2026年7月6日、飲食店を中心にクレジットカードの決済代行サービスを提供してきた株式会社全東信(大阪市中央区)が、大阪地方裁判所から破産手続き開始の決定を受けました。
負債総額は帝国データバンクの調べで約1259億円にのぼり、今年最大級の倒産となっています。さらに8日には、少なくとも2万店を超える契約店舗に売上金が入金されていない実態が判明し、飲食店の間で不安が広がっています。
本記事では、全東信とはどのような会社だったのか、なぜ破産に至ったのか、そして飲食店にどのような影響が及び、今後どう対応すべきかを整理します。
全東信とはどんな会社か
全東信は1987年、大阪・ミナミの歓楽街の飲食店や風俗店経営者らによる相互扶助組織を前身として設立され、2006年に株式会社化されました。
主力事業は、飲食店を中心とする加盟店のクレジットカード売上代金を、カード会社からの入金より先に立て替えて支払う「早期決済サービス」で、手数料収入を得る仕組みでした。
通常の月1回払いに対し、業界に先駆けて週2回・月6回という短いサイクルで現金化できる点が支持され、資金繰りに余裕のない個人経営の飲食店にとって「駆け込み寺」的な存在になっていたといいます。2018年時点で契約店舗数は20万店を超えていたとされ、決済代行業者として全国有数の規模を誇っていました。
なぜ全東信が破産に至ったのか
コロナ禍による業績急落
2020年3月期には年収入高約80億円を計上していましたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言などの影響で加盟店の飲食店が時短・休業を余儀なくされ、2021年3月期の年収入高は約50億円まで落ち込みました。早期入金の仕組みを支えるための多額の借入金があったため、取扱高の急減で金利負担が重くのしかかったことも、経営悪化に拍車をかけたとみられています。
名義偽装事件による信用失墜
2024年1月には、本来なら加盟店契約の審査が通らない飲食店について、社員が他人名義で契約を結んでいたとして逮捕される事件が発生し、同社も組織犯罪処罰法違反の疑いで書類送検されました。これを機に信用不安が表面化し、資金調達が一段と難しくなったことが、破産に至る直接的な引き金になったと報じられています。
20年にわたる粉飾決算の疑い
追い打ちをかけたのが、東京商工リサーチが8日に公表した調査です。業績悪化を隠すため、少なくとも20年前から決算を粉飾していた疑いがあり、預金残高の水増しや架空債権の計上など複数の手口が確認されたといいます。
帳簿上は2026年3月期に約24億8000万円の黒字だったものの、粉飾を是正すると実質的には約605億円の債務超過だった可能性があるとされています。これほど長期かつ大規模な不正が続いていたことは、決済代行業界における資金管理体制の甘さを浮き彫りにしたといえます。
全東信破産の飲食店への影響 未入金は2万店超か
破産管財人によると、破産手続きの開始に伴って全東信の決済サービスは中止され、当初の期限内での立て替え払いはできなくなりました。
報道によれば、7月1日以降に発生した売上金は店舗側に支払われないままとなっており、少なくとも2万店を超える契約店舗が未入金の状態にあるとみられます。
浦安市で飲食店を営む経営者は、7月分の売上金はもう取り戻せないのではと諦めており、売上の6割がカード決済だったことから厳しい状況にあると語っています。業界団体の日本飲食団体連合会(食団連)も緊急声明を出し、全東信の端末使用の即時停止、未入金額の集計、代替決済手段の早急な導入を呼びかけています。
全東信破産 金融機関にも波及する影響
全東信への融資を行っていた金融機関でも、貸倒れの恐れを公表する動きが相次いでいます。
三十三銀行を傘下に持つ三十三フィナンシャルグループは、全東信への融資50億円のうち担保や引当金で保全されていない約27億円について、今期第2四半期に引当処理を行うと発表しました。同社は業績予想への変更はないとしています。
このほか、東和銀行が貸出金80億円のうち約58億6000万円を、大光銀行が15億円、高知銀行が12億円、島根銀行が8億円の融資についてそれぞれ取り立て不能または遅延の恐れがあると公表しており、影響は地方銀行にも広がっています。金融庁も、全東信の破産が地銀や信用金庫に与える影響について調査に乗り出したと報じられています。
今後の見通しと飲食店が取るべき対応
現時点で、未入金分は法律上の破産債権として扱われ、通常の期限どおりの弁済は期待できない状況です。食団連は支援策として、日本政策金融公庫のセーフティネット貸付によるつなぎ資金の確保、信用保証協会の別枠保証「セーフティネット保証1号」の活用、経営セーフティ共済による共済金貸付などを案内しています。
ただしセーフティネット保証1号の適用には全東信が国の「指定事業者」に指定される必要があり、7月8日時点では中小企業庁は指定の可否について情報収集中としています。飲食店側は、未入金額を証明する売上明細や契約書などの資料を早めに整理し、破産管財人室が定める債権届出期間内に届け出を行うとともに、PayPayなど別契約の決済手段や他の決済代行会社への乗り換えを急ぐことが求められます。
まとめ
全東信の破産は、コロナ禍による業績悪化、名義偽装事件による信用失墜、そして20年にわたる粉飾決算の疑いという複数の要因が重なった末の結果といえます。負債総額は1000億円を超え、今年最大の倒産となりました。飲食店にとっては未入金の売上金という直接的な打撃に加え、決済インフラそのものを失うという二重の影響が生じています。今後は破産管財人による財産状況の報告や、セーフティネット保証の指定動向を注視しつつ、早期の資金繰り対策と決済手段の切り替えを進めることが重要です。
