近年、ふるさと納税の返礼品として高い支持を集めてきた「シャインマスカット」。その一方で、ふるさと納税の信頼性を揺るがす重大な問題として注目されているのが、長野県須坂市で発覚した シャインマスカットの産地偽装問題 です。
須坂市は2024年12月、返礼品業者「日本グルメ市場」(和歌山県)を相手取り、約2億5458万円の損害賠償を求めて提訴する方針を明らかにしました。
この記事では、
- 産地偽装はどのように発覚したのか
- 市と業者の主張はなぜ対立しているのか
- ふるさと納税制度にどのような影響があるのか
これらをわかりやすく、まとめていきます。
問題の発端:返礼品「シャインマスカット」の産地が違った
日本グルメ市場が行っていた産地偽装は、2つの大きなパターンで明らかになりました。
1つ目は、山形県産のシャインマスカットを「長野県産」と偽って出荷していたケースです。
同社は2019年9月から2023年10月までの4年以上にわたり、山形県産であることを把握しながら発送箱に「長野県産」と表示し、そのまま須坂市のふるさと納税返礼品として取り扱っていました。数量は実に10,987.95kgに達し、4年以上にわたって同様の表示が続いていたことから、偶発的なミスとは考えにくい状況が浮かび上がっています。
2つ目は、長野市・中野市・千曲市など、須坂市以外の長野県内で収穫されたシャインマスカットを「須坂市産」と説明していたケースです。対象期間は2024年9月3日から同年11月8日までと短期間ですが、同社は産地が須坂市でないことを認識したうえで、発送時に同梱するリーフレットへ「長野県須坂市で収穫したフルーツ」と記載していました。このとき扱われた量は14,293.85kgに達し、短期間で事実と異なる表示が大規模に行われていた点が確認されています。
こうした2種類の偽装は、いずれも明確に事実と異なる産地表示を行っていたもので、ふるさと納税制度への信頼を大きく揺るがす重大な問題となっています。
発覚から公表まで:市の対応
問題が明らかになった後、須坂市は以下のような対応を進めました。
- 寄附者への通知と謝罪
- 返礼品の提供停止
- 業者への事実確認と改善要求
- 産地偽装の経緯や損害額の調査
- 第三者委員会の設置
さらに、市は返礼品の表示・品質管理体制を全面的に見直すことになりました。
特に大きな影響だったのが、総務省から ふるさと納税制度の「指定取り消し」を受けたこと です。これは市にとって大きなダメージで、返礼品偽装が自治体運営に直結する深刻な問題であることがわかります。

市が算定した損害額は「約2億5458万円」
須坂市は、産地偽装によって次のような損害が発生したと主張しています。
- 返礼品として発送した分に対する損害: 約2億4165万円
- 寄附者への郵送費・謝罪対応、職員の人件費など:約1293万円
これらを合計した 約2.5億円 を業者に請求。この損害算定は、必ずしも「返礼品の再送」が前提ではなく、
- 返礼品の価値の毀損
- 返礼品を提供した自治体の信用低下
- 行政対応に要した人件費・経費
などが幅広く含まれています。
市議会でも提訴方針は全会一致で可決され、「市として厳正に対処する」という姿勢を示しました。
業者側の主張は「損失は発生していない」
これに対し、業者「日本グルメ市場」は市の請求に応じず、次のような立場を示しています。
- 偽装発覚後に返礼品を「再送していない」ため市側に損害は出ていない
- 請求額に合理性がない
- 支払いに応じる理由がない
そのため、市が10月に送った請求通知にも回答せず、市が再度反論通知を送る事態に発展。結果として、市は 訴訟という次の段階に踏み切った 形です。
なぜ産地偽装はこれほど重大なのか?
シャインマスカットは、須坂市が誇る重要な特産品。
それだけに「ブランド価値」を守ることが、市の農家や地域経済に直結しています。
産地偽装が重く扱われる理由は以下の通りです。
- 地域ブランドの信用を損なう
- 真面目に生産している農家が不利益を被る
- 寄附者の信頼を裏切る
- ふるさと納税制度全体への不信を広げる
つまり単なる「表示ミス」ではなく、地域の経済、自治体の信用、制度そのものの根幹に関わる問題として扱われるべきケースなのです。
ふるさと納税の返礼品は「地場産品」でなければならない
今回のシャインマスカット産地偽装問題が大きな波紋を呼んでいる背景には、ふるさと納税制度における返礼品の重要なルールがあります。それは、返礼品は必ずその地域の「地場産品」でなければならないという点です。単に地域の名物というだけでなく、総務省が定めた厳密な基準を満たす必要があります。
総務省の基準(平成31年総務省告示第179号など)では、地場産品とは主に次のように定義されています。
まず、返礼品として提供する商品は自治体の区域内で生産されたものであることが求められます。農産物であれば、地元の畑で育て収穫されたものでなければ返礼品とは認められません。
さらに、加工品の場合は、主要原材料の中心が地域で生産されているか、あるいは主要な製造工程が地域で行われており、そこで付加価値が生じているかといった点も基準になります。ただ箱詰めだけを地域で行った場合などは、地場産品とは見なされません。
こうした地場産品の基準は、単なる競争を避け、ふるさと納税の本来の目的──地域経済の活性化や地域の魅力発信──に立ち返るために設けられています。自治体が返礼品を選ぶ際にも、この基準を厳守することが「ふるさと納税制度の指定」を維持する条件となっています。
そのため、返礼品の産地表示が実態と異なることは、制度の根本に関わる非常に重大な問題です。今回のシャインマスカットについても、須坂市産として提供された品が実際には山形県産や他市町村の長野県産だったことから、地場産品であるべき返礼品が制度要件を満たしていなかったという点が大きく問われています。
産地偽装は単なる誤表記にとどまらず、制度の信頼性を揺るがす行為であり、寄附者の期待を裏切る結果となりました。この点が、今回の問題が全国的に注目される理由でもあります。

寄附者への影響はどうなる?
須坂市はすでに寄附者へ個別通知や謝罪を行っています。
多くの自治体が同様の問題を避けるため、今後は次のような取り組みが進む見通しです。
- 返礼品のトレーサビリティ(生産地の追跡)強化
- 委託業者の審査基準の厳格化
- 品質管理のチェック体制の強化
- 返礼品情報の透明化
寄附者としても、返礼品を選ぶ際に「生産地の記載が明確か」「自治体の説明は丁寧か」といった点に注目することが重要になってきます。
まとめ:ふるさと納税の信頼をどう守るか
今回の「須坂市シャインマスカット産地偽装問題」は、単なるトラブルではなく、自治体と業者、そして寄附者すべての信頼に関わる重大な問題であることがわかります。
須坂市が2.5億円の損害賠償を求めて提訴に踏み切ったことは、
- 地域ブランドを守る
- ふるさと納税制度の健全性を保つ
という強い姿勢の表れといえるでしょう。
今後の裁判の行方次第では、全国の自治体や返礼品事業者の管理体制が見直され、制度全体の改善につながっていく可能性もあります。
引き続き注目すべき重要なニュースです。
