愛媛の高級かんきつ「紅プリンセス」が中国に流出か 繰り返される農業知財の危機

愛媛の高級かんきつ「紅プリンセス」が中国に流出か 繰り返される農業知財の危機 農業・漁業
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愛媛産の高級かんきつの新品種が、中国に流出した可能性が浮上しています。愛媛県がおよそ20年の歳月をかけて開発し、2025年春にようやく本格販売を迎えたばかりの「紅プリンセス(品種名:愛媛果試第48号)」とみられる果物が、中国の大手通販サイト「淘宝(タオバオ)」で堂々と販売されているのが確認されたのです。

かつてシャインマスカットが無断で海外へ持ち出され、年間100億円超の損失をもたらしたとされる問題を受け、日本は種苗法の改正に踏み切りました。それでも、なぜ流出は繰り返されるのでしょうか。今回の疑惑が示す農業知財保護の課題と、私たちにできることを改めて考えます。

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販売開始からわずか1年、新品種が早くも中国へ?

2025年春、愛媛県がおよそ20年の歳月をかけて開発した高級かんきつ「紅プリンセス(品種名:愛媛果試第48号)」が、いよいよ本格的に市場へデビューしました。「紅まどんな」の滑らかなゼリーのような食感と、「甘平」の濃厚な甘みを受け継いだ、まさに愛媛かんきつの「サラブレッド」とも呼ぶべき逸品です。

ところが、デビューからわずか1年も経たないうちに、中国の大手通販サイトで同品種とみられる果物が販売されているという衝撃の報告が浮上しました。

毎日新聞が2026年4月、中国の大手通販サイト「淘宝(タオバオ)」で「愛媛48号・紅プリンセス」との名称の果物を発見。販売元に問い合わせたところ、「そうだ。数年前に新しく出てきた品種だ」と認め、苗木は四川省で育成されたものだと説明したといいます。もしこれが事実であれば、日本の農業知財をめぐる問題は、まさに進行中の危機として改めて目の前に突きつけられることになります。


「紅プリンセス」とはどんな果物か

紅プリンセスの正式品種名は「愛媛果試第48号」。愛媛県農林水産研究所 果樹研究センター みかん研究所が、2005年(平成17年)に「紅まどんな(愛媛果試第28号)」と「甘平」を交配させ、品種登録まで実に17年の歳月を要した渾身の一作です。

果実はおよそ250gほどで、赤みを帯びた美しい橙色の果皮が特徴的。果肉はぷるんとしたゼリーのような食感で、糖度が非常に高く濃厚な甘さが楽しめます。出荷時期は3月上旬から4月にかけてで、かんきつ類の端境期に貴重な存在となっています。

「紅プリンセス」という商標名には、『「紅まどんな」から生まれた娘「プリンセス(王女)」として、誰からも愛される存在になるように』との願いが込められています。栽培が難しく生産量も限られるため、希少価値の高い高級品として市場での期待は非常に大きなものがあります。

なお、「紅プリンセス」として出荷するには愛媛県への許諾申請が必要で、糖度・外観・サイズなどの厳しい基準をクリアしなければなりません。それほどの品質管理が施された、愛媛の誇りともいえる品種です。

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シャインマスカットの「教訓」はなぜ生かされないのか

今回の紅プリンセス流出疑惑を理解するうえで欠かせない背景が、シャインマスカットの前例です。農林水産省の2020年の調査によると、中国で生産されているシャインマスカットは日本の栽培面積のおよそ30倍にも達し、許諾料換算で少なくとも年間100億円の損失が生じているとされています。

シャインマスカットは33年の開発期間を経て2006年に誕生した日本独自の品種ですが、2016年ごろから無断で海外に流出し、中国や韓国で大規模に産地化されてしまいました。これが大きな問題となり、2020年12月に「種苗法の一部を改正する法律」が成立。品種の育成者が種苗を輸出できる国・地域を指定できるようになり、違反した場合は刑事罰や損害賠償の対象となりました(2022年4月に完全施行)。

しかし、それでも流出が続いているとすれば、なぜでしょうか。問題の一つは、改正種苗法が施行される以前に流出した品種には効力が及ばない点にあります。シャインマスカットはまさにこのケースでした。また、苗木が一度国外に持ち出されてしまえば、現地で増殖されてしまうという構造的な問題もあります。

さらに重要なのが、海外での品種登録の遅れです。「愛媛48号(紅プリンセス)」は中国でも品種登録を申請中ですが、まだ完了していません。品種登録が完了していない段階では、たとえ現地で栽培・販売されていても、法的に対抗する手段が限られてしまいます。


「流出阻止」と「権利保護」——2つの対策の現在地

日本政府や農産物生産県は現在、大きく2つの方向で対策を進めています。

1. 流出阻止策

改正種苗法により、品種登録した育成者は「栽培地域の限定」や「輸出先国の限定」を条件として許諾に盛り込めるようになりました。また、苗木の販売ルートを管理し、流出リスクのある経路を遮断する取り組みも強化されています。愛媛県も紅プリンセスについて、栽培農家との契約管理を徹底するなどの対策を講じてきました。

2. 育成者の権利保護策

海外での無断栽培に対抗するには、相手国での品種登録が不可欠です。日本は「植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)」に加盟しており、加盟国間での権利保護の枠組みはありますが、実際に権利を行使するには各国への個別の申請と登録が必要です。登録が完了していれば、現地の法律に基づいて無断栽培者に対して法的措置を取ることが可能になります。

今回の紅プリンセスが実際に流出したものであれば、中国での品種登録の完了を急ぐとともに、流通経路の追跡や現地当局への働きかけが求められることになるでしょう。

3. 令和8年(2026年)種苗法改正案——さらなる強化へ

政府は2026年4月、種苗法のさらなる改正案を閣議決定しました。主な柱は2つです。

一つ目は、出願段階からの輸出差し止めです。これまでは品種登録が完了するまでの数年間、育成者権が存在しないため無断輸出を止める手段がありませんでした。改正案では、出願が公表された段階で書面による警告を行うことで、登録前の品種についても輸出を差し止められるようになります。今回の紅プリンセスのような「登録申請中」の品種を守るうえで、特に重要な改正点です。

二つ目は、育成者権の存続期間の延長です。現行の25年(永年性植物は30年)から、35年(同40年)へと10年延長されます。これには複数の意味があります。まず、紅プリンセスのように開発に20年近くかかる品種では、品種登録後も産地として成熟するまでにさらに時間がかかります。存続期間が短いと、せっかくブランドが確立してきたころに権利が切れ、誰でも自由に栽培できる状態になってしまいます。10年の延長は、開発投資の回収期間を確保し、ブランド産地を守る期間を実態に合わせたものといえます。また、シャインマスカットのように「保護期間が切れていたことも流出を後押しした」という反省も踏まえた措置です。

ただし、存続期間の延長はあくまで国内での権利保護が前提です。海外での保護には引き続き相手国での品種登録が必要であり、この2つをセットで進めることが実効性ある対策の条件となります。


消費者として、私たちにできること

こうした農業知財の問題は、農家や行政だけの問題ではありません。消費者の行動も、大きな影響を持っています。

正規ルートで購入された「紅プリンセス」や「シャインマスカット」は、農家が長年の努力と巨額の費用をかけて育てた品種です。価格が高くても、正規品を選ぶことが、日本の農業の未来を守ることに直結します。海外の通販サイトで著しく安価に売られている「日本品種」を疑いなく購入することは、図らずとも知財侵害の連鎖に加担してしまうリスクがあります。

また、国内の農産物輸出ブランドを守るためにも、「本物の産地・本物の品種」への理解と関心を持つことが大切です。


まとめ——問われる日本の農業知財戦略の実効性

愛媛県が20年の歳月と情熱を注いで生み出した「紅プリンセス」の流出疑惑は、日本の農業知財保護の仕組みが、まだ十分に機能していないことを示唆しています。シャインマスカットで痛烈な教訓を得たにもかかわらず、同じ問題が繰り返されようとしているとすれば、制度の見直しと実効性の強化は急務です。

「流出阻止」と「育成者の権利保護」という2つの柱を、より迅速かつ強力に機能させること。そして、日本が世界に誇る農業品種の価値を守り続けること。それが、農家の努力に応え、日本の食文化を次の世代に引き継ぐための最も重要な課題の一つと言えるでしょう。

今後の真相究明と、日本・中国双方の行政による迅速な対応が強く望まれます。

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