2026年1月19日、高市早苗首相は首相官邸で記者会見を行い、23日に召集される通常国会の冒頭で衆議院を解散する意向を表明しました。あわせて、物価高対策の柱として「食料品の消費税率を2年間ゼロにする」減税策の検討を加速し、自民党の選挙公約に盛り込む方針を明らかにしました。
この「食品消費税ゼロ」政策は、立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」も基本政策として掲げており、与野党を問わず大きな争点となっています。消費者にとっては歓迎されやすい政策ですが、制度設計を誤れば、飲食店経営を直撃する可能性があることはあまり知られていません。
本記事では、「食品消費税ゼロ」がなぜ飲食店を苦しめる可能性があるのかを、消費税制度の仕組みから丁寧に解説します。

食品消費税ゼロは本当に「家計にやさしい政策」なのか
食料品は日常生活に欠かせない支出であり、消費税がゼロになれば、買い物のたびに支払っていた税負担がなくなります。特に物価高が続く中で、家計への即効性がある政策として評価する声も多くあります。
しかし、税制は「誰かを助ける」一方で、「別の誰かに負担を押し付ける」構造になりやすいものです。今回の食品消費税ゼロも、消費者だけを見れば恩恵が大きい一方、飲食店や外食産業という立場から見ると、深刻な問題をはらんでいます。
そのカギを握るのが、「非課税取引」と「免税取引」の違いです。
消費減税「免税」と「非課税」で何が違うのか
食品消費税ゼロをめぐる議論で、最も重要でありながら分かりにくいのが、「免税」と「非課税」の違いです。どちらも消費者から見れば「税率0%」ですが、飲食店側の負担はまったく異なります。
免税の場合:還付が必要になる
免税取引の場合、売上にかかる消費税率は0%です。つまり、飲食店はお客様から消費税を預かりません。一方で、食材の仕入れや店舗の家賃、光熱費などには、これまで通り10%の消費税が課されています。
この場合、仕入れや経費で支払った消費税は「控除の対象」となります。しかし、売上側で消費税を預かっていないため、差し引きすると「払いすぎた税金」が発生します。これを取り戻すには、国に対して還付(返金)の申請手続きを行う必要があります。
結果として、
・お客様からは税金を預からない
・仕入れや家賃で支払った消費税は一時的に自腹
・後日、還付として返してもらう
という流れになります。
飲食店の負担とは何か
この仕組みで問題になるのが、事務負担とキャッシュフローです。還付申告は手続きが煩雑で、税務に不慣れな個人経営の飲食店にとっては大きな負担になります。さらに、還付されるまでには数か月かかるのが一般的で、その間は「立て替え払い」の状態が続きます。
資金に余裕のない小規模店舗では、このタイムラグが経営を圧迫し、資金繰りの悪化につながる恐れがあります。
しかし、これはあくまで運用上・時間的な問題です。
制度としては、最終的に税金分の損は発生しません。還付の迅速化や簡素化といった改善策によって、軽減できる余地のある問題だと言えます。
非課税の場合:還付できず「損税」が発生する
一方、非課税取引の場合は状況がさらに深刻です。非課税では、売上に消費税がかからないだけでなく、仕入れ時に支払った消費税を控除すること自体ができません。
つまり、
・お客様からは消費税を預からない
・仕入れや家賃で支払った10%分の消費税は回収不可
・その税金はすべてお店のコストになる
という構造になります。
この回収できない消費税は、業界では「損税」と呼ばれています。帳簿上は見えにくいものの、確実に利益を削るコストです。
飲食店が直面する現実
非課税の場合、飲食店は仕入れ価格が実質的に約10%上がるのと同じ状態になります。その負担を吸収できなければ、メニュー価格に上乗せして値上げせざるを得ません。
その結果、「消費税ゼロで食べ物が安くなるはずなのに、外食は逆に値上がりする」という、極めて皮肉な事態が起こりかねません。値上げが難しい個人店では、利益が削られ続け、最終的に閉店を選ばざるを得なくなる可能性もあります。
消費減税:制度設計次第で結果は正反対に
このように、食品消費税ゼロが「免税」になるのか「非課税」になるのかで、飲食店の負担は大きく異なります。
消費者支援として打ち出された政策が、制度設計を誤れば、飲食店にとっては実質的な増税や経営悪化を招くことになります。
「税率ゼロ」という言葉のわかりやすさだけで判断するのではなく、その裏側にある仕組みを丁寧に検討することが、今後の国会審議では不可欠だと言えるでしょう。
食品消費税ゼロが「非課税」になる可能性
現時点で、食品消費税ゼロが「非課税」になるのか「免税」になるのかは明示されていません。ただし、食料品は生活必需品であり、これまでの税制の考え方からすると、社会政策的理由による非課税扱いになる可能性が高いと考えられています。
ここに、飲食店が困る最大の理由があります。
なぜ消費減税で飲食店が苦しくなるのか
仕入税額控除ができなくなるという問題
飲食店は、食材を仕入れる際に消費税を支払っています。通常であれば、料理を提供する際に消費者から消費税を預かり、仕入れ時に支払った税額を差し引いて国に納税します。
しかし、食品が非課税取引になった場合、飲食店は消費税を預かれません。しかも、仕入れ時に支払った消費税を控除することもできなくなります。
その結果、消費税が「見えないコスト」として飲食店にのしかかることになります。
中小・個人経営の飲食店ほど影響が大きい
現在、飲食業界は原材料費の高騰、人件費の上昇、光熱費の負担増といった三重苦に直面しています。特に個人経営や小規模店舗では、価格転嫁が難しく、利益率は極めて低い状態です。
そこに仕入税額控除の不可という問題が重なると、実質的な増税と同じ効果が生じます。値上げもできず、コストだけが増える状況は、経営を直撃します。
外食は減税の対象外という不公平感
今回の政策では、スーパーなどで購入する食料品は消費税ゼロになる一方、外食は従来通り10%課税が維持されると見られています。
消費者にとっては「家で食べる方が安い」状況がさらに強まり、外食を控える動きが加速する可能性があります。これは、外食産業全体の需要を冷え込ませる要因となりかねません。
倒産リスクが高まる可能性も
すでに飲食業界では、物価高や人手不足を背景に、閉店や倒産が相次いでいます。食品消費税ゼロが非課税取引として導入されれば、これまで何とか踏みとどまってきた店舗が、最後の一押しで廃業に追い込まれる可能性も否定できません。
政策の意図とは逆に、地域の飲食店が姿を消し、雇用や街のにぎわいが失われる事態になれば、本末転倒と言えるでしょう。
消費減税で消費者支援と事業者保護の両立を
食品消費税ゼロは、消費者にとってわかりやすく、政治的にも訴求力のある政策です。しかし、税制は「仕組み」がすべてであり、細部の設計次第で影響は大きく変わります。
・非課税ではなく免税とする
・飲食店向けの特例措置を設ける
・仕入税額控除に代わる補填制度を検討する
こうした議論を抜きにして「消費税ゼロ」だけを掲げれば、現場に混乱と負担を押し付けることになります。
飲食店を守る政策設計ができるか
食品消費税ゼロは、物価高対策として一定の効果が期待される一方で、飲食店にとっては経営を揺るがすリスクをはらんだ政策です。とくに非課税取引となった場合、仕入税額控除ができなくなる点は、外食産業にとって致命的になりかねません。
人気取りの政策で終わらせるのではなく、飲食店や中小事業者の実情を踏まえた、現実的で持続可能な税制設計が求められています。消費者と事業者、その双方を支える制度でなければ、真の意味での「物価高対策」とは言えないでしょう。

