冬の味覚として愛されてきた広島のカキが、今季に入り前例のない規模で大量死しています。広島県の主要海域では、養殖カキの8〜9割が死滅したとの報告が続き、生産者は「産地として存続できるのか」と不安を募らせています。農林水産大臣も現地を視察し、原因の究明と支援策の検討が進められています。
さらに、この被害は広島県にとどまらず、兵庫県(播磨灘)でもカキが大量死していることが確認され、瀬戸内海全体の問題へと広がりつつあります。カキは海環境の変化に敏感であるため、何が起きているのか、そして私たちは何を知り、どう受け止めるべきなのかを整理することが重要です。
この記事では、
・広島と兵庫のカキ大量死の現状
・考えられる原因
・業界・行政がとるべき対策
・消費者が使える「代わりのカキ」
・今後の見通し
を、丁寧でわかりやすく解説します。
広島で何が起きているのか──「ほぼ全滅」という現場の声
広島県の中部沿岸、東広島市や呉市などを中心に、今季は8〜9割のカキが死滅したという報告が相次いでいます。
「残っているのは1割もない」「年末の贈答用の予約も受けられない」といった声が現場から上がり、生産者の経営に甚大な影響が及び始めています。
さらに、ふるさと納税の返礼品で生ガキを提供していた自治体では、受付の一時停止や冷凍品への切り替え、寄付者への連絡など、対応に追われる状況となっています。
一方、飲食店やカキ小屋でも「ピーク時の仕入れができるのか」「価格が高騰しないか」と不安を口にするなど、地域経済全体に影響が波及しているのが現状です。

兵庫県でも「同じ現象」が起きている
被害は広島だけではありません。
兵庫県(特に播磨灘)でも、例年に比べてカキのへい死率が極めて高く、地域の漁協や生産者は緊急の調査を進めています。
広島と兵庫は瀬戸内海でつながっており、海況や気象への影響を共有しやすいため、
- 今年の気候変動
- 水温の異常上昇
- 雨量の偏り
- 海水の塩分濃度の変化
といった環境要因が広域で同時に作用している可能性が指摘されています。兵庫県の水産担当はまず被害実態の把握に努め、その上で漁業者支援を検討するとしています。
なぜ大量死が起きたのか──専門家が指摘する3つの主要因
現時点では「完全に特定された原因」はありませんが、複数の研究データや現場報告から、以下の3つの要素が複合して起きた可能性が最も高いとされています。
① 海水温の上昇(高水温ストレス)
今季は夏から秋にかけて海水温が高く、カキが長期間ストレスを受けた可能性があります。
海水温が上がると、
- 呼吸が増え疲弊しやすくなる
- 体内の微生物バランスが崩れる
- 病原菌の増殖が加速する
などが起き、カキの抵抗力が著しく低下します。
特に幼若のカキは水温変化に弱く、短期間で大量死に至るケースが多く報告されています。
② 雨量の偏りによる塩分濃度の変化
今年は地域によって「少雨」と「豪雨」が極端化しました。
その結果、
- 少雨 → 塩分濃度が上がりすぎる
- 豪雨 → 塩分が急激に薄まる
といった急変が生じ、カキは大きなストレスを受けます。塩分や溶存酸素の急変は病原微生物との相互作用を通じて大量死を引き起こすことが知られています。
また、風向きや潮流の変化による酸素の少ない海水(いわゆる苦潮)の滞留も影響した可能性があり、広島・兵庫の一部海域で似た現象が観測されています。
③ 病原体(ウイルス・細菌)の増加
高水温や塩分変化は、カキに害を与える細菌やウイルスが増殖しやすい環境をつくります。
特に、
- ビブリオ属の細菌
- 未知のウイルスの関与
が疑われるケースもあり、国内外の研究機関が解析を急いでいます。
単独の原因ではなく、複数の環境ストレスと微生物変化が重なった可能性が極めて高いというのが、現時点の最新の見方です。

生産者・行政がとるべき対策とは?
カキの大量死は「その年だけの不漁」で終わらず、養殖業の土台を揺るがす問題です。短期的な支援と、中長期の構造的対策を両方進める必要があります。
短期的な対策(緊急対応)
- 被害状況の調査と共有
海水温・塩分・酸素濃度のデータを集中的に測定し、被害原因を絞り込む。 - 経営支援・金融支援
収入が激減する生産者への補助や融資、ふるさと納税返礼品対応のサポートなど。 - 出荷・流通の適正化
生食向けは安全性を厳格にチェックし、冷凍・加工への切り替えで損失を抑える。
中長期的な対策(再発防止)
- 海域モニタリング体制の強化
高水温・塩分変化・微生物検査を定期的に行い、早期警戒システムを整備。 - 養殖手法の見直し
浮き棚の位置変更、飼育密度の調整、海域のローテーション化など。 - 種苗の改良
耐熱性や病害耐性のあるカキの育種は、将来的に欠かせないテーマ。 - 気候変動に適応する産業構造への転換
将来的には、より適した海域への移行や他品目との併養殖など、多角化も視野に入る。
広島のカキが不足した場合、代わりに使えるのは?
広島の生産量は全国の6割を占めるため、広島産が減ると全国の供給バランスが大きく崩れます。とはいえ、次の産地は安定した供給力を持っています。
代わりに使える主な国産カキ
- 宮城県(三陸)
生食用カキの評価が高く、冬場の供給力も強い。 - 岡山県(瀬戸内)
広島に次ぐ西日本の産地で、品質が安定。 - 岩手県、北海道
大粒で旨味が強いカキが多く、加工品にも向く。
広島産の風味は特有ですが、料理法に合わせれば他産地でも十分に美味しく楽しむことができます。
これからの見通し──「広島ブランド」を守るために
今回の大量死は、広島や兵庫といった産地にとって大きな打撃であり、養殖技術と海洋環境管理における転換点となる出来事です。
今後は、
- 科学的な原因の特定
- 気候変動への長期的対策
- 持続可能な養殖体制の構築
- 消費者への正しい情報提供
がより重要になります。
カキは日本の冬の食文化を支える存在であり、産地の努力と行政の支援、そして消費者の理解が揃ってこそ、次の世代へと味をつなぐことができます。
生産者に寄り添いながら「どのようにカキ産業を守り、育てていくか」。
今こそ、それを真剣に考える時期に来ています。

