レジの改修が「壁になる」と発言した高市早苗首相の言葉が、物価高対策をめぐる国会論戦の中で波紋を広げています。
衆院予算委員会で、立憲民主党や与党内でも取り沙汰される「飲食料品の消費税を2年だけでも0%に引き下げる」という政策案が議論となる中、首相である高市早苗氏が改めて慎重姿勢を示しました。
主な理由として挙げたのが、流通・小売業界で用いられているレジ・POSシステム等の改修に「1年以上かかる」という説明でした。ところがその直後、テレビ番組で登場した元内閣官房参与が「即できます」「1年もかかるわけがない」と明言しており、ネット上では「またレジか」「どこのメーカー?」「参考人で呼べ」と批判が沸き起こっています。
本稿ではこの「レジシステム改修」がなぜ焦点になっているのか、実際にどれくらいの時間がかかるのか、政策実行の壁として妥当なのか──といった点を整理しつつ、政策・国民・政治コミュニケーションという三つの視点から論じます。

政策背景:なぜ「飲食料品の消費税0%」が議論されているのか
まず、議論の前提となる「飲食料品の消費税率の引き下げ(または0%化)」の背景を整理します。
- 現状の日本では、消費税率は基本10%、軽減税率対象の飲食料品等は8%という体系です。
- 物価高、特に食料品価格の上昇が国民の生活負担感を強めており、「まず食料品から税率を0%にすべきだ」という訴えが野党・一部与党議員から出ています。
- たとえば、元内閣官房参与の 本田悦朗氏は「食料品の消費税、0税率にしていただく。個人的には」と明言しています。
- 一方、政府与党側には「消費税は社会保障財源の柱である」「減税すれば税収が減る」「制度変更にはコスト・準備が必要」といった慎重論があります。
したがって「飲食料品消費税0%」というスローガン自体は人気があるものの、実行に際しては財源・制度設計・準備期間などハードルも提示されています。
高市首相の“レジ改修1年以上”発言、その読み取り
高市首相が予算委で述べた内容は次のようなものです(報道による整理)。
- 大手事業者の関連システムの改修に1年以上かかる
- かなりシェアの高い大手のシステム関係の事業者で、レジの改修に1年以上かかる
- 物価高対策として即効性のあるものとしては、諦めた経緯がある
つまり、同氏は「即効性を求める物価高対策としては、レジ改修に時間がかかるため、消費税0%案を優先できない」という説明を行いました。
なぜレジが問題に?
レジ・POSシステムが政策論争の中心になる理由として、以下が考えられます:
- 税率が変わる際には、商品の価格表示、税率の区分、決済処理、レジ端末・POSソフトの設定変更など、業務・システム側に一定の改修・テストが必要である。
- 特に大規模チェーンストア、多くの店舗を持つ流通業では、複数店舗・複数端末・商品マスタ・価格表示・客側表示・バックエンドシステムが複雑になっており、変更作業にかかる時間・コストが大きくなる可能性がある。
- 政策実施に際し「誤表示」「二重課税」「誤った税率適用」などの混乱を避けるため、準備期間を長めに見ておく必要がある、という説明もあります。例えば止むを得ず「改修に1年以上かかる」という表現が使われてきました。
しかし、反対の見解も
一方で、テレビ番組で本田氏は次のように述べています:
「私もスーパーマーケットのマネジャーに聞きました。いろんなスーパーに行って。即できますと。すぐやりますと」
「(レジシステムの変更に)1年もかかるわけがない」
つまり、同氏は「レジ改修=壁ではない」「実務的には即実行可能」という見方を示しています。
このギャップ、つまり「大手システムで1年以上」「スーパーではすぐ可能」という双方の主張の間には、規模・業態・店舗数・既存システムの柔軟性といった条件の差があると考えられます。大手チェーン・全国展開・複数店舗という条件では改修に時間がかかる可能性がありますが、中小・単店舗・最新POSシステムを使っている店舗では短期間での対応も可能ということです。

ネット論争と世論:なぜ“レジ”が炎上ワードに?
高市首相の発言を受け、ネット上では次のような反応が目立ちました:
- 「レジガーかよ やる気ないだろ」
- 「またレジか。1年以上かかると言った大手事業者を連れて来いよ」
- 「どこのメーカーかはっきりして欲しい」
- 「どんなシステム?」
- 「参考人で呼んでレジシステムのことを聞けばよい」
- 「消費税減税におけるレジ発言は聞きたくない」
- 「レジのシステムに時間がかかるてコントかよ」
この反応には、以下のような背景が読み取れます:
- 説明の具体性・透明性の欠如
「どこのメーカー」「どの端末」「どこまで改修が必要か」という具体的な説明がないため、国民・ネット民としては「言い訳ではないか」「本当に1年以上必要という根拠は?」という疑念が生まれています。 - 「即効性」を期待する国民感覚とのギャップ
物価上昇・家計負担増という実感がある中で、「まず食料品から税率0%にすべきだ」という訴えが強いため、「レジ改修に1年以上かかるからできない」という説明は“タイミングが遅い”と捉えられがちです。 - 政策とコミュニケーションのズレ
政策を実現できない理由を“レジ”という比較的日常的な機器に求めたことで、「そんな大げさな話か」「本当にそれが障害か?」という印象を拭えず、“レジ=言い訳”という象徴化が進んでいます。
こうした状況から、政治・制度・説明責任の観点からも、「レジ」の話が単なるテクニカルな話以上の意味を持ってしまっています。
実行の壁:減税案のハードルを改めて整理
「飲食料品消費税0%案」を実行に移すにあたって、レジ改修以外にも次のようなハードルがあります。
財源・制度設計
- 税率を0%にすれば、税収減が生じます。特に消費税は社会保障の財源としても重要視されているため、減税には慎重になるという政府論理があります。
- 制度放棄ではなく、軽減税率との整合性、対象品目の範囲、消費者・事業者への影響、財務省をはじめとする省庁横断の検討も必要です。
業務・システム・流通への影響
- レジ・POS端末のみならず、価格表示、契約・納品・請求・在庫管理・返品処理等、流通チェーン全体で改修が必要な可能性があります。
- 特に多店舗展開の大手、小売チェーンでは「全国すべての店舗・端末・ソフトバージョン」を順次改修する必要があり、準備期間が長くなる可能性もあります。朝日系報道でも「改修に1年以上かかるケースもある」と紹介されています。
政治・タイミング・支持基盤
- 政策を掲げた当人が以前「食料品税率0%」を主張していたにも関わらず、実現可能性を理由に慎重に転じたことが、支持者・国民側に「ブレた」「後退した」と映っています。
- 政策実行において「遅さ=無策」という印象を与えかねず、説明責任・信頼回復の観点からも課題があります。
総括:レジ端末1年以上説と即可能説、その意味するもの
今回、対立構図として浮かび上がったのは、「レジ改修には1年以上かかる」という政府・首相説明側の説と、「即できます」「1年もかかるわけがない」という実務側・専門家側の説です。
このギャップをどう理解するか。それは、次のように整理できます:
- 規模・事業者・既存システムの状況によって“改修にかかる時間・コスト”は大きく異なる。
→ 単店舗・最新POS・少数端末:短期間で可能という実例もある。
→ 全国チェーン・多数店舗・旧システム・複雑な流通経路:準備が多く、時間を見込んでおきたいという実例もある。 - しかし、政府説明として「1年以上かかる」とだけ述べ、どの条件の事例か、どの事業者規模かを明らかにしなかったことが、国民・ネットユーザーの反発を招いた。
- 政策の実行可能性・信頼性を高めるには、具体的な「いつまでに」「誰が」「何を」準備するか、明確にすることが不可欠です。特に「即効性」「見える効果」を期待する国民感覚に対しては、言い訳めいた説明では支持は得づらい。
今後に注目すべきポイント
この論点で今後注目すべき点を整理します:
- 国会・委員会で「レジシステムの改修にかかる実務的時間・コスト・メーカー別実績」などが問われる可能性があります。実務者・メーカー・流通関係者を“参考人招致”して説明責任を果たすことが信頼回復につながるでしょう。
- 政府・与党が「飲食料品消費税0%」を選択肢から排除していない以上、改めて実行可能なスケジュール・準備期間・対象範囲を示すことが不可欠です。特に“優先順位”“短期支援策”とのセット提示も重要です。
- 政策説明において、「テクニカルなハードル」は国民には見えづらく、理解されづらいため、説明方法が問われています。「レジ端末に1年以上かかる」という説明よりも、「こういう店舗・こういう端末・この範囲なら〇〇か月で可能」といった実例を示す方が説得力を持ちます。
- 国民の物価・家計負担に対する実感が強いだけに、減税以外の“即効性のある対策”(例えば賃上げ支援、給付金、個別措置)を並行して実施しながら、税制改正に向けた基盤を整えるアプローチが、現実的と言えるでしょう。
浮き彫りにした政策の難しさ
今回の高市首相の発言と、それを巡る論争を通じて浮かび上がったのは、「政策はスローガンだけでは動かない」「制度変更には目に見えない準備があり、それをどう国民に説明するかが鍵である」という当たり前の事実です。
「レジが1年以上かかる」という言葉には、「制度変更の準備には時間が必要だ」という意味が込められています。一方で、それが「やらない理由」に聞こえ、国民にとって“言い訳めいた説明”になってしまったなら、政策としての魅力・信頼を損ないかねません。
「飲食料品消費税を0%に」「物価高対策を即効で」という国民の期待と、「実務的準備には時間とコストがかかる」という現実とのギャップ。今回浮上した“レジ端末論争”は、そのギャップを象徴的に表していると言えます。
今後、政策実行のために必要なのは、ただ「できない」ではなく、「どうしたらできるか」を示すこと。レジ端末の改修にどれだけの時間・コストがかかるか、どの事業者がどの段階で対応できるか、そうした“実務の見える化”が、政策を現実に近づける鍵になります。
読者としても、単に「政治家が言い訳をしている」と切り捨てるのではなく、制度変更に伴う実務的課題・準備工数・流通システムの複雑性に目を向けた上で、政策を評価する視点を持つことが大切でしょう。

