2025年9月29日、アサヒグループホールディングスで発生したシステム障害が、依然として多方面に影響を及ぼしています。
製品出荷や物流の停止に加え、年末商戦に向けたお歳暮商品の供給にも支障が出ており、業界全体が混乱しています。この記事では、障害の現状や影響、そしてサントリー・サッポロ・キリン・への波及、各社へのサイバー攻撃、システム障害について解説します。
アサヒのシステム障害はいつまで続くのか?
アサヒグループでは、2025年9月29日からサイバー攻撃によるシステム障害が発生し、10月下旬時点でも完全復旧には至っていません。
サイバー犯罪集団「Qilin(キリン)」が犯行声明を発表し、内部情報の窃取を主張しています。
現時点(2025年10月21日)では、システム全体の完全復旧の目処はまだ明らかにされていません。アサヒグループホールディングスは、引き続き情報漏えいの可能性を含めた調査と、システムの復旧に努めている状況です。
アサヒシステム障害の影響と情報流出の可能性
システム障害:
国内グループ各社の受注・出荷業務、コールセンター業務、社外との電子メールの一部機能などが一時停止しました。
工場稼働:
ビール工場は順次製造を再開していますが、受注・出荷システムの完全復旧には至っておらず、製品供給に制約が出ています。
情報流出の可能性:
調査の結果、情報漏えいの可能性を示す痕跡が確認されており、インターネット上で流出した疑いのある情報が確認されています。流出した情報の内容や範囲については、現在も特定作業が進められています。
決算発表の延期:
システム障害により経理関連データへのアクセスに遅延が生じているため、2025年12月期第3四半期決算の発表が延期されました。
アサヒシステム障害復旧状況と対応
- 復旧作業:
緊急事態対策本部を設置し、外部の専門家と協力して一刻も早いシステムの復旧に全力を尽くしています。 - 商品の供給:
システムによる受注・出荷業務は停止が続いていますが、お客さまへの商品供給を最優先とし、手作業など代替手段による受注・出荷を部分的に進めています。 - 業界への波及:
アサヒの出荷制約を受け、年末の贈答品商戦に向けてサントリーやサッポロビール、キリンビールも歳暮用商品の一部販売休止やラインナップの絞り込みを発表するなど、影響が他社にも波及しています。
現場関係者からは「納品スケジュールが読めない」「年末の繁忙期に重なって困っている」といった声が相次いでいます。
なぜ滞りが発生しているのか?
滞りが発生している最大の要因は、受注・出荷・物流を一元的に管理する基幹システムの停止にあります。
工場が「作る」工程は回復しているものの、「運ぶ・売る」という流通の中枢機能が麻痺しているため、製品が消費者の手元に届くまでのプロセスに深刻な遅れが生じているのです。
アサヒグループの国内システムは、サイバー攻撃(ランサムウェア)によって一時的に機能を失い、製品をどこに、どの量だけ配送するかを制御する「受注管理」や「出荷管理」が止まってしまいました。
手作業への切り替えで効率が大幅に低下
その結果、現場ではやむを得ず紙の伝票や電話を使った手作業による対応が行われています。
しかし、システムによる自動処理のように大量かつ正確なデータ処理を行うことは難しく、受注から出荷までの流れが大幅に非効率化しています。特に、どの工場からどの倉庫へ、どの順で製品を出荷するかといったロジスティクスの最適化ができず、物流全体にボトルネック(渋滞)が生じているのが現状です。
在庫が積み上がり、製造と供給のバランスが崩壊
さらに、在庫管理にも制約が生じています。工場ではすでに製造が再開されていますが、出荷システムが機能しないことで倉庫の在庫がさばけず、保管スペースの不足が新たな制約となっています。そのため、製造を続けても効率的に市場へ供給できないという悪循環が発生しています。
どのような影響が出ているのか?具体的な商品例
アサヒのシステム障害により、主に以下の製品群で供給の遅れが発生しています。
- スーパードライシリーズ(缶・瓶)
- クリアアサヒ・アサヒ生ビール(マルエフ)
- カルピスウォーター・ウィルキンソンなどの清涼飲料水
- お歳暮向けギフトセット(ビール詰め合わせ)
特にお歳暮商品の「アサヒスーパードライギフトセット」は、年末商戦に向けて需要が急増する時期。出荷停止や納品遅延により、百貨店やネット通販での販売スケジュールが大きく狂う事態となっています。
当事者の声:「お歳暮の注文を受けても納期が見えない」
流通業界では混乱が広がっています。
酒販店やスーパーの担当者からは次のような声が聞かれます。
「アサヒのビールギフトは人気が高く、例年この時期から予約が殺到する。だが、今年は入荷時期が未定で販促が打てない」
「他社製品への切り替えを検討しているが、サントリーやサッポロにも影響が出ていて在庫確保が難しい」
また、一般消費者からもSNS上で「アサヒの炭酸水が買えない」「近所のスーパーからスーパードライが消えた」といった投稿が増えています。
このように、システム障害は単なる企業内トラブルに留まらず、消費者の生活や年末商戦にも影響を及ぼしているのが現状です。
サントリーやサッポロ、キリンのお歳暮商品にも影響
一見、アサヒの障害とは関係なさそうなサントリーやサッポロ、キリンにも影響が波及しています。
アサヒのシステム障害により、アサヒからの出荷が大幅に減少しました。これを受け、サントリーやサッポロ、キリンには、アサヒの不足分を補うための注文が殺到しました。
ビール業界では、共同物流や流通の連携が進んでいるため、この想定を超える注文の急増に対応しきれなくなり、通常商品の安定供給を優先するため、サントリーやサッポロはお歳暮などの季節限定ギフト商品の販売を休止する措置を取りました。キリンも状況を注視しています。
アスクルのサイバー攻撃も影響を拡大
さらに、アスクル株式会社へのサイバー攻撃も、流通業界の混乱を助長しています。
アスクルでは10月19日からランサムウェア感染によるシステム障害が発生したことを公表しました。
法人向けサービス「ASKUL(アスクル)」や個人向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」などで、受注および出荷業務の一部が一時的に停止するなどの影響が出ています。
このため、アサヒ製品の出荷停止とアスクルの障害が重なり、法人顧客や小売店の仕入れルートが一時的に混乱。
「どのメーカーの製品も入荷が安定しない」といった声が聞かれています。
AWS(アマゾンウェブサービス)障害の影響は?
一方で、2025年10月にはAWS(アマゾンウェブサービス)でも一時的な障害が発生しました。
国内の複数サイトやクラウドシステムが影響を受け、EC事業者や小売の受注処理が遅延しました。
ただし、この障害は数時間で復旧し、アサヒのトラブルとは直接関係していません。
とはいえ、こうした一連の障害が重なったことで、企業や消費者の間には「サイバー攻撃への不安」や「デジタル依存のリスク」を再認識する声が高まっています。
まとめ:サイバー攻撃とシステム障害が浮き彫りにした課題
今回のアサヒシステム障害をめぐる混乱は、単なるITトラブルではなく、サプライチェーン全体の脆弱性を示したと言えます。
物流・販売・情報システムが高度に連携する現代では、1社の障害が業界全体に波及するリスクがあることが明らかになりました。
特に年末商戦期は、ビールや飲料などの需要が集中するため、各社の迅速な復旧と代替供給ルートの確保が急務です。
同時に、企業はセキュリティ対策の強化や、「デジタルとアナログの両立」を図る体制を再構築する必要があります。