近年、エスカレーターの利用マナーに関する議論が活発になっています。特に「エスカレーターで歩いてはいけないのか?」という問題は、条例制定を含めた行政の動きとともに、社会全体の関心を集めています。今回は、名古屋市が導入した“通せんぼの人”=「なごやか立ち止まり隊」の取り組みを中心に、エスカレーターの正しい利用方法やSNSの反応まで、わかりやすくまとめてみました。
なぜ条例?背景にあるエスカレーター事故と社会の課題
エスカレーター上での事故は年々増加傾向にあり、高齢者や子どもを中心とした転倒・接触事故が問題視されてきました。
特に駅などの混雑した場所では、リュックを背負った人が歩いて通り抜けた際に、バランスを崩した高齢者や、子どもを抱えた保護者が転倒するなど、重大事故につながるケースも報告されています。
こうした背景から、埼玉県を皮切りに「エスカレーターでは立ち止まって利用する」ことを条例で義務付ける動きが全国に広がってきました。
名古屋市でも2023年から条例が施行され、違反に罰則こそないものの、市民への啓発とともに、注目の「なごやか立ち止まり隊」の導入が始まりました。

“通せんぼの人”とは?どこで?名古屋の“なごやか立ち止まり隊”
名古屋市では、エスカレーターの右側に立つことで「歩けない状況」を作り、立ち止まっての利用を促す人員=「なごやか立ち止まり隊」が導入されました。
- 日給:隊長 1万6000円/隊員 6500円
- 活動時間:1日6時間
- 実施駅数:市内19駅(2023年は50日程度実施)
市の担当者によれば、条例施行前は約80%の人がエスカレーターを歩いていたのに対し、現在は約90%以上が止まるようになったとのことです。
実際、2023年11月〜12月に実施された最新調査では、左右にかかわらず立ち止まっていた人の割合が94.8%にまで上昇。名古屋市の取り組みは一定の効果を上げていると言えるでしょう。
SNSの声:「通せんぼ」は賛否両論
この“通せんぼ隊”に対するSNSでの反応は賛否が分かれます。
賛成派
- 「通勤ラッシュで押された経験がある。止まるのが当たり前になってほしい」
- 「安全第一。エスカレーターで急ぐべきじゃない」
反対派
- 「急いでる人の事情もある。全部止めるのはやりすぎ」
- 「無理やり止めさせるやり方にモヤモヤする」
また、名古屋市の取り組みに関して「税金で日給1万6000円は高すぎるのでは?」というコスト面への指摘も一部では見られます。
そもそもエスカレーターの正しい利用方法は?
この議論の前提として、「エスカレーターは歩くべきか、止まるべきか?」という疑問がありますが、まず押さえておくべきは、設計上・安全上の正しい利用方法です。
エスカレーターの正解:基本は「立ち止まって利用」
日本エレベーター協会や国土交通省、消費者庁の指針では、エスカレーターは「立ち止まって乗るもの」と明確に示されています。
- 安全面からも推奨(転倒・接触事故防止)
- 日本国内の標準的なエスカレーターの速度は 毎秒0.5メートル前後
- 歩行を想定していないので、緊急停止時の揺れやステップの縁などが危険
- ステップチェーンへの負荷が左右均等になり、機械寿命も延びる
動く歩道はどうなの?
- 動く歩道は歩行も想定されている(主に空港等)
- ただし、手すりを持つなど安全に配慮する必要がある
種類 | 基本動作 | 歩くのはOK? | 設計前提 | 速度 |
---|---|---|---|---|
エスカレーター | 立ち止まる | × 推奨されない | 止まって利用 | 約0.5m/s |
動く歩道 | 立ち or 歩く | ◯ 許容 | 歩行も想定 | 約0.4m/s |
つまり、エスカレーターは「止まる」ための乗り物、動く歩道は「歩くことも許容される」設備という違いがあるのです。
今後の課題
名古屋市の取り組みが成功の兆しを見せている一方で、実際に事故が減ったかどうかは「精査中」とされています。また、特に“下り”のエスカレーターでは歩行者が依然として多く、完全な意識改革にはもう少し時間がかかると見られています。
エスカレーターを「立ち止まって乗るもの」とする文化が社会全体で定着するには、条例・啓発・教育など多角的なアプローチが求められます。
歩かないエスカレーターが“新しい当たり前”に?
- エスカレーターは基本的に“止まって利用する”設計
- 名古屋市の条例と“通せんぼ隊”による啓発は一定の成果を上げている
- SNSでは賛否両論あるが、安全を優先する方向は強まっている
「急がば回れ」。歩くことで得られる数秒よりも、安全のために立ち止まることが、今後のスタンダードとなるのかもしれません。