昨年3月、神戸市立王子動物園で飼育されていたパンダ(ジャイアントパンダ)「タンタン」(♀、1995年生)が28歳で永眠しました。実に国内飼育熊では最高齢と言われ、市民に愛され続けた存在でした。昨年7月に中国へ返還予定だったものの、コロナ禍や体調不良で延期。衰弱死を受け、市と中国との契約に基づき、剥製と骨格標本にして中国へ送る準備が進められています。剥製・標本化の費用は約730万円で、市が負担しています。
契約により、パンダは死後であっても所有権が中国側にあります。現在も剥製と骨格標本は王子動物園が保管中で、ワシントン条約に基づく手続きを経て中国に送られる予定です。
パンダはなぜ返還を免れないのか
中国は「パンダ外交」と称し、世界各地の動物園にパンダを貸し出します。これは「レンタル」であり、飼育料(数千万円〜数億円/年)と報道されています。また、飼育中に生まれた仔パンダも名目上は中国の国家資産。たとえ誕生が現地であっても、帰国期限が設けられています。
直近では、和歌山・アドベンチャーワールドで飼育中の4頭が2025年6月末に中国返還と報じられ、急なニュースに多くの来園者が駆けつけたそうです 。

パンダ外交の仕組み
中国の「パンダ外交」とは、自国の象徴的動物であるジャイアントパンダを他の国に貸し出すことで、外交関係の強化や国際的なイメージ向上を図る外交の手法です。一見、可愛い動物の交流のように見えますが、実はかなり計算された国際戦略の一つです。
パンダは贈り物ではなく「貸し出し」という形で送られ、ほとんどの場合、10年間の契約が結ばれます。年間で約100万ドルの貸与料がかかり、生まれた子パンダも原則として中国に返還されます。
契約には「種の保護」や「共同研究」といった名目がついていますが、実際には中国との関係が良好な国、あるいは関係を強化したい国に対してに優先して貸し出される傾向があります。また、パンダが来ると観光客が増えたり、関連グッズが売れたりと、経済的なメリットもあります。
こうした背景から、パンダは単なる動物ではなく、中国のイメージアップと国際影響力を高める「外交の切り札」として、世界中で活躍しているのです。
期間限定契約
通常契約で数年単位(例:上野の双子は2026年2月契約終了)。その後は延長なければ返還対象となります。
レンタル契約制度
中国政府が各国動物園に対し“貸出(レンタル)”という形でパンダを提供。飼育費とレンタル料は年数千万円〜数億円規模。
所有権は中国
契約上、パンダは死後もブランド児も含め中国の国家資産。返還は契約の必須要件。
なぜ剥製と骨格標本に?
標本としての価値は科学的に非常に高いものです。国立科学博物館の地球館では、上野動物園出身のフェイフェイ・トントン・ホァンホァンの剥製が常設展示されています 。
これらは研究や教育資源として活用され、かつては第6・第7の指に関する新発見につながった例もあるそうです 。
パンダの剥製展示に寄せられる声
動物園や博物館などで、かつて生きていたパンダの剥製が展示されていることがあります。これに対して、「かわいそう」「敬意を欠いているのでは?」という声が挙がることも少なくありません。特にパンダのように愛される動物の場合、その死後の扱いには敏感な反応が見られます。
剥製は何のためにあるのか?
剥製展示の主な目的は、教育と記録にあります。剥製は、動物の体の構造や生態を間近に観察できる貴重な資料であり、とくに絶滅の危機にある動物の場合、その存在を次世代に伝える役割を担っています。
また、パンダのような希少種は自然の中では容易に観察できないため、剥製は「知る」ための重要な手段でもあります。
動物への敬意と展示の工夫
現在では、剥製を単に「展示物」として扱うのではなく、動物の命に対する敬意や保全のメッセージを込めた演出が重視されています。例えば、展示パネルでその個体の生涯や保護活動の背景を説明するなど、単なる「見せ物」ではない形で展示が行われることが多くなっています。
感情と理解のバランスを
「かわいそう」という感情はとても大切です。それは動物に対する共感の表れであり、動物福祉の出発点でもあります。ただし、科学的・教育的な目的とバランスを取りながら、展示のあり方を考えることもまた、現代社会に求められる姿勢です。
パンダの剥製はどこで見られる?
東京都・上野の国立科学博物館(地球館)では、フェイフェイ、トントン、ホァンホァンの剥製が展示されています。地球館3階の「大型動物剥製群」の一角にあり、常設展示として来館者に公開中です 。(ホァンホァンは地球館1階)
博物館間の学術・展示などの目的であれば、適法な手続きを経た上で輸送が可能です。一般ではワシントン条約により、象牙やパンダのような絶滅危惧種の標本は国際取引に制限があります。
飲食店や商業施設で剥製が飾られている場合も確認されますが、それが合法かどうかはケースバイケース。ワシントン条約やCITESの許可に則っていなければ、違法です。

展示はいつまで?日本国内のパンダの返還スケジュール
動物園名 | パンダ名 | 展示開始 | 返還日 | 備考 |
---|---|---|---|---|
神戸市立王子動物園 | タンタン(♀、1995年中国生まれ) | 2000年来日 | 2024年3月死亡後、剥製と骨格標本にして返還予定 | 所有権は中国、死亡後も返還契約対象 |
上野動物園(東京都) | リーリー・シンシン | 2011年2月来日 | 2024年9月29日に治療目的で返還 | 最終観覧は2024年9月28日 |
香香(シャンシャン) | 2017年生 | 2023年2月21日返還 | ||
シャオシャオ・レイレイ(双子) | 2021年生まれ | 返還期限は2026年2月20日 | 現在も展示中 | |
アドベンチャーワールド(和歌山県・白浜) | 良浜・結浜・彩浜・楓浜 | 良浜:1994年来日 他は誕生 | 2025年6月28日返還確定 | 5/26–6/27隔離公開期間中 |
なぜパンダを「もういらない」という声も?
ネットやSNSでは「高額なレンタル料の負担に見合う価値があるのか」という声もあり、「日本の財政負担を考えるべき」「国内で飼育が続かないならもう借りなくても…」という主張もあります 。
パンダ人気は観光や地方経済に一定の貢献をしてきましたが、その一方で外交的な象徴であり、国際的な契約に縛られる現状に対しては賛否があります。
おわりに:パンダと日本、その未来
神戸のタンタンを剥製化し中国へ送るニュースは、「日本が中国から借りている」パンダとの関係の一つの節目と言えます。剥製や骨格標本としての保存は科学・教育的に大きな意義があり、博物館での研究に活かされることでしょう。
一方で、「ゼロパンダ時代」を迎える可能性も高まる中、私たちはパンダに代わる教育や観光資源を考える必要があります。動物園や博物館はもちろんですが、竹林の再生や里山保全といった地域への取り組みも合わせて検討すべき時期に差し掛かっているのかもしれません。
