2025年の大阪・関西万博において、ひときわ注目を集めているのが「イタリア館」です。木材を多用した持続可能な建築で知られるこのパビリオンでは、イタリアの文化・芸術・科学・技術が多角的に紹介されており、開幕直後から多くの来場者が足を運んでいます。
そのイタリア館で、2025年5月18日より新たに展示が始まったのが、ミケランジェロによる大理石彫刻《キリストの復活》です。日常ではなかなか目にすることができない貴重な作品が日本で一般公開されるということで、来場者のみならずネット上でも大きな反響を呼んでいます。
ミケランジェロ《キリストの復活》とは
この彫刻は、ルネサンス期の巨匠ミケランジェロ・ブオナローティによって、1514年から1516年にかけて制作されたとされる作品です。高さおよそ2メートルの立像で、十字架を右手に掲げる若々しいキリストの姿が表現されています。
胸元や手の甲には磔刑の際の傷痕が刻まれており、受難と復活というキリスト教の中核的テーマが力強く造形されています。作品には、縄や布なども彫り込まれており、ミケランジェロの卓越した彫刻技術を存分に感じられる点も見どころのひとつです。
本作は、ローマ郊外のラツィオ州バッサーノ・ロマーノにある「サン・ヴィンチェンツォ・マルティーレ教会」に所蔵されており、通常は美術館などで展示されることはありません。こうした背景から、「隠れた名作」として一部の美術愛好家の間で知られてきました。
なお、今回の来日は2017年の東京での展示以来、8年ぶり2度目。展示開始は、イタリア館でラツィオ州をテーマとする期間に合わせたものとなっています。
絶賛されるイタリア館の展示
イタリア館の魅力は、この《キリストの復活》にとどまりません。館内には、以下のような歴史的・文化的価値の高い作品が展示されています。
- 《ファルネーゼのアトラス》(2世紀・古代ローマ)
天球儀を背負った神話上の巨人アトラスを描いた彫像で、星座のモチーフが美しく彫り込まれています。ナポリ国立考古学博物館が所蔵。 - カラヴァッジョ《キリストの埋葬》(1604年頃)
ルネサンス期の画家カラヴァッジョによる宗教画で、イタリア・バチカン美術館の至宝。今回、床に近い位置に展示され、間近で鑑賞できる貴重な機会となっています。 - レオナルド・ダ・ヴィンチ《アトランティック・コーデックス》の素描
ダ・ヴィンチの科学的発想が詰まった手稿から数点を展示。自転車の構想や繊維機械など、芸術と技術の融合を見ることができます。 - 現代アート:ヤゴ《循環器系》
白い心臓の形をした陶製のオブジェが30個、円形に配置され脈動するような演出を施したインスタレーション作品。生命の循環とつながりをテーマにしたものです。
食文化も体験できるイタリア館屋上レストラン
アート鑑賞の合間にひと息つける場所として、イタリア館の屋上には「Eataly(イータリー)」が運営するレストランがあります。
提供されるメニューは本格的なイタリアン料理で、地域色豊かな味がそろっています。
- ナポリ風マルゲリータピザ
- 北イタリア風のサフランリゾット
- トスカーナ州産のTボーンステーキ
- 樽生のスプマンテやリモンチェッロなどのイタリア産ドリンク
また、オリーブオイルのテイスティング体験や、デジタル技術を活用した“未来のピザ”づくりのデモンストレーションも開催されており、大人から子どもまで楽しめる内容です。
イタリア館:人気ゆえの混雑と予約の難しさ
このように見どころ豊富なイタリア館ですが、あまりの人気のため、いくつかの課題も生じています。
まず、入館には事前予約が必要です。公式アプリ「Italy Expo 2025」で30日前から予約を受け付けていますが、枠はすぐに埋まってしまうのが現状です。一般列に並ぶ場合も、土日祝日には最大で4時間待ちとなるケースがあり、長時間の滞在を覚悟する必要があります。
また、入館用のQRコードがネット上で転売されている問題も指摘されています。万博公式側は、予約名とExpo IDの照合により不正利用を防止するとしており、転売されたQRコードを使った場合、入館できない可能性があると注意喚起しています。
少しでもスムーズに入館したい方は、キャンセル枠の再放出(特に朝方)をこまめにチェックしたり、有料のファストパスを検討したりするのが良いでしょう。
おわりに
イタリア館では、2000年以上にわたるイタリアの芸術と文化、そして現代に息づく創造性が、空間全体を通じて表現されています。なかでも、今回特別展示されているミケランジェロの《キリストの復活》は、普段は教会の奥にひっそりと佇む作品でありながら、強い精神性を感じさせてくれる名品です。
混雑や予約の難しさといった現実的な課題はありますが、それを乗り越えるだけの価値が、この空間には確かにあります。美術館や博物館とは異なる、「生きたイタリア」を感じられるこの万博の体験を、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。