2026年5月11日、大手菓子メーカーのカルビーが、「ポテトチップス うすしお味」「コンソメパンチ」「かっぱえびせん」など、主力14商品のパッケージを白黒の2色刷りに順次変更する方針であることが明らかになりました。
スーパーやコンビニで見慣れたあのカラフルな袋が、白黒になる——。多くの消費者にとって驚きのニュースです。でも、なぜそのような決断が下されたのでしょうか。その背景には、私たちの日常生活を静かに揺さぶり始めている「ナフサ不足」という深刻な問題があります。
そもそも「ナフサ」って何?身近な素材の原料です
「ナフサ」という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。ナフサとは、原油を精製する過程で生まれる「粗製ガソリン」の一種で、石油化学工業の最も基本的な原料です。
このナフサを出発点として、エチレンやプロピレンといった基礎化学品が作られ、さらにプラスチック、合成ゴム、合成繊維、塗料、医薬品など、現代の生活を支える無数の製品が生み出されています。スマートフォンのケースも、ペットボトルも、洋服の繊維も、そして印刷インクも——その多くがナフサを源としているのです。
なぜ今、ナフサが不足しているのか?中東情勢が引き金に
2026年に入り、中東情勢の緊迫化を受けて、日本のナフサ調達環境が急速に悪化しています。日本はナフサ輸入の約7〜8割を中東(サウジアラビア・UAEなど)に依存しており、ホルムズ海峡の通航リスクが高まったことで、供給網が極めて不安定な状況に置かれています。
さらに深刻なのは、日本には原油の国家備蓄制度(約254日分)があるものの、ナフサは国家備蓄の対象外であり、民間在庫はわずか約20日分しかないという構造的な脆弱さです。燃料としての原油は国が守っても、「材料としてのナフサ」は守られていない——これが今回の危機で露わになった問題のひとつです。
2026年3月時点では、ナフサの市況価格がわずか2週間で1トンあたり600ドル台後半から1,100ドル前後へと急騰しました。帝国データバンクの調査によれば、ナフサ由来製品を仕入れる製造業は全国で約4万7,000社、国内製造業全体の約3割にのぼるとされており、影響はすでに産業界の広い範囲に及んでいます。
印刷インクとパッケージの関係──カルビーはなぜ白黒にするのか
ナフサ不足が印刷業界にも直撃しました。印刷インクの原料となる溶剤や樹脂もナフサ由来であるため、印刷・包材分野でも品薄感が強まっています。大手印刷・包材企業が包装資材の仕入れ値が2〜3割増えているとして値上げを打診するなど、食品・日用品メーカーへの影響は現実のものとなっています。
こうした状況を踏まえ、カルビーは「供給の安定化を最優先とする」という方針を掲げ、パッケージに使う印刷インクの色数を2色に絞る決断を下しました。対象は5月25日以降、カラーパッケージの在庫がなくなり次第、順次白黒に切り替えられる予定です。
カルビーは「品質には一切影響はなく、安定供給を目的とした措置」としており、中身のポテトチップスそのものの味や量に変更はありません。パッケージだけが変わる、という点は押さえておきたいポイントです。
対象となる14商品はどれ?
現在明らかになっている白黒パッケージへの変更対象商品は、以下のような主力商品を含む計14品です。
- ポテトチップス うすしお味
- ポテトチップス コンソメパンチ
- ポテトチップス のりしお
- かっぱえびせん など
まさに「定番中の定番」ともいえるラインナップで、スーパーやコンビニの菓子売り場から、見慣れたカラフルな袋が消えていく可能性があります。
他のメーカーにも広がる可能性——業界全体の問題へ
カルビーだけの話ではありません。ナフサ不足による印刷インク・包材の調達難は業界全体に共通する課題であり、カルビーの発表後、伊藤ハムなど他のメーカーでも同様の対応を検討しているとの報道もあります。
帝国データバンクのアンケート調査では、中東情勢による影響が経営に「マイナス」と答えた企業は96.6%にのぼり、「値上げを全面的に受け入れても調達不安が解消される保証はなく、極めて異常な状況」という声も上がっています。今後、食品・日用品の分野でパッケージのシンプル化や仕様変更の動きが広がる可能性は十分にあります。
私たちの生活への影響をどう受け止めるか
今回の「ポテチの袋が白黒になる」というニュースは、一見すると小さな変化のように映るかもしれません。しかし、その背景には、中東情勢・エネルギー問題・サプライチェーンの脆弱性という、現代社会が直面する複雑な課題が絡み合っています。
ナフサ不足の影響は、印刷インクだけにとどまらず、プラスチック製品、住宅設備、医療用材料など、生活のあらゆる場面に及び始めています。政府は代替調達の強化や「重要物資安定供給タスクフォース」の設置といった対策を進めていますが、短期間での完全な解決は容易ではない見通しです。
カルビーの決断は、こうした厳しい現実の中で「商品の安定供給を守る」という責任ある選択とも言えます。白黒のパッケージを手にしたとき、少しだけその背景を思い浮かべてみると、日々の買い物が世界とつながっていることを改めて感じられるかもしれません。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 変更内容 | カラー印刷 → 白黒2色刷り |
| 対象商品 | ポテトチップス(うすしお・コンソメパンチ・のりしお)、かっぱえびせん など計14品 |
| 開始時期 | 2026年5月25日以降、順次切り替え |
| 品質への影響 | なし(中身・味・量は変わらず) |
| 理由 | 中東情勢の緊迫化によるナフサ不足 → 印刷インクの調達難 |
身近な商品のパッケージ変更という出来事を通じて、国際情勢が日本の産業・消費者の生活に直結していることをあらためて意識するきっかけになれば幸いです。今後の動向にも、引き続き注目していきましょう。
