通知表のあり方が大きく変わろうとしています。静岡県掛川市教育委員会は、2026年度から市立小学校の1〜3年生で通知表を廃止し、2027年度には4年生まで対象を広げる方針を決めました。全国的にも珍しい試みであり、教育現場や保護者に大きな関心を呼んでいます。本記事では、この方針の背景や狙い、実際の取り組み内容、そしてメリットや課題をわかりやすく整理します。
通知表を廃止する理由とは?
掛川市が通知表を廃止する理由の一つは、教員の事務作業の負担軽減です。通知表を作成するには多くの時間と労力が必要で、子どもたちと向き合う時間が削られてしまうという課題がありました。
もう一つの理由は、低学年の子どもたちにとって「成績の序列」が学習意欲を下げてしまうリスクがあることです。評価を点数や記号で示すのではなく、直接的な対話や具体的なフィードバックを通じて成長を後押しする方が望ましいと判断されたのです。

通知表に代わる新しい仕組みとは?
三者面談の導入
通知表の廃止に伴い、掛川市は保護者と教員だけでなく、児童本人も同席する三者面談を導入します。子ども自身が学びを振り返り、自分の言葉で課題や目標を確認することで、自己理解や主体性が高まると期待されています。
学習支援アプリの「カルテ」
授業で使う学習支援アプリのデータを活用し、一人ひとりの到達度や学習傾向をまとめた「カルテ」を作成します。これにより、従来の通知表では見えにくかった強みや課題が可視化され、より具体的な指導や家庭でのサポートにつながります。

通知表廃止のスケジュール
- 2026年度:1〜3年生の通知表を廃止
- 2027年度:4年生まで拡大
- 5・6年生:受験や進学準備を考慮し通知表を継続
このように段階的に導入することで、現場の混乱を最小限に抑えつつ、新しい評価方法を定着させていく狙いがあります。
通知表をなくすメリット
- 教員の負担軽減
通知表作成にかかる時間が減り、子どもと向き合う時間を増やせる。 - 子どもの主体性向上
三者面談を通じて、子ども自身が自分の課題や目標を理解しやすくなる。 - 具体的でわかりやすい評価
カルテを活用することで、単なる記号評価よりも詳細なフィードバックが可能になる。
通知表廃止に伴う課題や懸念
一方で、保護者や現場からは課題も指摘されています。
- 評価の記録が残りにくい
通知表は紙媒体として残るため、後から振り返ることが容易でした。カルテや面談の内容をどのように記録・保存するかが課題です。 - 保護者の理解度に差が出る可能性
共働きなどで面談に参加しにくい家庭への配慮が必要です。オンライン面談や記録共有など柔軟な対応が欠かせません。 - データの活用方法と管理
学習アプリのデータがどのように分析され、どのように保護者へ説明されるか、また個人情報の管理も重要になります。
他自治体の通知表改革
掛川市だけでなく、全国的に通知表の見直しは進みつつあります。岐阜県美濃市では、2025年度から1年生の通知表を廃止し、翌年度には2年生まで拡大する予定です。いずれの自治体も共通しているのは、序列化による学習意欲の低下を防ぎ、子どもたちに前向きな学びを促すことを目的にしている点です。

海外の通知表はどうなっている?
ここで気になるのが「海外には通知表があるのか」という点です。実は国によって大きな違いがあり、その国の教育理念を色濃く反映しています。
アメリカ
- Report Card(レポートカード) が通知表にあたります。
- 学期ごとに配布され、A〜Fの成績評価に加えて出席状況や生活態度も記載されます。
- 最近ではオンラインで随時成績を確認できる学校が増えています。
イギリス
- School Report と呼ばれる成績表があります。
- 成績だけでなく、教師による長めのコメントが中心で、文章によるフィードバックが重視されます。
- 子どもの努力や成長過程に焦点が当てられる点が特徴です。
フィンランド
- 低学年では数値評価を行わず、記述式のフィードバックが中心。
- 高学年から数値評価が導入されますが、依然として成長のプロセスを重視する教育方針が維持されています。
ドイツ
- 数字による評価(1が最高、6が最低)。
- 成績が進路に直結するため、通知表の位置づけが非常に重いのが特徴です。
フランス・韓国・中国
- 点数や順位を重視する傾向が強く、通知表にもその成績が明確に反映されます。
- 特に進学競争が激しい国では、通知表は子どもの将来を左右する重要な資料となります。
まとめ:通知表から「対話」と「カルテ」へ
掛川市の通知表廃止は、単に評価方法を変えるのではなく、教育のあり方そのものを見直す挑戦です。従来の「記号での評価」から、子ども・保護者・教員の三者が向き合う「対話型の評価」へと転換する取り組みと言えるでしょう。
今後は、カルテの活用方法や面談の質をどう高めていくかが課題となります。通知表がなくなることに不安を感じる保護者もいるかもしれませんが、子どもの成長をより丁寧に支える仕組みとして期待できる一歩です。