日本では外国人労働者や外国人留学生の増加にともない、外国人を対象とした社会保障制度に抜け穴が存在することが指摘されています。
制度は本来、短期間の就労者や留学生を支える目的で設計されましたが、実際には運用上の隙間があり、予想以上の財政負担につながる恐れがあります。
今後、外国人との共生を深める社会の中で、公平な制度運営と適正な支援のあり方が問われています。
外国人の脱退一時金制度に潜む問題点
外国人労働者が日本で働き、年金に加入した場合、帰国時に「脱退一時金」を受け取ることができる制度があります。これは短期就労者が年金を掛け捨てにならないよう救済する目的で設けられたものです。
しかし、この制度には外国人が出国と再入国を繰り返すことで、脱退一時金を何度でも申請できる仕組みが存在していました。
実際に、雇用主が脱退一時金を「退職金代わり」として利用させていた事例もあり、これが公的年金制度の健全性を損なう原因となっていました。

外国人の再入国と生活保護リスク
脱退一時金を何度も受け取った外国人は、結果として日本で十分な年金加入期間を満たせない可能性が高くなります。
その場合、外国人が高齢期に生活保護を申請するリスクが高まるといわれています。
一部の試算では、外国人の再入国者のうち相当数が将来生活保護の対象になると仮定した場合、年間数千億円規模の財政負担が発生する恐れがあるとされています。
現在、外国人の脱退一時金を管理する厚生労働省と、外国人の出入国を所管する法務省の間で十分な情報連携が取れておらず、再入国した外国人の動向を自治体が正確に把握できていないことも問題です。
外国人向け制度の見直しと対策
2025年に成立した年金制度改正法では、外国人が再入国許可を持ったまま出国した場合は脱退一時金を支給しないとする見直しが行われました。これにより、出国と再入国を繰り返して脱退一時金を複数回受給する抜け穴は一定程度防がれる見込みです。
また、外国人留学生への支援制度も見直されつつあります。文部科学省は、外国人留学生への生活費支援を2026年度から制限する方針を打ち出し、日本人学生の支援を優先する方向へ制度を修正しようとしています。
こうした見直しは、外国人と日本人双方が公平に制度を利用できる環境を整えるための一歩です。
年金脱退一時金制度の主な改正内容
再入国許可付きの出国時は支給対象外に
これまで、外国人労働者は再入国許可を取得したまま出国した場合でも、脱退一時金を請求できる状態でした。この仕組みが、出国と再入国を繰り返して脱退一時金を複数回受給できてしまう「抜け穴」につながっていました。
今回の改正により、再入国許可を取得して出国した場合は、脱退一時金の請求ができなくなります。再入国許可が失効した後であれば請求は可能ですが、再入国を前提とした不正利用を防ぐ大きな一歩です。
支給対象期間が最大8年に延長
これまでは脱退一時金の支給対象となる年金加入期間は「最大5年」とされていましたが、改正により「最大8年」に延長されます。これにより、日本で中長期的に働く外国人が、将来年金を受給する選択肢も持ちやすくなります。
改正の目的
今回の改正は、制度の乱用防止を徹底することと、外国人が日本で将来設計をしやすくすることの両方を目的としています。特に、脱退一時金を退職金のように繰り返し請求する事例に歯止めをかける狙いが強く出ています。
実施スケジュール
2025年6月に法案が成立し、公布から4年以内に政令で施行される予定です。
博士課程支援制度(SPRING)の見直し内容
日本人学生への生活費支給に限定
文部科学省が進める博士課程支援制度「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」では、これまで外国人留学生にも生活費が支給されてきました。しかし、受給者の約4割が外国人、特に中国籍の留学生が多いことが国会でも議論されてきました。
この見直しにより、2026年度から生活費の支給は日本人学生限定とし、外国人留学生は生活費支援の対象外とする方針が決まりました。
- 現行制度:国籍問わず年間最大240万円(生活費)+50万円(研究費)の支援。
- 見直し方針:2026年度から、生活費支援のみ日本人学生に限定。研究費は従来どおり国籍不問で継続支給
研究費は国籍を問わず継続支給
生活費支援の対象は日本人に限定されますが、研究活動を支えるための研究費は引き続き外国人学生も支給対象とされます。これにより、優れた外国人研究者が日本で学び、研究を続ける環境は一定程度維持されます。
社会人学生も支援対象に
今回の見直しでは、社会人として博士課程に進学する学生も支援対象に加える方針です。働きながら学ぶ社会人にも広く門戸が開かれることで、より多様な人材が博士課程に進学しやすくなることが期待されています。
見直しの背景と目的
制度はもともと、日本人学生の博士課程進学者を増やすことが目的でした。外国人留学生の受給割合が高くなっていた現状を見直し、本来の目的に沿った支援の方向へ戻す意図があります。

外国人をめぐる制度の抜け穴解消に必要なこと
今回の見直しは前進といえますが、すでに脱退一時金を受け取った外国人の将来リスクや、再入国後の生活保護受給への対策はまだ十分とはいえません。
また、外国人の脱退一時金や生活保護に関する情報は各省庁に分散しており、自治体が再入国した外国人を把握する仕組みが不十分であることも大きな課題です。
今後は、外国人に関する社会保障情報と出入国情報を一元的に管理し、地方自治体も迅速に情報を確認できる仕組みが求められます。
加えて、外国人労働者や留学生が日本で安心して生活できるよう、適正な支援と公平なルールのもとで社会に参加できる制度作りも欠かせません。
外国人と日本社会の未来を見据えた制度設計を
日本は今後、労働力不足を補うために外国人との共生をさらに進める必要があります。
だからこそ、外国人に対する社会保障制度は、公平で透明性が高く、適切に運用されることが重要です。
外国人を排除することではなく、制度の趣旨に沿った支援を正しく行い、必要な人に確実に届ける仕組みを整えることが、社会全体の信頼につながります。
そのためには、社会保障制度の定期的な見直しと、制度を支える情報管理体制の強化が不可欠です。
日本社会がこれからも持続可能で、公平な支え合いを実現するために、外国人を対象とした社会保障制度の課題と向き合い、改善を続けることが求められます。