公開中の映画『トイ・ストーリー5』の本編映像が、X(旧ツイッター)に丸ごと流出するという事件が起きました。
被害額は最大で6億円規模ともいわれ、映画業界に大きな衝撃を与えています。今回は、この事件の経緯と被害の大きさ、そして「無断投稿した人」だけでなく「それを見ただけの人」にどんな法的リスクがあるのかを、これまでの判例も交えながら整理します。
『トイ・ストーリー5』流出事件の経緯
7月3日に日本で劇場公開された『トイ・ストーリー5』は、おもちゃたちの世界を描く人気シリーズの最新作で、アメリカでは6月19日にひと足先に公開されていました。
そんな中、7月9日正午ごろ、Xに1時間42分に及ぶ本編映像がまるごと投稿されているのが確認されました。映画館での盗撮のような粗い映像ではなく、字幕や吹替こそないものの、高画質な映像データそのものが流出した可能性が高いとされています。投稿者のアカウント所在地はフィンランドとなっていたということです。
問題の投稿は同日夕方には著作権者からの申し立てにより閲覧できない状態となりましたが、それまでのわずか約7時間半で、再生回数はおよそ150万回に達していました。さらに、同じアカウントが別の映画『Michael/マイケル』の本編も同様に流出させていたことも判明しています。
被害額はなぜ「6億円」なのか
今回の流出による被害額は、約6億円規模にのぼると試算されています。この金額の根拠となっているのが、過去の「ファスト映画」をめぐる裁判です。
映画を10分程度に編集してアップロードする、いわゆる「ファスト映画」を無断投稿した被告に対して、大手映画会社やテレビ局などが損害賠償を求めた訴訟では、東京地裁が著作権侵害を認め、約5億円の支払いを命じる判決を下しました。この裁判で原告側は、YouTubeなどで映画を一時的にストリーミング視聴(レンタル)する際の価格を「1視聴あたり400円」と主張していました。
この400円という単価を、今回の『トイ・ストーリー5』の再生回数150万回に当てはめると、被害額はおよそ6億円規模になる計算です。もちろんこれはあくまで単純計算であり、実際の損害賠償額が裁判で認定される金額とは異なりますが、それでも違法アップロードがもたらす経済的損失の大きさを示す数字として注目されています。
無断投稿は何罪に問われるのか
映画の著作物は著作権法によって厳重に保護されています。権利者の許可を得ずにSNSへ投稿する行為は、著作権法違反となる可能性が極めて高いといえます。本編の一部を切り取って投稿した場合であっても、無断投稿である以上は大きな問題になり得ます。
とくに今回のように、映画一本をまるごと不特定多数が視聴できる状態にする行為は悪質性が高いと判断されやすく、最大で10年以下の拘禁刑、または1000万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。刑事告訴や警察による捜査の対象となってもおかしくないケースといえるでしょう。
「見ただけ」「リポストしただけ」は犯罪になるのか
今回の事件を受けて、ネット上では「タイムラインに流れてきた動画を、ただ見てしまっただけでもアウトなのか」という不安の声も広がりました。
結論からいえば、SNS上でストリーミング再生し、画面上で視聴するだけであれば、通常は違法にはなりません。問題になるのは「保存」や「拡散」の行為です。
違法にアップロードされた動画だと知りながら、自分の端末にダウンロードした場合は、複製権の侵害として違法になる可能性があります。たとえ他人に見せるつもりのない、完全に私的な利用目的であっても例外ではありません。現在上映中の映画の違法動画だと知りながら保存した場合、2年以下の拘禁刑、または200万円以下の罰金の対象になり得るとされています。
また、単に「リポスト」しただけであれば直ちに違法とまではいえないものの、それが違法な動画だと分かっていながら積極的に拡散したり、「みんなも見て」と視聴を呼びかけたりする行為は、法的責任を問われる可能性があります。
画面録画や音声の録音についても、複製権の侵害にあたるおそれがあるため注意が必要です。
違法動画をめぐる行為ごとの法的リスクを整理すると、以下のようになります。
| 行為 | 違法性 | 想定される罪・罰則 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 無断アップロード(投稿) | 著作権法違反となる可能性が極めて高い | 10年以下の拘禁刑、または1000万円以下の罰金、あるいはその両方(著作権法119条1項) | 本編の一部のみでも問題になりうる。悪質な場合は刑事告訴・捜査の対象に |
| 視聴のみ(ストリーミング再生) | 通常は違法にならない | なし | 画面上で再生して見るだけであれば、原則として複製にあたらないため処罰対象外 |
| ダウンロード(保存) | 違法と知りながら行うと違法 | 2年以下の拘禁刑、または200万円以下の罰金、あるいはその両方(著作権法119条3項1号) | 私的使用目的でも対象。親告罪のため権利者の告訴が必要。「知らなかった」場合や重大な過失がない場合は対象外 |
| リポスト(拡散) | リポスト自体は直ちに違法とはいえない | 違法性を認識しながら拡散・呼びかけを行うと法的責任を問われる可能性 | 「みんなも見て」等、視聴を積極的に呼びかける行為はリスクが高まる |
| 画面録画・録音 | 違法にアップロードされたものと知りながら行うと違法になりうる | ダウンロードと同様、複製権侵害として2年以下の拘禁刑、または200万円以下の罰金の対象になりうる | 保存行為の一種として扱われる |
ポイントは、「見るだけ」は原則セーフ、「保存」した瞬間にアウトになりうるという点です。
まとめ ― 好奇心の一押しが招くリスク
SNSの普及によって、誰もが一瞬で情報や動画を拡散できる時代になりました。しかしその手軽さの裏には、想像以上に重い法的責任が潜んでいます。
今回の『トイ・ストーリー5』流出事件は、投稿者本人の刑事責任はもちろん、動画を見た側にも「保存」「拡散」というひと手間を加えた瞬間に法的リスクが生じることを改めて示しました。話題の動画がタイムラインに流れてきても、少しでも違法性が疑われる場合は、再生ボタンや保存ボタンを押す前に一呼吸置いて、冷静に判断することが求められます。

