになりました。この「目の肥えた客が集まる環境」が、ヴィンテージ品や高級腕時計に対する需要と合致したとされます。
そのきっかけとなったのが、パイオニアの存在です。戦前から続く写真材料商をルーツに持つフジヤグループの関連店として、1987年にメンズウォッチ専門店「ジャックロード」がオープンしました。これが中野ブロードウェイにおける高級時計店の先駆けとなります。
その後、同業者の連鎖が起こりました。ジャックロードの成功や、同店で経験を積んだ人材が独立して周辺に店を開いた結果、国内外の並行輸入品や中古・アンティーク時計を扱う店舗が次々と誕生し、現在のような専門店の集積地が形成されていったのです。
こうした経緯から、中野ブロードウェイは一般的な観光施設としての顔と、高額な時計や貴金属が取引される市場としての顔を併せ持つ場所になりました。
なぜ狙われたのか
被害に遭った店のホームページには、5000万円を超える時計が複数掲載されていたと報じられています。高額品が店頭のショーケースに並べられているという状況は、換金性の高い商品を短時間で持ち出そうとする側にとって狙いやすい条件だったと考えられます。
また、リシャール・ミルやパテック・フィリップといったブランドは、世界的に流通量が限られ、中古市場でも高値で取引されることで知られています。盗品であっても海外に持ち出して売却すれば足がつきにくいと考えられた可能性があり、今回の事件でも容疑者の一人が「時計を売って母国に持ち帰るつもりだった」と説明している点は、このような換金のしやすさを見込んだ動機をうかがわせます。
計画的犯行か
報道によると、2人は事件の4日前に来日して都内の民泊施設に滞在し、事件の2日前には現場の下見をしていたとみられています。犯行はハンマーでショーケースを割ってから逃走するまでわずか10秒ほどで完了しており、無駄のない動きだったことがうかがえます。
さらに、逃走の際に一方が電動キックボードを利用するなど、あらかじめ経路や移動手段を用意していた様子も見られます。捜査関係者の見立てとして、周到に準備された計画的な犯行だった可能性が指摘されています。事件から逮捕までの2日間で、警視庁は防犯カメラ映像の解析などをもとに容疑者の足取りを追い、大阪での身柄確保に至りました。
まとめ
今回の事件は、白昼の商業施設で起きた大胆な窃盗として大きく報じられました。高額品を扱う店舗の防犯体制と、短時間で犯行を終えて逃走する手口への対策は、今後同様の被害を防ぐうえで課題として残りそうです。警視庁は余罪の有無や、盗まれた残り3本の腕時計の行方についても、引き続き捜査を進めるとみられます。

