2026年3月、サッポロホールディングス傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジは、自動販売機事業を売却することを発表しました。全国に設置している約4万台の自動販売機は、清涼飲料メーカーのライフドリンクカンパニーに譲渡される予定です。売却額は公表されていませんが、ポッカサッポロの商品は当面の間、これまで通り販売される見込みとされています。
同じ時期に、自動販売機ビジネスを主力としてきたダイドーグループホールディングスも厳しい決算を発表しました。2026年1月期の連結決算では、最終利益が303億円の赤字となり、過去最大の赤字を記録しています。これを受けて、同社は不採算と判断した自動販売機約2万台を撤去する方針を明らかにしました。
こうした動きは、単に個別企業の経営判断というだけでなく、日本の自動販売機ビジネス全体が変化していることを示している可能性があります。
日本は世界有数の自販機大国
日本の街を歩くと、駅前や住宅地、観光地など、さまざまな場所で自動販売機を見かけます。飲み物を手軽に購入できる便利な存在として、日本の生活に深く根付いています。
治安が良く現金でも購入できる利便性があることから、自動販売機は都市部だけでなく地方にも広く普及しています。飲料だけでなく、アイスクリームや食品、日用品などを販売する自販機も登場し、私たちの日常生活の一部となっています。
しかし、国内の自動販売機の台数はすでに減少傾向にあります。日本自動販売システム機械工業会の統計によると、国内の自動販売機は2022年時点で約396万台となり、400万台を下回りました。かつては500万台近くあったことを考えると、長期的には着実に減少していることが分かります。
今回のポッカサッポロの事業売却やダイドーの自販機撤去は、このような流れの中で起きている出来事だと言えるでしょう。
自販機の価格が敬遠される背景
自動販売機ビジネスが厳しくなっている理由の一つは、価格の問題です。自動販売機で販売される飲料は、スーパーやドラッグストアで購入する場合と比べると、価格が高くなることが多くあります。
近年は原材料費や物流費の上昇により、飲料メーカー各社が値上げを行っています。その結果、自動販売機で販売されるペットボトル飲料の価格も上がり、200円近くになる商品も珍しくなくなりました。
消費者の節約志向が強まる中で、同じ商品がスーパーでは安く購入できる場合、わざわざ自販機を利用する機会は減ってしまいます。このような状況が、自販機での販売不振につながっていると考えられています。
運営には意外と人手が必要
自動販売機は無人で商品を販売する仕組みですが、実際には運営に多くの人手が必要です。商品を補充したり、売上金を回収したり、空き缶を回収したりする作業が定期的に行われています。また、故障した場合の修理や機械の点検も欠かせません。
特に補充スタッフの仕事は体力を使う業務です。トラックで飲料を運びながら複数の自販機を回り、重いペットボトルや缶を補充する作業を行います。日本では物流業界の人手不足が深刻化しており、こうした業務の人材確保が難しくなっていることも、自販機ビジネスのコスト上昇につながっています。
コンビニコーヒーとの競争
もう一つの大きな変化は、コンビニエンスストアのコーヒーサービスの普及です。2010年代以降、コンビニ各社はレジ横で淹れたてのコーヒーを提供するサービスを拡大してきました。100円台で本格的なコーヒーを飲めるため、多くの利用者に支持されています。
自動販売機では長年、缶コーヒーが主力商品でした。しかしコンビニコーヒーの登場により、缶コーヒーの需要が以前ほど伸びなくなったと指摘されています。缶コーヒーを主力としてきたメーカーにとっては、大きな競争環境の変化となりました。
大手企業も自販機事業の見直し
自販機ビジネスの厳しさは、ダイドーだけの問題ではありません。飲料業界の大手企業でも、自販機関連の資産価値を見直す動きが見られます。
コカ・コーラボトラーズジャパンは、2025年の決算で自販機事業に関連する減損損失として約904億円を計上しました。また伊藤園も、自販機事業の収益性の低下を受けて約137億円の減損損失を計上しています。こうした減損処理は、将来の収益性が低下すると判断された資産の価値を見直すものであり、自販機ビジネスの環境が厳しくなっていることを示しています。
自販機は今後も必要とされる
ただし、自動販売機が日本からなくなるわけではありません。自販機は24時間稼働でき、店舗を構える必要がないため、効率的な販売手段でもあります。特に人手不足が進む社会では、無人販売の仕組みが見直される可能性もあります。
最近ではキャッシュレス決済に対応した自販機や、スマートフォンと連携した販売機など、新しいタイプの機械も増えてきました。また、飲料以外にも冷凍食品や地域特産品などを販売する自販機が登場し、活用の幅は広がっています。
今後は単純に自販機の数を増やすのではなく、収益性の高い場所に集中させたり、新しい商品やサービスを組み合わせたりする形でビジネスモデルが変化していくと考えられます。
自販機ビジネスは再編の時代へ
今回のポッカサッポロの事業売却やダイドーの自販機撤去は、日本の自販機ビジネスが転換期に入っていることを象徴する出来事と言えるでしょう。これまでのように大量の自販機を設置するモデルは、コスト上昇や消費行動の変化によって見直しを迫られています。
今後は設置場所の選別や企業間の再編、新しい自販機の導入などが進む可能性があります。街角に並ぶ自動販売機は、日本の風景の一部として長く親しまれてきました。そのビジネスがどのように進化していくのか、今後の動きに注目が集まりそうです。
