2026年度予算編成の大詰めの中で、政府は診療報酬を12年ぶりに引き上げる方針を決定しました。物価高や人件費の上昇により、病院経営が厳しさを増す中での決断です。
一方で、高額療養費制度の見直しや「OTC類似薬」の患者負担増、薬価の引き下げなど、私たちの生活に直結する変更も同時に進められています。
この記事では、今回の診療報酬改定が私たちの暮らしに与える影響を分かりやすく解説します。

診療報酬とは何か なぜ改定が重要なのか
診療報酬とは、病院や診療所が提供した医療行為に対して国が定める公定価格です。初診料、検査、手術、入院管理、リハビリなど、ほぼすべての医療行為に点数が決められています。
患者は原則としてこの費用の一部(多くの場合3割)を自己負担し、残りは健康保険から医療機関に支払われます。つまり、診療報酬は「病院の収入の基盤」であり、「患者負担の水準」を左右する重要な仕組みです。
今回の診療報酬改定の概要
今回の改定では、医療機関の技術料や人件費に相当する「本体部分」を引き上げる一方で、薬の公定価格である「薬価」を引き下げる方針が示されました。
全体としてはプラス改定ですが、財源確保のため、患者側の負担が増える制度改正も組み合わされています。これが今回の特徴です。
医療従事者の給与は上がるのか
多くの人が気になるのが、「診療報酬が上がるなら、医師や看護師の給料も上がるのか」という点です。
結論から言えば、医療従事者の給与引き上げは、基本的に病院や医療法人の裁量によります。
診療報酬は国が一律に定めますが、職員の給与水準や配分方法までは国が直接決めていません。そのため、診療報酬が引き上げられても、必ずしも全ての医療従事者の給料が自動的に上がるわけではありません。
それでも給与改善が期待される理由
では、なぜ「医療従事者の待遇改善につながる可能性がある」と言われているのでしょうか。
その理由は、今回の引き上げが「医師の技術料」「人件費」を意識した本体部分に重点を置いているからです。多くの病院では、これまで人件費の高騰に診療報酬が追いつかず、賃上げが難しい状況が続いてきました。
診療報酬が増えれば、病院の収支に一定の余裕が生まれ、以下のような対応が可能になります。
・看護師や医療スタッフの基本給引き上げ
・夜勤手当や資格手当の見直し
・人員確保のための待遇改善
特に人手不足が深刻な看護師、介護職、医療技術職では、処遇改善に診療報酬を活用する病院が増える可能性があります。
ただし、赤字が続く病院では、まず借入返済や設備維持に回され、給与に十分反映されないケースも考えられます。
薬価引き下げとは何か
今回の改定では、薬の公定価格である「薬価」が引き下げられます。
薬価とは、同じ薬であれば全国どこの医療機関でも同じ価格で使われるように国が定めた価格です。定期的に市場価格との乖離を調整するため、見直しが行われています。
薬価が下がると何が変わるのか
薬価引き下げによる影響は、立場によって異なります。
患者への影響
短期的には、薬価が下がれば自己負担額も下がる場合があります。ただし、今回の改定では「OTC類似薬」の患者負担増が同時に進められるため、必ずしも薬代が安くなるとは限りません。
特に、ロキソニンやアレグラ、ヒルドイドなど、市販薬と成分が似ている薬については、保険適用を維持しながら追加負担を求める方向です。結果として、病院で処方しても市販薬と価格差が縮まる可能性があります。
医療機関への影響
薬価が下がると、病院や診療所が薬で得られる利益は減少します。これまで薬価差益が経営を支えていた医療機関にとっては、収益構造の見直しが迫られます。
その分、今回の改定では薬価を下げる代わりに診療報酬本体を引き上げることで、「薬より技術・人」を評価する方向へ制度を転換しています。
製薬会社への影響
薬価引き下げは製薬会社の収益にも影響します。特に長期間使われている医薬品では利益が圧縮され、新薬開発への投資余力が課題になるという指摘もあります。
私たちが知っておくべきポイント
今回の診療報酬改定で重要なのは、次の点です。
・医療従事者の給料は自動的に上がるわけではなく、病院の判断に委ねられる
・ただし、処遇改善に使える原資は増える
・薬価引き下げで「薬より医療技術を評価する」方向が強まる
・患者側は一部で自己負担増に直面する可能性がある
12年ぶりの診療報酬引き上げは、日本の医療制度が大きな転換点を迎えていることを示しています。医療現場を支えるための前向きな改定である一方、患者側には新たな負担も生じます。
医療従事者の待遇改善がどこまで進むのか、薬の使われ方がどう変わるのかは、今後の運用次第です。私たち一人ひとりが制度を正しく理解し、自分の生活にどのような影響があるのかを考えることが、これからますます重要になります。

