2025年4月、アメリカのバイオ企業「Colossal Biosciences(コロッサル・バイオサイエンス)」が発表した「ダイアウルフ」の復活は、世界に大きな驚きと関心を呼びました。このニュースは「ジュラシック・パークの現実版か?」とSNSでも話題を呼び、多くの人々の関心を集めました。しかし、絶滅種復活の背景には科学の進歩とともに、倫理的・生態系的な問題が横たわっています。
ダイアウルフとは?—古代に生きた“もう一つのオオカミ”
ダイアウルフは、約25万年前から1万年前の北米に生息していた大型の肉食獣です。名前の「Dire(恐ろしい)」が示す通り、体格は現代のグレイウルフ(ハイイロオオカミ)よりも一回り大きく、強力なアゴと歯を持ち、獲物を骨ごと砕くことができたとされています。
外見はグレイウルフに似ているものの、遺伝子的にはまったく別系統であることが近年の研究で判明しています。むしろ、現在のオオカミやイヌとは遠縁で、独自の進化を遂げた種だったのです。
化石はアメリカ各地で発見されており、特に有名なのがロサンゼルスのラ・ブレア・タールピット。ここからは多数のダイアウルフの骨が見つかっており、その生態や群れで狩りをしていた可能性などが研究されています。
Dire Wolves and Geography
— Jose Augustine (@mysticbot_) April 8, 2025
From fossils in California’s La Brea Tar Pits to a 50,000-year-old jawbone in Alberta, dire wolves once roamed North America’s vast landscapes, and now, as of April 8, 2025, three pups—revived by Colossal Biosciences in Dallas, Texas—reside in a hidden… pic.twitter.com/JxP4mDkMf4
絶滅種復元の方法と現状
コロッサル社は、ダイアウルフの化石から抽出されたDNAを解析し、その情報を元に現代のオオカミの細胞にゲノム編集を施すことで、ダイアウルフの特徴を持った子どもを誕生させました。
誕生した3匹は現在、アメリカ国内の保護区で健康に育っており、科学技術の成果として注目されています。しかし、注意したいのは、この動物が「完全なダイアウルフそのもの」ではなく、近縁種との交配によって得られた“似て非なる存在”であるという点です。
なぜダイアウルフが選ばれたのか
数ある絶滅種の中から、なぜダイアウルフが選ばれたのでしょうか。
その理由のひとつは、科学的な魅力にあります。ダイアウルフは、グレイウルフに似た外見を持ちながら、遺伝子的には大きく異なる謎多き動物です。そのミステリアスさが研究対象として非常に魅力的であると同時に、復元可能な近縁種が存在することも選定理由の一つとされています。
絶滅種復活に潜む倫理的問題
ダイアウルフの復活は、たしかに科学的なロマンを感じさせる出来事です。しかし、絶滅種復活の裏にはさまざまな倫理的な問題も潜んでいます。
特に懸念されるのが、生まれた動物たちの生存環境です。彼らが本来生きるはずだった自然はすでに失われており、現在では保護区の中という限られた環境で生きていくしかありません。これは本当の意味で「自然回帰」ではなく、あくまで人間の管理下での生存なのです。
生態系への影響と責任ある研究のあり方
さらに重要なのは、蘇った動物たちが今の生態系にどのような影響を与えるのかという問題です。
たとえ野生に放たれなかったとしても、逃亡や予期せぬ交配などのリスクがゼロとは言い切れません。そのため、こうしたプロジェクトには厳格な管理体制と倫理的ガイドラインが不可欠です。
また、絶滅の経緯にも注目すべきです。ドードーやステラーカイギュウのように人間活動によって絶滅した動物とは異なり、ダイアウルフは自然淘汰によって姿を消した可能性が高い種です。だからこそ、「復活させるべきだったのか?」という疑問の声もあります。
科学報道のあり方も問われている
今回の報道では「復活に成功!」「科学の節目!」「愛くるしい」といったセンセーショナルな表現ばかりが目立ちました。ポジティブな面ばかりが強調され、プロジェクトの目的や今後の責任、管理方法といった重要な情報はほとんど伝えられていません。
このように、メディアによるセンセーショナルな報道のあり方にも課題があります。読者に誤解を与えず、冷静な判断を促す報道姿勢が求められています。科学と社会をつなぐのがメディアの役割ではないでしょうか。
絶滅したオオカミがゲノム編集技術で蘇った!アメリカ企業が1万年以上前に絶滅した「ダイアウルフ」の化石DNAから #FNNプライムオンライン https://t.co/GjzVMrVQJ6
— FNNプライムオンライン (@FNN_News) April 8, 2025
絶滅種復活は未来の希望か、それとも警鐘か
もちろん、絶滅種の復活には期待もあります。たとえば、過去に存在していた免疫力や遺伝的多様性を研究することで、未来の感染症対策や生物多様性の保全につながる可能性もあります。
しかし、こうした技術は人類の利益だけを追求するものではなく、地球全体の自然との調和が前提でなければなりません。
私たちが向き合うべきなのは「すごい!」という驚きだけでなく、「その命にどう責任を持つか」という問いです。
Colossal Biosciences(コロッサル・バイオサイエンス)https://colossal.com/direwolf