ストレスチェックが全事業所で2028年4月から義務化 なぜ今法改正が必要なのか

ストレスチェックが全事業所で2028年4月から義務化 なぜ今法改正が必要なのか 時事・ニュース
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職場でのストレスや心の不調が深刻な社会問題となっています。厚生労働省の発表によると、仕事によるストレスが原因で精神障害を発症し、2024年度に労災認定を受けた件数は1,055件。統計を始めた1983年度以来、初めて1,000件を超え、6年連続で過去最多を更新しました。

こうした背景を受け、厚生労働省は2025年5月、改正労働安全衛生法を成立させ、「ストレスチェック制度」の義務化対象をすべての事業所に拡大する方針を打ち出しました。2026年5月18日には、労働政策審議会の分科会で2028年4月からの施行が明示され、いよいよ全事業所での実施が現実のものとなりつつあります。

この記事では、ストレスチェック義務化の背景・内容・対応策を、できるだけわかりやすくご説明します。


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ストレスチェック制度とは?

ストレスチェックとは、働く人の心理的な負担の程度を調べるための検査制度です。2015年12月に労働安全衛生法に基づいて導入され、従業員が受けた調査票の結果をもとに、ストレスの状態を客観的に把握することを目的としています。

具体的な流れとしては、まず従業員がアンケート形式の調査票(厚労省推奨の「職業性ストレス簡易調査票」57項目など)に回答します。その結果を医師や保健師などの「実施者」が評価し、「高ストレス者」と判定された従業員には医師による面接指導が提供されます。なお、個人の結果は本人の同意がない限り事業者に提供されないため、プライバシーが守られる仕組みになっています。

この制度の本来の目的は、メンタルヘルス不調を「発症してから対処する」のではなく、「未然に防ぐ」一次予防にあります。

厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム
「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイトは、改正労働安全衛生法に基づき、平成27年12月より施行されたストレスチェック制度が事業者にて円滑に導入できるよう、ストレスチェックの受検、ストレスチェックの結果出力、集団分析...

これまでの制度と今回の改正のポイント

50人以上の事業所ではすでに義務

従業員が常時50人以上の事業所では、2015年の制度導入以来、年1回のストレスチェックが義務付けられてきました。実施後は結果を労働基準監督署に報告する義務もあります。

50人未満はこれまで「努力義務」にとどまっていた

一方、従業員が50人未満の事業所については、ストレスチェックの実施は「努力義務」に過ぎず、義務ではありませんでした。その結果、実施率には大きな格差が生じています。50人以上の事業所の実施率が81.7%に上るのに対し、50人未満では34.6%にとどまっており、小規模事業所での対策の遅れが浮き彫りになっていました。

改正で「全事業所」が対象に

今回の改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布)により、50人未満の事業所も含むすべての事業所でストレスチェックの実施が義務化されます。施行日は「公布から3年以内に政令で定める日」とされており、2026年5月の労働政策審議会分科会において2028年4月が施行期日として示されました。個人商店や零細企業、小規模な法人事業所も対象となります。


なぜ今、義務化が拡大されたのか──深刻化するメンタルヘルス問題

精神障害の労災認定が初めて1,000件超え

冒頭でも触れましたが、2024年度の精神障害による労災認定件数は1,055件と、初めて1,000件を超えました。原因別でみると、「パワーハラスメント」が224件で最多、次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」が119件、そして近年急増しているのが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」で108件と、セクハラ(105件)を上回り3番目に多い原因となっています。

カスハラによる労災は2023年度から認定基準に追加されたばかりですが、すでに全体の約10%を占める深刻な問題となっています。サービス業従事者を対象とした調査では、2年以内にカスハラ被害を受けたと答えた人が約47%にのぼるという報告もあり、今後さらなる増加が懸念されます。

小規模事業所ほど「見えないリスク」が大きい

従業員が少ない職場ほど、一人ひとりの業務負担が大きく、「自分がいなければ回らない」というプレッシャーが生まれやすい環境です。

また、相談できる相手が限られるため、ストレスが蓄積しても外に出しにくいという側面もあります。小規模な事業所でこそ、ストレスの早期発見・早期対応が重要といえるでしょう。


50人未満の事業所への配慮──負担軽減の仕組みも整備

法改正にあたっては、小規模事業所の負担への配慮も盛り込まれています。

まず、労働基準監督署への報告義務については、50人未満の事業所には当面の間、課さない(または簡素化する)方向で調整されています。

また、産業医の選任義務がない小規模事業所に向けて、地域産業保健センターなどによる面接指導の支援体制を強化する方針も示されています。さらに、厚労省は50人未満の事業所向けに「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を新たに作成・公開しており、低コストで導入できるよう、無料の実施プログラムも提供しています。

「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表します
「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表します

今から準備すべきこと──中小企業・小規模事業所のための対応ステップ

2028年4月まで、残り約2年です。「まだ先の話」と思わずに、今から準備を進めることが大切です。以下のポイントを参考にしてください。

① 制度の仕組みを理解する まずはストレスチェック制度の目的・手順・プライバシー保護のルールを把握しましょう。厚労省のマニュアルやウェブサイトに情報がまとめられています。

② 実施方法を検討する(自社 or 外部委託) 小規模事業所では、プライバシー保護の観点や従業員が本音で回答しやすい環境を確保するため、外部機関への委託が現実的です。コスト面では、厚労省提供の無料プログラムや低価格のクラウドサービスを活用する方法もあります。

③ 社内規程の整備 ストレスチェックの実施にあたっては、就業規則や安全衛生規程への明記が必要になります。高ストレス者への対応フローや、結果の保管方法(5年間の保存が必要)についても確認しておきましょう。

④ 産業保健スタッフとの連携 面接指導が必要な高ストレス者が出た場合に備え、地域産業保健センターや嘱託産業医との連携体制を整えておくことが重要です。


おわりに──「義務」ではなく「投資」として考える

ストレスチェックの全事業所義務化は、確かに中小企業にとって新たな対応が求められる変化です。しかし、見方を変えれば、これは従業員の心の健康を守るための「先行投資」でもあります。

メンタルヘルス不調による突然の休職・離職は、企業にとっても大きな損失です。一方、ストレスチェックを通じて職場環境の課題を早期に発見・改善できれば、従業員のエンゲージメント向上や定着率の改善にもつながります。「人を大切にする職場」という評価は、採用活動においても強みになります。

2028年の義務化開始に向けて、「どうすれば形式的な義務をこなすか」ではなく、「どうすれば従業員が本当に安心して働ける職場にできるか」という視点で、ぜひ前向きに取り組んでいただければと思います。

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