世界遺産・高野山の宿坊が、外国人観光客の急増を追い風に急速な高級化を進めています。
露天風呂や庭園を備えた宿坊が登場し、1泊20万円を超える価格帯も珍しくなくなりました。その一方で、複数の宗教法人が大阪国税局の税務調査を受け、総額1億円を超える申告漏れを指摘されていたことが明らかになっています。参拝と修行の場であったはずの宿坊で、いま何が起きているのでしょうか。
十数法人の調査で半数超に申告漏れ
高野山(和歌山県高野町)では、約50の宗教法人が宿坊を運営しています。大阪国税局はこのうち十数法人を対象に税務調査を実施し、半数以上の法人で総額1億円超の申告漏れがあったことを把握しました。追徴税額は約6000万円にのぼるとみられています。
背景にあるのは、宗教法人特有の会計の仕組みです。お布施や賽銭、戒名料といった宗教活動に関わる収入は非課税ですが、宿坊のように宿泊客からお金を受け取る事業は営利事業とみなされ、法人税などの課税対象となります。
この非課税部門と課税部門の区分があいまいなまま所得を申告していたケースが、今回の指摘につながったとみられます。なかには、住職の家族が私的に使った支出が「隠し給与」として扱われていた事例もあったと伝えられています。
国税当局が高野山一帯の宗教施設に対してまとまった調査に乗り出すのは異例のことで、翌年度についても複数の法人で同様の申告漏れが確認されているといい、調査は今後も継続する方針とみられます。
世界遺産登録から続く外国人宿泊者数の伸び
高野山は弘法大師・空海が約1200年前に開いた真言密教の聖地で、山上盆地には総本山・金剛峯寺をはじめ117の寺院が立ち並びます。平成16年(2004年)に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界文化遺産に登録されて以降、外国人宿泊者数は右肩上がりで増え続けてきました。
和歌山県のまとめによると、令和元年に外国人宿泊者数は初めて10万人を突破。新型コロナウイルス禍で落ち込んだものの、直近では前年比10%増の11万7512人となり、過去最多を更新しています。
修行体験や精進料理といった日本文化ならではの魅力が、文化的な体験を好む欧米の旅行者に評価されている形です。いまでは宿泊者全体の約6割を欧米などの外国人が占めるまでになりました。
「ドル箱」化する宿坊ビジネスとSNSの反発
こうした人気の高まりとともに勢いを増しているのが、インバウンド需要を取り込む宿坊ビジネスです。大手宿泊予約サイトを見ると、露天風呂や手入れの行き届いた庭園を備え、宿泊代が1泊20万円を超える宿坊も登場しており、内容としては高級旅館とほとんど変わらないサービスを提供する寺院もあります。
信仰の場であるはずの宿坊がインバウンドマネーの「ドル箱」と化している実態に対し、SNS上では「観光ビジネス化して高すぎる」「拝金主義にうんざりする」といった厳しい声が上がっています。今回の申告漏れの発覚は、そうした批判にさらに拍車をかける形となりました。
予約が取りづらく 日本人宿泊者は減少傾向に
価格の上昇や予約の取りづらさを背景に、日本人宿泊者数は前年に比べて減少したとされています
。これは高野山に限った話ではありません。観光庁のインバウンド消費動向調査によれば、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4500億円を超え、過去最高を更新しました。費目別では宿泊費の割合が最も高く、全体の36%を超えています。
一方で国内の調査機関の分析では、宿泊需要の稼働率回復や人手不足を背景に宿泊費はコロナ禍前の1.3倍近い水準まで上昇しており、これが日本人の国内旅行需要を押し下げている可能性が指摘されています。高野山の宿坊で見られる現象は、こうした全国的な「宿泊費の二極化」の縮図とも言えそうです。
まとめ
高野山の宿坊は、世界遺産としてのブランド力とインバウンド需要を背景に、参拝の場から高付加価値の宿泊施設へと姿を変えつつあります。その裏で明らかになった申告漏れの問題は、急成長するビジネスに会計上の仕組みが追いついていなかった実態を浮き彫りにしました。信仰の場としての在り方と、観光ビジネスとしての収益確保をどう両立させるか。高野山だけでなく、多くの寺社や宿泊施設が向き合うことになるテーマだといえます。
