2026年2月17日、高市早苗首相 は、2月20日に予定されている特別国会での施政方針演説において、働き方改革の一環として裁量労働制の見直しを表明する方向で調整していることが明らかになりました。これにより、裁量労働制の対象拡大や運用改善が具体的に言及される見通しです。
働き方改革はこれまで、残業時間の上限設定や多様な労働形態の導入を通じて、長時間労働の是正を進めてきました。しかし、高市政権は「柔軟な働き方」を成長戦略の一部と位置づけ、労働時間規制の見直しを進めています。これは、経済界からの要望も背景にあるとみられています。
ただし、裁量労働制をめぐっては賛否両論があり、「柔軟性向上」として歓迎する声がある一方で、「長時間労働の温床になる」との懸念も根強く存在します。今回は裁量労働制の仕組みを丁寧に解説するとともに、なぜ見直しの議論が活発化しているのか、その背景とメリット・デメリットを分かりやすくまとめました。
裁量労働制とは何か?
裁量労働制は、労働時間の計算方法に関する特殊な制度で、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間を働いたとみなして賃金を支払う仕組みです。
通常の労働では、労働者が実際に働いた時間をもとに残業代や労働時間を管理します。一方、裁量労働制では「みなし労働時間」として労使で合意した時間(例えば1日8時間など)を働いたとみなすため、実際の勤務時間が短くても長くても、基本的には賃金は変わりません。
この制度は、従業員の裁量で仕事の進め方や時間配分を決める必要がある職種に適用するためのものです。専門的な企画・調査・分析、研究開発、編集など、仕事内容や成果が時間では測りにくい業務が多く、このような職種で活用されてきました。
なぜ裁量労働制の見直しが必要なのか?
裁量労働制の見直しが議論される背景には、制度の「柔軟性の必要性」と「リスクの顕在化」という二つの側面があります。
1. 働き方の多様化と柔軟性の追求
コロナ禍以降、テレワークやフリーランスといった新しい働き方が広がり、従来の働き方改革では対応できない柔軟な労働制度へのニーズが高まっています。労働時間を固定的に管理する制度は、業務効率や創造性を高める上で制約になるとの意見もあり、柔軟性の高い制度への見直しが求められているという側面があります。
2. 運用上の課題と懸念
一方で、裁量労働制は適用範囲や運用方法が曖昧なまま広がることがあり、長時間労働や残業代支払い回避の温床になるとの批判があります。実際に、みなし労働時間の設定と実働時間が乖離したケースでは、労働者自身が長時間労働に陥りやすいとの指摘があります。
このような問題を受け、高市政権は労働時間規制自体の見直しと併せて、制度の適用範囲やガイドラインを見直す方針を打ち出しているのです。
裁量労働制のメリット
裁量労働制を導入することには、以下のようなメリットがあります。
自由度の高い働き方が可能
従業員は、自身の仕事の進め方や時間配分を自由に決めることができます。決められた成果を上げることが前提であれば、例えば早朝に集中して作業し、昼間に休息するなど、個人のライフスタイルに合わせた働き方が実現可能です。
生産性の向上
時間に縛られずに仕事ができるため、効率的に業務を進めることができれば、より高い成果を上げやすくなります。自分のペースで仕事を進められる自由度は、創造性を発揮しやすい環境とも言えます。
企業側のコスト予測
企業にとっては、「みなし時間」での給与計算が可能になるため、残業代を含む人件費を比較的予測しやすくなります。これにより予算計画や人件費管理がしやすくなるという利点もあります。
裁量労働制のデメリット
しかし一方で、裁量労働制には以下のようなデメリットもあります。
労働時間の実態把握が困難
裁量労働制では実際の労働時間が必ずしも把握されないため、本来の労働時間が長時間化してしまうリスクがあります。成果が上がらない場合でも、時間の区別なく働き続けざるを得ないケースがあり、過労の温床になり得ます。
残業代が発生しない場合もある
みなし労働時間として定めた時間を超えて働いても、基本的には時間外労働とならず、残業代が支払われない場合があります。そのため、実労働時間に比して収入が見合わないといった不満が生じる可能性があります。
適用範囲の誤解や誤用
裁量労働制は、適用対象が限定的な制度にもかかわらず、誤解や不適切な運用が起きることがあります。たとえば実際には指示や管理が強い職場でも裁量制を適用してしまい、労働者の保護が十分でないまま制度だけが導入されているケースがあります。

見直し議論の今後と制度の行方
裁量労働制を含む働き方改革の見直しは、今後国会の議論を経て具体化します。高市首相の施政方針演説をきっかけに、裁量労働制の対象業務の拡大や運用ルールの明確化、さらには労働時間規制全体の見直しが進む可能性があります。
柔軟な働き方の実現は重要ですが、その一方で労働者の健康や生活の質を守る仕組みとのバランスが問われています。制度設計の方向性が、どのように両立を図るのかが今後の焦点となるでしょう。
まとめ
裁量労働制は、働き方の自由度を高めるための制度であり、専門性や成果重視の職場に適した仕組みです。しかし、適用範囲や運用方法によっては労働時間管理や収入面での課題も生じる可能性があります。今回の見直し議論は、こうしたメリット・デメリットを冷静に検証し、より公平で柔軟な働き方を実現するための重要なステップとなります。
今後の国会審議や政府の具体的な方針発表に注目しつつ、労働者・企業双方にとって望ましい制度運用のあり方を考えていきたいものです。
