2026年6月2日の夜、電動キックボードシェアサービス「LUUP」を利用していた62歳の男性が、東京・北区の交差点で軽貨物車と衝突し、命を落としました。
道路交通法改正後、特定小型原動機付自転車として公道を走るLUUPにとって、都内での初めての死亡事故となりました。さらに、この事故が起きたのは、運営会社の株式会社Luupが利用者への死亡補償金を最高1,000万円から500万円へと半額に引き下げてから、わずか約6週間後のことでした。
事故はどのように起きたのか——北区王子、夜の変則交差点
事故が発生したのは、6月2日の午後10時10分ごろ。東京都北区王子3丁目の、複数の道路が交わる変則5差路の交差点でした。夜間という視界が限られるなかで、29歳の会社員が運転する軽貨物自動車と、62歳のアルバイト男性が乗るLUUP(特定小型原動機付自転車)が衝突。男性は事故から約1時間後に死亡が確認されました。
事故の状況は「右直事故」の形態と見られています。もともと同じ方向に走行していた2台でしたが、軽貨物車が交差点で右折しようとしたところ、LUUPがそのまま直進したことで衝突に至ったと報じられています。
また警察は、LUUPが走行していた横断帯が「片側通行」であったか「相互通行」であったかを確認中とのことです。もし片側通行の横断帯を逆方向から進入していたとすれば、LUUPが「逆走」していたことになり、過失の有無を含め、捜査の行方が注目されます。
現場をよく知る地元の加藤みき北区議は「あの交差点は非常に危険。4月から自転車も車道を走る人が増えており、さらに複雑になっている」と指摘します。近隣に住む30代の男性も「LUUPが自転車を追い抜いていくこともあり、怖いと感じることがある」と語っています。
法改正後、都内初の死亡事故——特定小型原付の制度とは
2023年7月の道路交通法改正により、電動キックボードなどは「特定小型原動機付自転車(特定原付)」という新しい区分に位置づけられました。この制度の大きな特徴は、16歳以上であれば運転免許が不要で利用できる点です。その一方で、最高速度は時速20km以下に制限され、車道の左側走行が原則とされています。
しかし、この制度には開始当初からさまざまな懸念が指摘されていました。警察庁のデータによると、2025年11月末時点における特定原付の検挙件数は3万4,804件に達しており、そのうち通行区分違反が約6割、信号無視が約2割を占めています。ルールを十分に理解していないまま利用するユーザーが少なくないことを示すデータです。
さらに注目すべきは、事故の約9割がLUUPのようなレンタル(シェアリング)車両で発生しているという点です。気軽に乗れることが普及の強みである一方で、利用者の安全意識やルールの習熟度にばらつきがある現状が、こうした数字にも反映されています。
今回の事故は、株式会社Luupとしても法改正後では2件目の死亡事故にあたり、公道での死亡事故としては初めてのケースです(1件目は2022年、法改正前の実証実験中に駐車場で起きた転倒事故)。
補償金を半額に——なぜこのタイミングで?
今回の事故をめぐって、もう一つ大きな問題が浮かび上がっています。株式会社Luupは2026年3月19日に補償内容の改定を発表し、4月20日から適用を開始しました。
改定の主な内容は次の通りです。
- 搭乗者が死亡・後遺障害となった場合の補償:最高1,000万円 → 最高500万円(半額に減額)
- 通院保険金日額:2,000円 → 1,500円(減額)
- 入院保険金日額:3,000円(変更なし)
なお、第三者への賠償責任保険(対人・対物)については変更はなく、電動キックボードの場合は引き続き無制限の補償が維持されています。
この改定が公表されたのは4月——ちょうど自転車の交通違反に反則金を科す「青切符」制度の運用も始まり、車道を走る自転車が急増したタイミングです。交通環境がより混雑するなかで、なぜ利用者への補償を下げたのか。多くの疑問の声があがりました。
この点について株式会社Luupは、「補償額の改定は定期的な見直しのなかで実施したものであり、特定の法改正や外部事象を直接のきっかけとしたものではない」と説明しています。

発表は事故から1週間後——対応姿勢に広がる批判
今回の事故を受けて、LUUPの対応姿勢にも批判が集まっています。株式会社Luupが公式サイトに声明を掲載したのは、事故から1週間が経過した6月9日のことでした。しかも発表の見出しはわずか「お知らせ」の4文字のみで、SNS上では「誠意が感じられない」「もっと迅速に対応すべきでは」といった声が多数上がりました。
同社は報道を踏まえて「正確な情報提供の観点から、このタイミングでお知らせした」と説明していますが、代表取締役のSNSアカウントや公式Xアカウントからも事故後しばらく具体的な言及はなく、世論の不信感を高める結果となりました。

電動キックボードは都市交通の未来か、リスクか
LUUPは現在、東京23区全区にポートを展開するなど急速に普及が進んでいます。免許不要で気軽に利用でき、渋滞を気にせず短距離移動できる「ラストワンマイル」の移動手段として、都市交通における役割への期待は小さくありません。
しかし今回の事故は、そのビジネスモデルが抱える課題を改めて浮き彫りにしました。
- ヘルメットの着用が任意であること(義務ではない)
- 免許不要のため、交通ルールの習熟度に個人差が大きいこと
- 夜間や複雑な交差点での視認性・安全確認の難しさ
- 補償内容の変更が利用者に十分に周知されていない懸念
「もう廃止にすべきだ」という声がネット上でも再燃していますが、問題はサービスの存廃だけではなく、いかに安全な運用環境を整備するかという点にあるとも言えます。
今、利用者に求められること
電動キックボードを利用する際には、改めて以下のルールを確認しておきたいところです。
- 車道の左側走行が原則(歩道走行は原則禁止)
- 信号遵守・一時停止の徹底
- 夜間走行時はライトの点灯
- ヘルメットの着用(任意だが、身を守るために強く推奨)
- スマートフォン等の「ながら運転」は禁止
命を失ってからでは取り返しがつきません。利便性と安全は、決してトレードオフであってはならないのです。
まとめ——問われるのは企業の誠実さと制度の実効性
今回の悲しい事故は、急速に普及した電動キックボードの安全対策が、社会の実態に追いついていないことを改めて示しました。補償金の引き下げというタイミングの悪さ、発表の遅れと表現の淡白さ、そして増え続ける違反件数——。
株式会社Luupには今こそ、言葉ではなく行動で安全への本気度を示すことが求められています。同時に、行政や警察による制度面での見直し、そして利用者一人ひとりの意識向上もまた不可欠です。
亡くなられた男性のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
参考:Luup公式発表(2026年6月9日)、ITmedia NEWS、Yahoo!ニュース各報道、警察庁パーソナルモビリティ安全利用官民協議会資料
