2025年の新語・流行語大賞で、「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」(通称:働いて×5) が年間大賞に選ばれました。これは高市早苗首相が自民党総裁選で当選した際に述べた言葉で、強い決意を示すフレーズとして大きな話題を呼びました。
一方、この「働いて×5」という言葉が大賞に選ばれたことに対し、過労死・過労自殺の遺族や労働問題に関わる団体から強い懸念の声が上がっています。
賛否が鋭く分かれた今回の受賞は、日本社会が抱える“働き方”に対する価値観の違いを改めて浮き彫りにしました。
本記事では、「働いて×5」流行語大賞の背景、賛否両論のポイント、そして言葉が社会にどのような影響を与えるのかを丁寧に整理します。
「働いて×5」が大賞に選ばれた背景
「働いて働いて…」というフレーズは、総裁選当選会見で高市首相が述べた言葉です。発言には強いリーダーシップや決意が表れており、多くのメディアが取り上げました。
また、同時に発した
- 「全員に馬車馬のように働いてもらう」
- 「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」
という表現が賛否を呼び、SNSでも連日議論が続きました。
流行語大賞の選考委員会は、
「今年の世相を象徴し、社会的議論を巻き起こした言葉である」
という観点からこの言葉を大賞に選出したと見られています。
政治的な言葉が受賞することは過去にもありますが、これほど働き方に直結する発言が選ばれるのは珍しく、そこが今回の大きな注目点のひとつです。
高市首相の説明:働き過ぎを推奨する意図ではない
流行語大賞の授賞式に出席した高市首相は、次のように説明しました。
- 「働き過ぎを国民に推奨するものではない」
- 「総理としての責任と覚悟を示しただけ」
- 「ワークライフバランスを否定する意図も全くない」
つまり、この「働いて×5」は、あくまで自分自身の決意の強調であり、国民に長時間労働を求めるものではないと強調しました。
この説明に対し、
- 「首相の気持ちは分かる」
- 「覚悟を感じた」
と肯定的に受け止める声もあります。
強い批判と不安も——過労死遺族の訴え
受賞をめぐる最大の論点は、労働問題の当事者の受け取り方との大きなギャップです。
発言に最も強い危機感を示したのが、過労死・過労自殺遺族や、労働問題に取り組む団体です。
過労自殺した医師の妻である中原のり子さんは、都内で記者会見を開き、次のように語りました。
- 「こんな言葉が独り歩きしては過労死はなくならない」
- 「流行語大賞受賞には耳を疑った」
- 「家族にむち打つような行為だ」
- 「影響力ある立場なのだから、もっと言葉を選んでほしい」
現場ではいまも長時間労働や人手不足に苦しむ人がいます。
疲弊し、追い込まれ、命を落とした人も少なくありません。
その遺族から見ると、「働いて働いて…」という言葉が社会的な賞を受けることは、長時間労働を肯定する空気の拡散につながるのではないかという恐怖を伴うものです。
ただの流行語ではなく、現実の命に関わる問題として捉えている点が非常に重要です。

「働いて×5」言葉の独り歩き
遺族が懸念しているのは、発言そのものだけではありません。
より深刻なのは、
「働いて×5」という言葉だけが切り取られ、真意とは違う形で社会に広がってしまう可能性
です。
言葉のインパクトは強く、一度広まると、
- 上司が部下に使う
- SNSでネタ化される
- 企業が過労気味の社員に半ば冗談で使う
- 働き過ぎを正当化する雰囲気が生まれる
といった事態を引き起こしかねません。
日本社会では、過労死が社会問題として長く議論されてきました。
にもかかわらず、強い語感を持つ「働いて×5」が“流行語”という形で称賛されると、
「働きすぎても仕方ない」「頑張るのが美徳」
というメッセージが助長されるのではないかという懸念が、遺族や専門家の間にあります。
賛否がわかれる理由:流行語大賞の性格の違い
今回の議論の背景には、「流行語大賞とは何を選ぶ賞なのか」という問いがあります。
これまでの流行語大賞は、
- 若者文化
- インターネットスラング
- スポーツの名言
- 社会現象
といった、生活の中で多くの人が実際に使った言葉が選ばれることが多くありました。
しかし「働いて×5」は、
- 首相という権力者の発言
- 国民全体が実際に使った言葉ではない
- かつ賛否両論が激しい
という特徴があります。
そのため、
- 「流行語としてふさわしいのか」
- 「象徴的だからこそ選ぶべきなのか」
という意見が対立しています。
言葉と社会の距離感をどう考えるか
結局のところ、今回の騒動は単なる批判合戦ではなく、
労働や働き方に対する価値観の違いが表面化した結果と言えます。
支持派は、
- 首相の決意表明として理解する
- 日本を前に進める力強い言葉と捉える
一方、批判派は、
- 長時間労働を肯定する空気につながる
- 過労の現場を知らない発言として受け取る
- 社会的に脆弱な立場の人が傷つく
というように、立場によって受け止め方が大きく異なります。
ここで重要なのは、
政治リーダーほど、言葉の影響力が大きいことを自覚しなければならない
という点です。
まとめ:流行語大賞が投げかけた“働くこと”への問い
「働いて×5」流行語大賞は、日本社会が抱える働き方の問題を改めて浮き彫りにしました。
- 生活のために働く人
- 自分の意思に反して働かざるを得ない人
- 過労により家族を失った人
- 国のトップとして責任を果たそうとする人
それぞれの立場で“働くこと”の意味が違うからこそ、言葉の受け取り方が異なります。
今回の議論は、国や企業、そして社会全体が、
これからどのような働き方を望み、どのような価値観を共有するのかを問われた出来事でした。
働き方改革が進む中で、
「働くことは誰のためか」「どこまで働けば良いのか」
という問いが再び浮かび上がっています。
「働いて×5」をめぐる議論は終わりではなく、
日本社会が働き方を見直すための重要な入り口になるはずです。

