埼玉県川口市では、近年クルド人を中心とした外国人住民の増加に伴い、地域社会との間でさまざまな課題が浮上しています。2025年5月には、河野太郎衆議院議員が現地を視察し、具体的な提言を行いました。本記事では、川口市の現状と河野氏の見解を中心に、共生社会の実現に向けた課題と可能性を探ります。
クルド人とは
クルド人は、トルコ、イラク、イラン、シリアなどの山岳地帯に居住する民族で、独自の言語と文化を持ちながらも国家を持たない最大の民族とされています。トルコでは、クルド語の使用が制限されるなどの抑圧があり、一部のクルド人は政治的迫害から逃れるため、国外への移住を余儀なくされています。
なぜ川口市にクルド人が集まるのか
川口市や隣接する蕨市には、約3,000人のクルド人が住んでいるとされ、その多くは難民認定申請中で仮放免の措置を受けている非正規滞在者です。彼らが川口市に集まる理由としては、以下のような要因が挙げられます。
- 先行者効果: 1990年代に川口市周辺に住み始めたクルド人を頼って、親族や知人が同地域に移住し、コミュニティが形成されました。
- 生活コストの低さ: 川口市は首都圏の中でも比較的生活費が抑えられる地域であり、外国人労働者にとって魅力的な場所となっています。
- 雇用機会の集中: 解体業など、外国人労働者を多く雇用する職場があるため、経済的安定を求めるクルド人が集まりやすくなっています。
- 文化的・宗教的要因: イスラム教徒が多いクルド人にとって、ハラール食品を取り扱う店やモスクの近くに住むことが重要であり、これが特定の地域にコミュニティを形成する要因となっています。
仮放免のクルド人と行政支援の現状
埼玉県南部に居住しているクルド人の多くはトルコ国籍を持つ仮放免者です。仮放免中の身分では住民票の取得や就労、健康保険への加入が認められていません。こうした制約の中で、市は人道的な立場から医療や教育の支援を行っていますが、医療費の未収金など新たな課題も浮上しています。
クルド人の子どもたちが学校に通う中で、教育現場における言語や文化の違いへの対応も求められており、地域社会は対応に追われています。制度と現実のギャップに対し、行政の現場では支援と負担のバランスに悩む声も上がっています。
地域住民との摩擦と誤情報の拡散
クルド人住民の増加に伴い、地域住民との間に摩擦も生じています。
騒音や公園での迷惑行為、さらには無免許運転といった行為に対して苦情が寄せられ、治安への不安が高まっています。一方で、クルド人コミュニティ内部でも夜間パトロールの実施など、地域との共生に向けた前向きな取り組みも進められており、対話の可能性も模索されています。
しかしながら、公共施設の表示が「クルド市役所」などと書き換えられる嫌がらせ行為が相次いでいるほか、SNS上ではクルド人に関する偽情報や誤情報の拡散も問題となっています。たとえば「許可のない祭り開催」といった内容が広まりましたが、実際には公的に利用許可を得ていたケースもありました。このような誤解や偏見は、地域の分断を助長する恐れがあり、正確な情報に基づく冷静な対応が強く求められています。

河野太郎氏の現地視察と提言
2025年5月、河野太郎衆議院議員は川口市を訪れ、クルド人の集住地区を視察しました。視察後、河野氏は以下のような見解を示しています。
- 観光目的で入国し、難民申請を繰り返すことで滞在を延長し、結果的に不法就労につながっているケースがある。
- このような状況が続くと、正規の在留資格を持つ外国人までが疑われる可能性があり、制度の厳格な運用が必要である。
- 抜本的な不法就労対策として、査証免除の停止を外務省に強く申し入れている。
- 入管職員のサポートを強化し、不法入国、不法滞在、不法就労の撲滅に向けて努力を続ける。
河野氏は、制度の悪用を防ぐことで、真に保護が必要な人々を守ることができると強調しています。
岩屋外相、トルコ国籍者へのビザ免除停止を否定
2025年6月4日、衆議院外務委員会にて、岩屋毅外相は、埼玉県川口市に集住するクルド人を含むトルコ国籍者に対し、短期滞在ビザの免除措置を停止すべきとの意見について、「直ちに停止することは考えていない」と明言した。これは、自民党の河野太郎氏や日本維新の会の高橋英明氏が求めていた措置であったが、岩屋氏は停止による経済・文化・人的交流への悪影響を懸念し、否定的な立場を取った。
岩屋氏は「トルコ側とさまざまなレベルで協議を進めている」とし、今後も慎重な対応を続ける姿勢を示した。国際関係や経済活動への影響を考慮した上で、拙速なビザ措置の見直しには応じないとの立場を明確にした。
地域社会との共生に向けて
川口市の奥ノ木信夫市長は、仮放免者に対する就労許可の付与や、在留資格のない外国人の強制送還など、国に対して具体的な対応を求めています。市長自身も、クルド人問題に関連して殺害予告を受けるなど、厳しい状況に直面しています。
一方で、クルド人コミュニティ内でも、地域との共生に向けた取り組みが進められています。例えば、夜間パトロールの実施や、地域住民との対話の場を設けるなど、相互理解を深める努力がなされています。
まとめ
川口市におけるクルド人問題は、単なる治安や制度の問題にとどまらず、多文化共生社会の実現に向けた課題を浮き彫りにしています。河野太郎氏の提言や、地域社会とクルド人コミュニティの取り組みを通じて、相互理解と共生の道を模索することが求められています。
今後、国と自治体、地域住民、外国人コミュニティが連携し、共生社会の実現に向けた具体的な施策を講じていくことが重要です