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学び直し授業にメス:私大の定員割れ・中国人留学生・大学助成金の行方

学び直し授業にメス:私大の定員割れ・中国人留学生・大学助成金の行方 教育・育児
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令和7年度の予算編成を前に、再び財務省と文部科学省の間で火花が散っています。発端は、一部の私立大学で行われている「小中学生レベルの授業」いわゆる”学び直し授業”に対し、財務省が私学助成の見直しを求めたこと。数学の授業では足し算・引き算、英語では現在形・過去形の区別といった“基礎の基礎”を教えているケースが指摘され、「これでは高等教育とは呼べない」と問題視されました。

一方、文科省は「大学での基礎からの学び直しは必要」と反論。この記事では、定員割れに悩む私立大学をめぐる議論の背景にある“教育の質”、“助成金の在り方”、“少子化と地域経済”といった複雑な要素を読み解きます。

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大学で四則演算?「学び直し」授業に財務省がNO

財務省の諮問機関である「財政制度等審議会」は、令和7年度の予算編成に向けて一部私立大学の授業内容に疑問を提起しました。

具体的には、数学では足し算・引き算などの四則演算、英語では現在形・過去形の違いといった内容が大学のシラバスに含まれている点を問題視しています。こうした学習内容が高校生や中学生向けと同レベルであり、高等教育としてふさわしくないと指摘し、助成金の在り方を見直すよう文科省に要請しました。

加えて、定員割れしている大学ほど一人あたりの公費補助額が多いという統計も示し、「教育の質」を助成配分の評価基準に加えるべきと主張しています。この動きは「学び直し」の教育意義を巡る省庁間の温度差を象徴しています。


文科省の反論「大学は基礎力再構築の場でもある」

一方、文部科学省は財務省の指摘に強く反論しています。財務省が批判した四則演算や文法学習は、実はデータサイエンスや人工知能(AI)など高度教育への基礎と位置付けられています。これらの「基礎固め」は専門教育へ進むためのステップであり、別に無用ではないと説明。

また、こうした授業を導入する大学では地域企業への就職率が高く、「地域に不可欠な人材の養成を担っている」ともアピールしています。文科省は、ただ一律に「大学は高等教育を提供すべき」と唱えるのではなく、教育の段階に応じた支援が重要だと訴えています。


定員割れと少子化:助成金と統廃合のせめぎ合い

少子化によって大学進学者数は減少傾向にあり、2023年には約42万人と報告されています。これに対し、私立大学の定員数は依然として高水準で、約6割の私大が定員割れの状態にあります。

このミスマッチが続けば、財務省だけでなく中央教育審議会や文科省も、大学の認証評価制度に「教育の質」や「定員充足率」を反映させ、助成金を配分する仕組みを検討中です。これにより、定員割れがある大学には助成停止や新設審査の厳格化など措置が取られつつあります。


中国人留学生急増の背景とそのリスク

私立大学の定員割れ対策の一環として、外国人留学生の受け入れが増えています。とくに中国人留学生は日本留学の約38%を占め、その数は年々増加しています

一部私大では「定員割れを避けるための数合わせ」に留学生受け入れを利用しているとの批判もあり、入学審査や学力水準の維持に関する懸念が指摘されています。しかし同時に、彼らが日本の大学に学び、地域社会へ貢献している事例もあります。


誰のための大学?私大は地域インフラなのか

多くの地方私大は、学生の地元就職率が高く、地域の中小企業や医療機関と連携した教育プログラムを設けています。こうした大学がなくなると、地域経済に大きな影響が及び、「企業誘致」「人口定住」などにも支障が出るとされています。

その意味で、地方大学は「地域インフラ」としての役割を果たしており、単に学費収入や定員曲線だけで評価されるべきではないとの声が強まっています。


まとめ|大学改革のカギは「質」と「持続可能性」

今回の財務省と文科省の対立は、表面的には学び直しは「授業内容の見直し」に見えますが、根底には「日本の高等教育の質」「大学の公共性」「地域との共生」「少子化への対応」など、複数の課題が複雑に絡み合っています。

これらを整理すると、以下の4点が改革のポイントです:

  1. 定員数と進学者数のミスマッチを踏まえた、大学・助成制度の構造改革
  2. 教育の質を担保する評価制度の導入と助成金の適正配分
  3. 地域社会と連携した大学の存在意義と支援体制の構築
  4. 外国人留学生の受け入れ拡大にともなう、入学審査・学力保障の体制整備

これらを実現するには、省庁間の調整のみならず、大学自らが地域に根差した魅力的な教育と研究を構築し、公的機関がその成果を評価・支援する仕組みが求められます。


誰のための大学か?改革の本質を問う

本論争は、大学という制度が「何を」「誰のために」提供すべきかという問いを鋭く突いています。高等教育は、志を胸に学ぶ若者、地域経済を支える担い手、将来の国際人材―さまざまなステークホルダーに支えられています。

定員割れがあってもなお、教育の質を高め、地域貢献を果たしている大学は存在します。制度改革は、「削減ありき」ではなく、大学本来の価値を見極め、「質」と「持続可能性」を基軸に進められるべきです。

助成金は「入口」ではなく、「教育成果・地域貢献=出口」に応じて配分されるべきではないでしょうか。政府、大学、地域社会が一体となって、真の高等教育改革を模索する時が来ています。

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