採用差別が社会問題として改めて注目を集めています。2025年7月、大手保育所運営会社「キッズコーポレーション」が、男性保育士や妊娠中の女性を不採用とする社内ルールを設けていたことが、内部資料や元社員の証言から明らかになりました。
同社は全国で病院内・事業所内の保育所を中心に約300カ所を運営し、業界では知名度の高い企業です。しかし今回、採用基準が性別や妊娠を理由に差別的だった可能性が指摘され、社会に大きな波紋を広げています。
キッズコーポレーションは「ルールは一つの指針で、個別に対応している」と説明していますが、厚生労働省は「男女雇用機会均等法違反の可能性がある」との見解を示しました。
本記事では、この問題の背景と法律上の注意点、そして企業が採用時に気をつけるべきポイントを詳しく解説します。
問題となった「採用差別」の内容とは?
今回発覚したのは、キッズコーポレーションが内部資料で採用の際に特定の条件に該当する人を不採用にするルールを明記していた点です。
内部資料にあった主な内容
- 男性保育士は採用しない(過去の園長逮捕事件をきっかけに制定)
- 妊娠中の女性も採用対象外
- 精神疾患のある応募者も採用不可
- 「断れるポイントを探し、断る」と明文化
男性の不採用ルールは、東京都内の園で起きた過去の不祥事(元園長による女児への強制わいせつ事件)をきっかけに策定されたものとされています。
妊娠中の女性については「体調不良で休んでも評価できない」という社内論理があったようです。
これらのルールは、事実上の採用差別を指示するマニュアルだったと言えるでしょう。

採用差別が疑われたキッズコーポレーションとは
キッズコーポレーションは、栃木県宇都宮市に本社を置く保育業界大手の企業です。
キッズコーポレーションの基本情報
- 会社名:株式会社キッズコーポレーション
- 設立:1995年
- 本社所在地:栃木県宇都宮市
- 主な事業:病院内・企業内保育所、認可・小規模保育園の運営(全国約330園)
- 保育理念:「KIDS FIRST(子どもが最優先)」
- 保育方針:子ども主体の保育を目指し、独自の「キッズアプローチ」を実施
キッズコーポレーションは「自由保育」「子ども主体」という柔軟な方針を掲げ、現場の保育士にも比較的裁量が与えられている点が評価されてきました。
社風と実際の働きやすさは?
- 子ども主体の保育が徹底され、保育士の自由度は比較的高い
- シフトの融通やリモート・中抜け制度など柔軟な働き方に取り組んでいる
- ただし現場の人員不足が慢性化しており、園によって職場環境に差がある
- 昇給や給与面への不満の声もある
- 管理職のマネジメント力にばらつきがあるとする口コミも目立つ
子どもを第一に考える方針を掲げながら、現場では人手不足や待遇に課題を抱えていることもわかります。

採用差別は法律違反|知っておくべき雇用関連法
今回のキッズコーポレーションの事例で最も問題視されているのが、男女雇用機会均等法(均等法)違反の疑いです。
男女雇用機会均等法のポイント
- 募集・採用・配置・昇進・教育訓練・福利厚生において、性別を理由とした差別は全面禁止
- 妊娠・出産・育児・介護を理由にした不利益取り扱いは厳禁
- 精神疾患などを理由に採用を拒否する場合も、合理的理由がないと違法
- 間接差別(例:体力要件、転勤義務)も原則禁止
企業は「男性だから」「妊娠しているから」といった属性だけを理由に採用を断ってはいけないのです。
また、マタニティハラスメント防止措置も義務化されています。妊娠・出産を理由とした差別的な扱いや、働くこと自体を妨げる行為は、法律違反に該当します。
キッズコーポレーションの内規は、これらの法令に明らかに抵触する内容でした。
企業のリスク管理と採用差別の違い
企業にとって採用は重要なリスク管理の場面でもあります。特に保育業界では、児童を預かる以上、万が一の事故や事件を防ぐ責任は非常に重いものです。
実際、SNSでは以下のような意見も見られました。
- 「企業が採用に慎重になるのは、リスク管理として理解できる」
- 「採用条件を明確にすることで、企業と求職者双方のミスマッチを防ぐべき」
しかし、リスク回避と採用差別は別問題です。
採用基準は、あくまで応募者の個別の能力や適性を公正に評価した上で設定されるべきです。「男性だから」「妊娠中だから」といった属性だけで採用を拒否するのは違法行為であり、社会的にも許容されません。
もし、過去の事件が原因で男性採用に慎重になるのであれば、採用後の研修強化、適切な監視体制、ハラスメント対策の徹底などで対応するのが本来あるべき姿です。
採用差別が保育業界と社会に与える影響
1. 男性保育士の立場がさらに厳しくなる懸念
男性保育士は数としてまだ少なく、保育業界の性別偏重は以前から問題視されてきました。
今回のようなルールが広まれば、男性保育士の社会的信用や就業機会をさらに狭める恐れがあります。
2. 妊娠中女性の就労機会の縮小
妊娠・出産を理由に採用を断ることは、女性のキャリア形成や継続就業を妨げる深刻な問題です。
日本社会が抱える少子化対策・女性活躍推進に逆行する行為といえるでしょう。
3. 保育業界全体の信頼低下
本件は一企業の問題にとどまらず、保護者や自治体から保育業界全体への不信感を生む可能性もあります。
公平で安心できる保育環境を求める声が、より一層高まるでしょう。
採用内規の見直しと法令遵守の徹底
今回のキッズコーポレーションの採用差別問題は、保育業界だけでなく、すべての企業が学ぶべき事例です。
今後、企業がすべきこと
- 採用基準・内規の全面見直し
- 採用担当者への法令遵守研修
- 妊娠・出産・性別に関係なく、個別の適性を重視した採用プロセスの構築
- リスク管理は採用後の育成・環境整備で対応
- 外部相談窓口・社内ホットラインの整備
「公平な採用」「多様性の尊重」は、これからの社会において企業ブランドの信用にも直結する重要な要素です。
キッズコーポレーションの今後の動きと、保育業界の採用慣行の見直しに注目が集まっています。