2025年5月27日、政府・与党の自民党、公明党、そして野党の立憲民主党の3党は、年金制度改革法案の修正に合意しました。この法案の中心には「基礎年金の底上げ」がありますが、その財源に厚生年金の積立金を活用するという内容が、世代や立場を超えて議論を巻き起こしています。
この記事では、「基礎年金の底上げ」はいつから実施されるのか、どのくらい増えるのか、そしてなぜ今この改革が必要とされているのか、またSNSや専門家、政治家たちの反応を交えて分かりやすく解説します。
年金制度改革法案とは?ポイントは基礎年金底上げ
今回の年金制度改革法案の大きな焦点は、基礎年金(国民年金)の給付水準を将来的に底上げすること。現行制度では、少子高齢化により基礎年金の給付額が長期的に目減りするリスクが指摘されています。これに対応するため、厚生年金の積立金を一部活用し、底上げを図るというのが今回の修正案の骨子です。
ただし、この「底上げ措置」がすぐに実施されるわけではなく、実際に制度が動き出すのは「4年後の財政検証の結果次第」となっており、今すぐ具体的な給付額が変わるわけではありません。

「基礎年金の底上げ」とは?
- 厚生年金の積立金を一部取り崩し
- その資金を「国庫負担+税財源」と合わせて国民年金の給付原資に上乗せ
- 将来、大幅に目減りする恐れがある基礎年金の給付水準を底上げする――という構想です。現行制度では、物価や賃金の伸びが低迷すると“マクロ経済スライド”により基礎年金が長期的に低下する懸念があります。底上げ策は、この「長期低下リスク」を和らげる安全弁として位置づけられました
基礎年金の底上げ?…いくら増える?
厚生労働省が示したモデルケースによれば、以下のようなシミュレーションが発表されています。
- 現在40歳の女性(65歳から平均寿命まで年金を受給する場合):295万円プラス
- 就職氷河期世代の50歳男性:約170万円プラス
- しかし、70歳男性(現在既に受給中):総額で23万円のマイナス
現在年金を受給している高齢者世代に恩恵はあるのか?
今回の年金制度改革に関して、もっとも多くの不満や疑問の声が上がっているのが、すでに年金を受給している高齢者世代への影響です。すでに65歳以上で年金を受け取っている世代の一部では、かえって受給額が減る可能性があるのです。
これは、厚生年金の積立金を財源として流用することに起因しており、制度設計の段階で「将来世代への給付水準の安定」を優先しているためです。そのため、「過去に積み立ててきたのに自分たちにはメリットがない」「むしろ減らされるのは納得できない」といった怒りの声が上がっています。
政府としても、「厚生年金の受給額が減る場合には、緩和措置をとる」と法案の付則に明記することで一定の配慮を示していますが、実効性や具体性はまだ不透明です。
基礎年金底上げ:総理・政治家の発言から見る「思惑」
石破総理の発言
石破茂総理は記者会見で、以下のように述べました。
「年金改革法案に対し、3党において真摯かつ活発な議論が行われました。合意は非常に意義深いことであり、法案の早期成立に努力していきたい」
また、厚生年金積立金の流用に関しては、「政府が目指す成長型経済ではこの措置は発動されない」としつつ、「仮に発動する場合でも、国庫負担は2030年代半ばから増加していく」との見通しを示しました。
立憲民主党・野田代表の「名言」
先週の党首討論で、野田佳彦代表は印象的なフレーズを放ちました。
「まさに、あんこが入っていないあんパンを出してきた。年金の協議、真剣にやりましょう」
これが議論の火付け役となり、今回の修正案合意につながったとも言われています。修正合意後には「年金改革の一里塚に立つことができた」と一定の前進を評価しました。
河野太郎前デジタル相の辛辣な批判
一方で、自民党内からも異論が出ています。河野太郎前デジタル大臣はX(旧Twitter)でこう述べました。
「毒入りあんこだ。厚生年金の被保険者が負担した保険料を勝手に目的外利用している」
国庫負担の財源が不明確であることを強く問題視しており、法案への根本的な疑念を示しています。
なぜ基礎年金の底上げが必要なのか?
現在の年金制度は「賦課方式(現役世代が高齢者を支える)」が基本で、少子高齢化が進むなか、制度維持が難しくなっています。現役世代100人が支える高齢者は、この30年で約19人から37人へ。保険料方式だけで基礎年金水準を維持するのは困難です。
特に自営業や非正規雇用で国民年金のみ加入している人々は、満額でも月6万7千円程度。物価上昇局面では「老後の最低生活費」を下回る恐れがあり、貧困防止策が急務です。
被用者保険である厚生年金は加入者減少が緩やかで、積立金運用収益も厚め。ここを“財源の橋渡し”に利用できないか──というのが立憲民主党の提案でした。こうした背景により、与野党は「底上げの検討自体は不可欠」と一致し、発動条件と財源の在り方を巡って折衝を続けてきたわけです。
SNSや市民の声:「不公平」「現役世代の犠牲か?」
今回の改革案について、SNS上などでは次のような声が多く聞かれました。
- 「会社員が一番損するって何?自分たちの積立金が他人のために?」
- 「厚生年金から流用って、それ本当に公平?」
- 「物価が上がってるのに、年金が減るってどういうこと?」
- 「若い人が得するのはいい。でも今の高齢者の生活は?」
中には、「長期的に見れば制度の持続可能性が高まるから賛成」という意見もありますが、全体としては厚生年金の積立金を使うという方針に対して不信感が根強いようです。
基礎年金底上げ:いつから実施されるの?
今回の年金制度改革法案で示された「基礎年金の底上げ」措置は、すぐに始まるわけではありません。
現時点では、「4年に一度行われる財政検証の結果を踏まえて判断する」という方針が示されており、最速でも制度の見直し・実施は2029年度以降と見込まれています。
つまり、2025年の時点で制度が決まったとしても、実際に受給額が増えるのは現役世代にとっての将来の話。
この「将来に向けた備え」としての制度改革が、どれだけ国民に理解され、支持されるかが今後の鍵となるでしょう。
年金制度改革の「現実」と「課題」
今回の「基礎年金底上げ」による制度改革は、将来に向けた前向きな一歩とも言えます。一方で、現時点では財源の不透明さや、世代間の受給額の差、不公平感といった多くの課題が残されています。
「いつから?」「いくら?」という疑問に対しても、「4年後の財政検証で判断」という玉虫色の回答に、多くの国民が不安を抱いているのが実情です。
今後、法案は衆議院を通過し、今国会での成立が見込まれています。社会全体として「どこに税を使うか」「誰がどのように老後を支え合うのか」という本質的な議論が、今こそ求められているのかもしれません。