札幌市南区豊滝に所在した民間動物園、ノースサファリサッポロ(運営:サクセス観光)。2005年開園以来、約20年にわたって営業を続けてきましたが、「市街化調整区域」という開発が慎重に扱われる区域で、許可なく建築・拡張を繰り返していたとして、2025年9月末をもって閉園に至りました。
さらに、その背後には複数の法令違反の疑いが浮上し、捜査当局による家宅捜索・前代表の任意聴取へとつながっています。本稿では、これまで明らかになってきた「主な問題点」と「閉園への経緯」を整理しつつ、今後注目すべきポイントもあわせて紹介します。

ノースサファリサッポロの主な問題点
1. 市街化調整区域での無許可建築と営業
ノースサファリサッポロの敷地は、札幌市が定める都市計画上の「市街化調整区域」に位置していました。この種の区域では、開発や建築が抑制され、土地の用途転換や大規模施設の建設に際して、事前に市の許可や届け出が必要となります。
しかし、同園では動物飼育用小屋、休憩所、獣舎といった施設を、札幌市の正式な許可を得ずに建設・増築してきたと報じられています。しかもその数は多数に及び、100棟以上とも言われる違法建築物の存在が指摘されています。
このような無許可状態で約20年間にわたり営業が続けられてきたという点が、最も大きな問題のひとつです。
2. 違法建築への市の行政指導・対応
札幌市は、開園前の2004年ごろに既に違法建築物を初めて確認し、その後も行政指導を繰り返してきました。
ですが、違法建築物がその後も増加し続けたという報道があり、指導が効果を発揮しなかったこと、また市の監督体制・強制措置の実効性が問われることになりました。
運営会社に対しては「施設の撤去および是正」の指導が出されていたものの、撤去や改善が進まなかったことが、閉園決定に至る背景となっています。
3. 河川水の無断取水・環境・動物福祉の側面
報道によると、近隣を流れる「滝の沢川」から取水管を設置し、札幌市の許可を得ず川の水をアザラシやビーバーの飼育用水として使用していた疑いがあります。これは、札幌市の「普通河川管理条例」違反とされる可能性があります。
動物の飼育には適切な水管理・衛生管理が求められ、その上での無許可取水という点で、環境保全・動物福祉の観点からも重大な懸念を伴います。
さらには、建築基準法・浄化槽法・動物愛護法・国土利用計画法など、複数の法令違反が視野に入っています。
ノースサファリサッポロ閉園への経緯
開園から長期営業へ(2005年〜)
ノースサファリサッポロは2005年に営業を開始しました。その際から建築や土地利用に関して都市計画上の制限がある区域での開園であったため、そもそも許可・手続き上の課題が指摘されていました。
札幌市は開園直前の2004年段階で違法建築物を確認し、以後も行政指導を継続してきたということです。
その状況の中で、園は営業を続け、施設の拡張・増築を重ねており、その過程で許可を得ないまま建築されたものが相当数にのぼるとされています。
行政指導と改善要求
市が繰り返した行政指導では、「施設を撤去」「用途変更の是正」「適正な届け出の実施」などが運営会社に求められていましたが、違法建築物の数が増え続けたため、市側の対応に限界があったと見る向きもあります。
このような状況が長年続いたことが、行政の監督責任および施設側の法令順守姿勢に対する批判を呼びました。
閉園決定(2025年9月末)
最終的に、運営会社は法令上の問題を重く受け止め、2025年9月末をもって閉園すると決定しました。この決定は、無許可建築・土地利用の問題が公的に取り沙汰される中でのものであり、営業継続が困難と判断されたことを示しています。
捜査および家宅捜索、前代表の任意聴取
閉園後、2025年10月23日以降、北海道警察はサクセス観光や関連先を家宅捜索し、運営会社の前代表に対して任意で事情聴取を実施しました。
容疑としては、先述の都市計画法違反、普通河川管理条例違反、国土利用計画法違反、建築基準法違反、浄化槽法違反、動物愛護法違反などが含まれており、押収資料や聴取内容を基に立件の可否を検討しています。
また、閉園に伴い園内に残されていた動物の搬出・譲渡、違法建築物の撤去計画について、札幌市が運営会社に対して計画書の提出を求め、期限内の対応を求める等の行政対応も進められています。
ノースサファリサッポロとは?
ノースサファリサッポロは、札幌市南区豊滝に2005年に開業した体験型動物園です。最大の特徴は、一般的な動物園とは一線を画す「近接・体験型の展示スタイル」でした。
- 動物との距離が近い展示:アカカンガルーやインコなどのエリアでは放し飼いに近い状態で動物が歩き回り、来園者が自由に触れ合える仕組みが採用されていました。
- スリルある体験:ピラニアやワニの上を吊り橋で渡るコーナーなど、危険動物を間近に感じられる構成が話題を呼び、「日本一危険な動物園」と呼ばれるほどでした。
- 非日常の演出:フクロウが結婚指輪を運ぶイベントや、アザラシの隣で宿泊できるプランなど、他にはない“非日常”を体験できる施設として人気を博しました。
レストランや宿泊施設も併設され、観光スポットとして国内外の旅行客にも知られていました。

動物福祉の観点から見た問題点
一方で、こうした“距離の近さ”が裏目に出た場面も多く、動物の扱いや飼育環境をめぐる批判が絶えませんでした。
- 劣悪な飼育環境の指摘
市の立ち入り検査では、首に傷を負ったアヒルや脱毛の激しいポニー、水飲み場がない動物などが確認され、清掃や管理の不備が報告されています。 - 不適切なふれあい体験
エサやり体験の際、職員の監視が十分でなく、動物が乱暴に扱われるケースがありました。実際に、来園者が子グマを殴る場面を目撃したという報道も出ています。 - アザラシ宿泊プランへの批
アザラシの隣で宿泊できるプランは話題を呼びましたが、SNSなどで「動物福祉の観点から虐待にあたる」と強い批判を浴び、札幌市にも苦情が殺到しました。 - 登録前の動物大量死
過去には、業者から購入したアザラシ数頭のうち、市への登録前に多くが死亡していたことも判明。飼育体制や衛生管理への疑問がさらに深まりました。
こうした事例が積み重なり、「ノースサファリサッポロは動物を商業的に利用しすぎているのではないか」という批判が拡大していきました。
残された動物たちと今後の課題
閉園後も園内には一部の動物が残されており、札幌市は運営会社に動物の移動計画と撤去計画の提出を求めています。市民からは「動物たちの行き先を明らかにしてほしい」「最後まで責任を持ってほしい」との声が寄せられています。
ノースサファリサッポロが残した課題とは
ノースサファリサッポロの事案は、「20年間もの長期にわたり、無許可建築・無許可営業が続けられた」という点で、非常に衝撃的です。さらに、動物福祉・環境保全・地域社会という複数の視点が交錯する複雑な問題です。現在、捜査・行政対応が進行中であり、今後、立件の有無や違法建築物撤去・動物の扱い・再発防止策などが焦点となるでしょう。
「なぜ許可を得ずに施設を拡張し続けられたのか」「市・行政はなぜ強制的な是正措置を講じなかったのか」「閉園後の動物の行方はどうなっているのか」など、多くの疑問が残ります。これらは報道だけでなく、行政・捜査機関の公表資料を通じて確認を続けるべき問題です。

