外国人労働者の受け入れ拡大が進む中、外国人タクシー運転手の日本語能力要件が緩和される方針が検討されています。これまでは日本語能力試験「N3以上」が必要とされていましたが、今後は「N4」での就労が可能になる制度変更が議論されており、現場では賛否が分かれています。
加えて、タクシーだけでなく、バスやトラック運転手も外国人労働者の受け入れ対象となり、制度の枠組みが大きく動き出しています。
外国人タクシー運転手の日本語要件はなぜ緩和されるのか
深刻な人手不足と特定技能制度の拡大
政府は2024年6月、有識者会議で「自動車運送業」を特定技能の対象に追加し、バス・タクシー・トラック業界の人材不足解消に本格的に乗り出しました。
現在、外国人タクシー運転手は「日本語能力試験 N3以上」が求められていますが、実際にはこの基準をクリアした外国人はほとんどおらず、人材確保が困難な状況が続いています。
そのため、政府は日本語能力要件をN4に緩和する方向で制度を見直し、段階的に外国人運転手が増える仕組みを検討しています。
N4とは? N3との違いは?
日本語能力試験(JLPT)は、難易度が高い順にN1からN5までの5段階に分かれています。
- N3レベル:日常会話がある程度理解でき、業務中の指示や雑談、トラブル対応も基本的にこなせる水準。
- N4レベル:ゆっくり話せば簡単な指示は理解できるが、複雑な会話や臨機応変な対応は難しいレベル。
これまでタクシー運転手には、乗客との会話や走行ルートの指示、トラブル時の迅速なやり取りが求められることから、N3以上が必須とされてきました。
外国人バス運転手170人、特定技能で公道へ 日本語能力低い場合は「サポーター」が同乗 https://t.co/z4arRhEEKQ
— JAPAN NEWS NAVI (@JapanNNavi) June 20, 2025
政府が検討する新制度の内容
政府が検討している新たな受け入れ方針は以下の通りです。
- 入国時に日本語能力N4を認める。
- N4の外国人でも、離島や過疎地では単独でタクシー運転を可能にする。
- 都市部では「日本語サポーター」を車内に同乗させることで就労を認める。
- 入国後、日本語教育を受け、一定期間内にN3合格を目指す仕組みを導入。
現場からの懸念「タクシーはN4で足りるのか?」
実際にタクシー業界で働く現場の声では、要件緩和に対する慎重な意見もあります。
武蔵野市議でタクシードライバーでもある下田大気氏は、次のように指摘しています。
「トラックやバスは、決まったルートを走ることが多く、ある程度の日本語で問題ない場合もあるかもしれません。しかしタクシーは違います。乗客が走行ルートを細かく指定することも多く、道を間違えた場合やトラブル時の対応では、日本語で瞬時に正確なやり取りができることが不可欠です。N4レベルでは、対応に不安が残ります。」
タクシーは単なる移動手段ではなく、顧客との密接なやり取りが日常的に求められる業務です。要件緩和によって、安全性やサービスの質が低下しないか、慎重な議論が続いています。
トラック運転手も外国人受け入れを拡大
トラック運転手はすでに緩和が進んでいる
実は、今回の外国人労働者受け入れ拡大はタクシー・バスだけでなく、トラック運転手にも対象が広がっています。
2024年3月、政府は自動車運送業を特定技能の対象に追加し、トラック運転手は日本語能力試験N4以上で就労可能とする制度がすでに整備されました。
物流業界では、「2024年問題」によりドライバー不足が一段と深刻化しており、外国人トラック運転手の受け入れは急務とされています。
トラック運転手とタクシー運転手、制度の違い
比較項目 | トラック運転手 | タクシー運転手 |
---|---|---|
日本語要件 | N4以上 | 現状N3以上(緩和検討中) |
主な業務 | 荷物配送 | 顧客の送迎 |
顧客との会話 | 基本的に少ない | 日常的に必要 |
課題 | 免許取得、交通安全 | 日本語での柔軟な会話、安全性 |
トラック業務は、目的地が事前に決められていることが多く、顧客との直接的な会話は比較的少ないため、日本語N4レベルでも業務に支障が出にくいと考えられています。
一方、タクシー業務は、利用者とのコミュニケーションや細かなルート指示への対応が日常的に発生するため、N4では業務が円滑に進まない恐れが強いとされています。
制度運用で今後求められること
制度の緩和にあたっては、以下のような具体的な対策が求められます。
- 日本語サポーターの役割と研修体制の整備
- 入国後の日本語学習支援と教育プログラムの充実
- 交通安全・接客マナーを含む専門的な実務教育の義務化
- 通訳アプリや多言語対応システムの活用促進
海外では、通訳アプリやタクシー専用の多言語サポート端末が普及しており、日本でもこうした技術導入が今後の重要な選択肢となりそうです。
まとめ
外国人タクシー運転手の日本語要件は、これまで「N3以上」と厳しく設定されていましたが、今後は「N4」への緩和が検討されています。
トラック運転手については、すでにN4での受け入れが制度化されており、物流業界では実際の導入が進みつつあります。
ただし、タクシーはトラックとは違い、乗客とのコミュニケーションが業務の中心であり、現場では「N4では十分ではない」との声が根強くあります。
政府は今後、人手不足解消と安全・サービス品質の両立をどのように図っていくのか、引き続き慎重な制度設計と現場の実情を反映した柔軟な運用が求められます。