春になると、多くの人が悩まされる花粉症。とくにスギ花粉の飛散が本格化する2月下旬から3月にかけては、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった症状が一気に強まります。近年は、これらの症状が単なる花粉だけでなく、大気中の微粒子とも関係していることが明らかになってきました。
とくに注目されているのが、PM2.5に含まれる金属「スズ」とアレルギー悪化の関係です。名古屋大学の研究グループが発表した研究は、花粉症と大気汚染物質の新たな関連を示唆するものとして大きな関心を集めています。
本記事では、花粉、黄砂、PM2.5、そしてスズがどのように関わり合い、アレルギー症状を悪化させるのかをわかりやすく解説します。
花粉症は「花粉だけ」の問題ではない
スギ花粉症は、日本人の約4割が発症しているともいわれる国民的疾患です。スギ花粉は直径およそ30マイクロメートル前後と比較的大きく、主に鼻腔で捕捉されます。鼻の粘膜に付着することで免疫反応が起こり、炎症が生じます。
しかし近年、症状の重症化には大気汚染物質の関与が指摘されてきました。その代表がPM2.5です。
PM2.5とは何か
PM2.5とは、「Particulate Matter 2.5」の略称で、直径2.5マイクロメートル以下の極めて小さな粒子状物質の総称です。スギ花粉よりもはるかに小さく、鼻を通り抜けて気管や肺の奥まで入り込むことができます。
PM2.5にはさまざまな成分が含まれます。
・自動車排ガス由来の粒子
・工場などの燃焼由来物質
・硫酸塩や硝酸塩
・重金属類
・黄砂由来の微細粒子
つまりPM2.5は単一の物質ではなく、複合的な混合物です。その中に含まれる成分の一つが「スズ(Sn)」です。
名古屋大学の研究が示した「スズ」と花粉症の関係
名古屋大学大学院医学系研究科の研究グループは、スギ花粉飛散期に花粉症患者と非患者を比較調査しました。被験者の鼻腔を洗浄し、その洗浄液中のスズ濃度を測定したところ、次の結果が得られました。
・花粉症患者の鼻腔内スズ濃度は、非患者の約3〜4倍
・スズ濃度が高いほど、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの自覚症状が重い
同じ空気を吸っているにもかかわらず、なぜ花粉症患者の鼻の中でスズが多く検出されたのでしょうか。

鼻の中で起きている「悪循環」
研究チームは、次のようなメカニズムを想定しています。
① スギ花粉によりアレルギー性鼻炎が発症
② 鼻粘膜が腫れ、粘液(ムチン)が増加
③ 粘り気の強い鼻水がPM2.5中のスズ粒子を捕捉
④ スズが鼻腔内に滞留し、炎症をさらに悪化
花粉症の人は、炎症により鼻の通り道が狭くなり、粘性の高い鼻水が増えます。この「ネバネバ成分(ムチン)」が微細なスズ粒子を絡め取り、鼻の中にとどめてしまう可能性があるのです。
結果として、スズが蓄積し、炎症が強まり、さらに鼻水が増える――という悪循環に陥ると考えられています。
これは、花粉だけでは説明できなかった「なぜ年々つらく感じるのか」という疑問の一端を示しています。
黄砂も関係するのか
春に飛来する黄砂も、アレルギー悪化の要因として注目されています。
黄砂は、中国やモンゴルの砂漠地帯から舞い上がった土壌粒子が偏西風に乗って日本へ到達する現象です。粒径は比較的大きいものが多いですが、微細な粒子はPM2.5として観測されることもあります。
さらに問題なのは、黄砂粒子の表面に以下のような物質が付着している場合があることです。
・工業地帯由来の金属成分
・硫黄酸化物や窒素酸化物
・微生物やカビ
これらが気道粘膜を刺激し、花粉症症状を増悪させる可能性があります。黄砂単独でも咳や目のかゆみを引き起こすことがありますが、花粉と同時に存在すると症状が強く出やすくなります。
スズはなぜ問題になるのか
スズは身近な金属で、はんだや電子機器、缶のコーティングなどに使われています。通常は安定した金属ですが、微粒子として吸入された場合、免疫系に影響を与える可能性があります。
研究では、スズが炎症性サイトカインの産生を促進する可能性が示唆されています。つまり、鼻粘膜で炎症を増幅する「触媒」のような役割を果たしている可能性があるのです。
現時点で完全に解明されたわけではありませんが、「PM2.5のどの成分が悪化因子なのか」という問いに対し、具体的な候補が示された点は重要です。
花粉・黄砂・PM2.5が重なる日こそ要注意
特に注意すべきなのは、次の条件が重なる日です。
・晴れて気温が高い
・風が強い
・花粉飛散量が多い
・黄砂予報が出ている
・PM2.5濃度が上昇している
このような日は、アレルギー症状が強まりやすいと考えられます。
予防と対策のポイント
悪循環を断ち切るためには、鼻腔内に微粒子を滞留させないことが重要です。
・高性能マスクの着用(不織布、できればフィルター性能の高いもの)
・帰宅後すぐの洗顔・鼻洗浄
・室内干しの徹底
・空気清浄機の活用
・症状が出る前の予防的投薬
特に鼻洗浄は、物理的に微粒子を除去できるため有効と考えられます。
まとめ
花粉症は単なる「花粉アレルギー」ではなく、大気中の微粒子との相互作用によって悪化する可能性が明らかになってきました。
・PM2.5は花粉よりはるかに小さい
・その中に含まれるスズが鼻腔内に蓄積する可能性
・花粉による炎症がスズを滞留させる
・滞留したスズがさらに炎症を悪化させる
この悪循環が、症状をより重くしている可能性があります。
花粉、黄砂、PM2.5は別々の問題ではなく、春の大気環境として複合的に作用しています。今後は単に「花粉量」だけでなく、「大気質」も意識することが、アレルギー対策の新たな視点になるでしょう。
春先はつらい季節ですが、正しい知識と適切な対策によって、症状の悪化を抑えることは可能です。大気情報にも目を向けながら、早めの備えを心がけましょう。

