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外国人労働者が増えると日本人の賃金は下がる?政治家の主張と現実のズレ

外国人労働者が増えると日本人の賃金は下がる?政治家の主張と現実のズレ 時事・ニュース
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2025年の参議院選挙で、一部政党が大きく取り上げたのが「外国人労働者が増えると日本人の賃金が上がらないのではないか」という懸念です。

たとえば日本保守党の百田尚樹代表は「外国人労働者は日本人の給料の7割程度で働いており、安い労働力が入ってくると日本人の給料が上がらない」と主張。また参政党の神谷宗幣代表も「人手不足なら賃金は上がるが、供給が増えれば当然下がる」と述べています。

こうした発言に根拠はあるのでしょうか。統計と専門家の見解をもとに、冷静に分析してみましょう。

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外国人労働者の賃金水準は日本人より低いのは事実

厚生労働省の2024年「賃金構造基本統計調査」によると、日本人一般労働者の平均月給は約33万円。一方、外国人労働者の平均月給は約24万円で、日本人の約7割にとどまります。

この数字を見れば、「外国人は安い賃金で働いている」という主張はある程度正確だとわかります。とくに、技能実習制度や「特定技能」で来日している労働者は、介護や建設、農業など人手不足の現場で低賃金で働いているケースが少なくありません。

しかし、この「外国人の賃金が低い」ことが、日本人全体の賃金にどのように影響するのかは、別の視点から見なければなりません。

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賃金差の背景は年齢や職場規模など構造的な要因

国立社会保障・人口問題研究所の是川夕氏によると、外国人労働者の賃金が日本人より低く見えるのは、若年層が多く、勤務先の企業規模が比較的小さいことが影響しているといいます。つまり、同じ職場・同じ業務であれば、賃金格差はそれほど大きくないというのです。

また、賃金全体の上昇傾向に注目すれば、日本人の平均月給は2014年以降、約3万円ほど上がっています。外国人労働者の増加にもかかわらず、賃金が下がっているという事実は確認されていません。

こうしたことから、「外国人が増えると日本人の給料が上がらない」という主張は、現時点では科学的に裏付けられていないといえるでしょう。

専門家の多くは「直接の影響は小さい」と指摘

青山学院大学の友原章典教授(国際経済学)は、「賃金水準を決定する要因は複雑で、外国人労働者はそのうちの一つにすぎない」と述べています。景気動向、企業の業績、内部留保、最低賃金の水準、業界の需給バランスなど、さまざまな要因が賃金に影響を与えるため、外国人労働者の数だけで判断するのは早計です

実際、海外の実証研究でも、移民の受け入れがその国の労働者の賃金を直接押し下げるという明確な傾向は認められていません。OECDなどの国際機関の調査でも、外国人比率が上がっても日本人の雇用や賃金に「統計的に有意な影響はない」という結論が出ています。

外国人労働者の増加はなぜ必要なのか

この問題の根本には、日本社会が抱える深刻な課題があります。それが「労働力不足」です。

内閣府の高齢社会白書によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2024年時点で約7,373万人ですが、2050年には5,540万人にまで減少すると予測されています。毎年40万〜100万人の労働者が減っていくなかで、外国人労働力の活用は避けて通れない現実です。

建設、介護、農業、飲食といった現場ではすでに人手不足が深刻化しており、外国人がいなければ現場が回らない状況も珍しくありません。仮に年間30万人の外国人労働者を受け入れたとしても、人手不足を完全に埋めるには到底足りません。

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賃金を決めるのは「制度」と「経営」

もうひとつ忘れてはならないのは、「日本人の賃金が上がらない」理由が他にもたくさんあるということです。

たとえば、日本企業は内部留保(企業が貯め込むお金)を長年にわたって積み上げてきましたが、それが労働者の給与に反映されにくいという構造があります。また、非正規雇用の増加、労働組合の弱体化、最低賃金の地域差など、賃金に影響する要素は複雑に絡み合っています。

つまり、日本人の賃金を本気で上げたいのであれば、外国人労働者の数を議論するだけでは不十分です。最低賃金の引き上げや、賃上げのインセンティブを企業に持たせる税制改革など、より包括的な制度設計が求められているのです。

外国人労働者をめぐる議論には冷静さが必要

選挙期間中や政治的な発言では、どうしても「外国人のせいで賃金が上がらない」といった刺激的な言葉が注目を集めがちです。しかし、冷静にデータを見れば、そのような単純な構図ではないことがよくわかります。

もちろん、外国人労働者の受け入れには慎重さも必要です。安価な労働力として使い捨てるような制度設計では、外国人も日本人もともに不幸になります。労働環境の整備、社会保障制度への参加、多文化共生の取り組みなど、共に暮らす社会の基盤づくりが重要です。

日本人の賃金と外国人労働者はどう向き合うべきか

現時点で「外国人労働者が増えると日本人の賃金が上がらない」という主張は、科学的根拠に乏しく、過度な不安をあおる懸念もあります。日本社会が直面しているのは、外国人労働者の増加による賃金低下という単純な問題ではなく、むしろ構造的な人手不足と賃金の停滞です。

必要なのは、労働市場の透明性向上、すべての労働者にとっての公正な待遇、そして将来に向けた制度の再設計です。外国人労働者を敵視するのではなく、どうすれば共に社会を支える存在として活かせるのか——その視点こそが、これからの日本に求められています。

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