2026年2月の春節(旧正月)期間、中国では最大9日間に及ぶ長期休暇が始まりました。
この時期は中国国内で延べ95億人もの人の移動があるとされる大型連休で、例年、海外旅行も活発化します。
ところが今年は、これまで人気の高かった日本よりも韓国を選ぶ中国人が目立っています。韓国政府・観光当局の予測では、春節期間中の中国人訪韓客は前年を約40%上回り、約19万人規模に達する見通しです。
春節で中国人観光客が韓国へ集中
韓国の中心街・明洞などでは、中国人観光客で通りが埋まり、買い物や飲食を楽しむ様子が各所で見られています。
現地では中国語対応スタッフや電子決済環境(アリペイなど)が整備され、訪問客の利便性も高まっています。流通大手や百貨店、免税店など観光関連企業の株価も上昇し、春節をきっかけとした特需としての経済効果にも注目が集まっています。
このような動きは、単に春節に海外旅行の需要が増えているだけではなく、韓国そのものが魅力的な旅行先として選ばれていることを示しています。近年のK-POPやドラマ、ブランド人気といった文化的な要素も、若い層を中心に訪問意欲を高める要因になっています。
中国が日本への渡航自粛を呼びかける経緯と内容
一方で、中国政府は2025年11月以降、公式に中国人に対して日本への渡航自粛を繰り返し呼びかけています。
中国外務省や中国文化・観光当局は「日本で中国人が安全上のリスクに直面している」との見方や、犯罪や自然災害(地震)を理由に挙げ、日本への旅行を控えるよう注意喚起しています。また、春節期間にも同様の注意が出され、2月~3月期の旅行について慎重な判断を促しました。
この自粛勧告は必ずしも法的な強制力を持つものではありませんが、中国政府の公式な勧告であるため、旅行代理店や航空会社が団体旅行の受付を縮小したり、個人客も不安から渡航を見送るケースが見られます。
実際に日本行きの航空便数や旅行者数は前年に比べ大幅に減少し、中国人旅行者数は大幅減、更には「前年比で54%減」と報じられるなど、その影響は数値としても確認されています。
渡航自粛と日中関係の背景
中国が日本への渡航自粛を呼び掛け始めた背景には、政治的・外交的な緊張もあります。
日本の政治家による台湾に関する発言や、中国側が安全環境の悪化を指摘したことなどが複合的に絡んでおり、旅行勧告は単なる安全情報提供にとどまらず、日中間の関係悪化を反映した動きとも受け止められています。
一方で、中国国内の消費者行動を見ると、政治的な呼びかけと個人の消費・旅行意欲には乖離があるとの分析もあります。中国若年層や都市の中間層を中心に、海外ブランドや旅行への関心は依然として強いという指摘もあります。
日本の観光地への影響
中国からのインバウンド(訪日外国人)客は、これまで日本の観光業にとって極めて重要な柱でした。特に春節期間は中国人旅行者の来訪が多く、地方温泉地や都市観光(東京・大阪・京都など)で消費が大きく伸びる時期でした。しかし渡航自粛の影響で、今年の春節では中国人旅行者数が大幅に減少し、予約キャンセルが相次いでいます。この結果、宿泊業や飲食、小売業などインバウンド関連ビジネスへの影響は無視できません。
北海道や京都、富士山周辺など、これまで中国人観光客が多いエリアでは「例年の活気が感じられない」「中国人の姿が少ない」といった声が現地から聞かれています。
この波及は、単に春節期間の落ち込みだけではなく、今後の年間インバウンド戦略にも影響します。中国市場に依存していた企業や地域は、需要の分散や他国からの誘客策を検討する必要性に迫られている状況です。実際、日本国内でも観光業者の間で 脱中国依存 の動きや、台湾や東南アジア、欧米からの集客強化といった方策が模索されています。

韓国との対比が浮き彫りに
こうした中で、春節に韓国に向かう中国人が増加していることは、日本にとって競争環境の変化を強く感じさせる現象です。韓国は中国人観光客の受け入れ体制が整っているうえ、政治的な距離感も比較的良好な時期が続いているため、「日本以外の選択肢」として注目されています。また韓国への旅行は距離的にも近く、ショッピングや流行体験という観光ニーズにマッチしやすいといえます。
春節期間におけるこうした動きは、単に季節要因だけでなく、国際関係や政策が観光の流れに影響を与えていることを象徴しています。
今後の視点
中国人観光客の動きは、政治・経済・安全・文化といったさまざまな要因の複合体です。春節特需で韓国が恩恵を受けている一方、日本は中国からの訪問客数の減少という逆風に直面しています。観光業の立場からは、単年度の変動だけでなく、長期的な戦略として多様な国・地域からの誘客を進める必要があるでしょう。
政治的な緊張は、どの程度観光需要に影響するのか、そしてどの程度回復可能なのかは不透明です。ただ、観光はしばしば外交関係や国際ニュースに振られる「敏感な指標」として機能するため、両国関係の動向を注視しながら、観光政策を見直すことが求められています
