日本郵便に対し、国土交通省が一般貨物自動車運送事業の許可取り消し処分を正式に決定する方針を固めました。この処分は2025年6月25日に発出される予定で、物流業界や私たち利用者にも大きな影響を与える可能性があります。
今回の問題は、長期間にわたる点呼不履行(運転手への安全確認義務違反)が原因です。本記事では、処分に至った背景や、ゆうパック・郵便物への影響、配達員の今後について、わかりやすく整理します。
日本郵便の点呼不履行がなぜ問題なのか
点呼とは、貨物運送事業者が運転手の健康状態やアルコールチェック、車両点検の状況を出発前後に必ず確認する法令上の義務です。この点呼は、重大事故を防ぐための重要な安全確認ですが、日本郵便では全国的に長年、不適切な点呼が続いていたことが発覚しました。
問題が明るみに出たのは2025年1月。兵庫県内の郵便局で点呼が行われていない事例が判明し、なかには飲酒運転が疑われる事例もあり、国土交通省は厳正な処分が必要と判断しました。
問題の概要と経緯
2025年4月に日本郵便自身の社内調査によって問題が発覚しました。全国3188か所の郵便局のうち、実に75%にあたる2391か所で点呼が適切に行われていない実態が判明しました。
さらに深刻なのは、点呼を実施していないにもかかわらず、実施したかのように偽りの記録が多数作成されていたことです。これは単なる不備に留まらず、意図的な法令違反や監査逃れを目的とした組織的な行為であると判断されています。虚偽の記録は10万件以上に上ると報じられています。
点呼不履行の背景
運転手の健康状態や酒気帯びの有無を確認する点呼が、全国の多数の拠点で適切に行われていませんでした。
これは現場単位の問題ではなく、会社全体の安全管理やコンプライアンス意識の欠如が原因と指摘されています。背景には、コスト削減や人手不足による過剰な業務効率化の圧力があり、かつてのかんぽ生命の不正販売問題と同様の構造的課題を抱えていたともいわれています。
さらに「勤務時間中の飲酒をする社員がいるはずはない」という思い込み、特に、乗務後のアルコールチェックについては、このような誤った認識から実施率が低くなっていたことが報告されています。実際に勤務時間中の飲酒運転事案も発生しています。

国交省が出す行政処分の内容
国交省は、日本郵便に対して一般貨物事業の許可を取り消す方針を示しました。これにより、日本郵便が保有していた約2,500台のトラックやバンは、5年間使用できなくなります。
また、日本郵便が全国で保有している軽トラック(約3万2,000台)については、許可制ではなく届け出制のため、許可取り消しの対象にはなりません。ただし、軽貨物に対しても国交省は安全確保命令を出す方針です。
この命令に違反した場合、初回で60日間の車両使用停止、再違反では事業停止といった追加処分が科されることになります。
ゆうパックや郵便物への影響はあるのか
日本郵便は、今回の行政処分に伴い、他の運送会社への業務委託を基本としながら、自社が保有する約32,000台の軽四貨物車両を活用し、サービス提供を継続する方針を示しています。確実な点呼の実施を大前提としたうえで、郵便物やゆうパックなどの荷物について、お客さまにご迷惑をおかけしないよう、引き続き確実かつ適切に提供していくとしています。
日本郵便:点呼業務不備事案に関する行政処分及び当社の対応について
ただし、日本郵便のトラック事業停止により、拠点間の集配業務や大規模郵便局での荷物運搬に影響が出ることが予想されます。
ゆうパックは遅れる可能性がある
日本郵便が提供する宅配便「ゆうパック」は、年間約10億個が取り扱われており、その多くは拠点間輸送でトラックが使われています。今回の処分により、一部の地域で1~2日の配送遅延が発生する可能性があります。
ただし、日本郵便は自社子会社(日本郵便輸送)や外部の宅配業者(ヤマト運輸、佐川急便、西濃運輸など)に輸送を委託し、対応する方針です。日本郵便の千田哲也社長によると、停止対象となる一般貨物の約58%を外部委託し、残り42%を自社の軽トラックで代替する計画が進められています。
郵便物はどうなるのか
通常郵便(普通郵便やゆうメールなど)は、一部の拠点間輸送でトラックが使用されていたため、集配の遅延リスクはありますが、航空便や鉄道輸送も利用しているため、大規模な混乱は回避される見通しです。
特に速達や書留といった優先サービスは引き続き通常通り行われる見込みです。ただし、長距離便や地方発送の場合、多少の配達遅延が生じる可能性があるため、利用者は早めの発送を心掛けたほうが安心です。

ドライバーはどうなるのか
今回の処分により、トラック事業で働いていた運転手(ドライバー)の業務にも影響が出ます。
トラック運転手は配置転換が進む
トラックの使用が停止されるため、該当するドライバー約4000人は配置転換が検討されています。一部のドライバーは日本郵便輸送など子会社や、外部委託先で働く可能性も考えられます。
軽貨物ドライバーは継続可能だが注意が必要
軽貨物については継続使用が可能ですが、国交省が出す安全確保命令に違反すると車両使用停止や事業停止の処分を受ける郵便局が出てくる可能性があります。
個人事業主として日本郵便の配送を請け負っている軽貨物ドライバーにも負担が集中する恐れがあり、今後は安全管理の徹底と適正な業務量の調整が求められます。
なぜ許可取り消しは異例なのか
今回の処分は、国が認可する一般貨物自動車運送事業の「最も重い処分」であり、大手事業者に適用されるのは非常に珍しいケースです。
日本郵便は全国に物流網を持ち、社会インフラの一部として位置づけられている企業ですが、それでも安全管理の重大違反に対しては例外がないことが示された形です。
許可取り消しは5年間再取得ができない厳しい処分であり、日本郵便は今後、安全管理の徹底と信頼回復に全力で取り組む必要があります。

郵便物が遅れる可能性
日本郵便の物流体制には当面の間、影響が残ると予想されるため、利用者側も以下のような対策を検討しておくと安心です。
- 早めの発送を心掛ける
通常よりも1~2日余裕を持った発送が安全です。 - 速達や書留の活用
重要書類や急ぎの荷物は優先配送サービスを積極的に利用しましょう。 - 配送状況の確認をこまめに行う
追跡サービスで荷物の動きを確認する習慣を持つことが大切です。 - 複数の配送業者を使い分ける
EC事業者や法人利用の場合は、リスク分散のため他の配送業者の併用も検討するとよいでしょう。
今後の日本郵便に求められるもの
今回の処分は、日本郵便にとって厳しい経営環境をもたらす一方で、安全管理の重要性を社会全体に再認識させるものです。
日本郵便には、物流を支える社会インフラ企業として安全・信頼・法令順守を徹底し、国民からの信頼を取り戻すことが強く求められます。
利用者としても、物流の現場で起きた課題を知り、配送の現状に理解を深めながら、適切にサービスを使い続けていくことが重要です。