政府が進める「OTC類似薬の保険外し」が、今、大きな波紋を呼んでいます。
解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、アトピー治療薬など、日常的に使われる薬が保険適用から外れれば、薬剤費が20〜30倍に跳ね上がると言われ、医師団体や患者団体は強く反発。
12月4日には、全国保険医団体連合会(保団連)が20万筆の署名を厚労省へ提出し、反対の声がさらに広がっています。
この記事では、
- この政策はなぜ出てきたのか
- どんな薬が対象なのか
- 何が問題で、誰が困るのか
- 患者側のリアルな声
を解説します。

OTC類似薬の“保険外し”とは何か?
まず、「OTC類似薬」という言葉が少し複雑に見えるかもしれません。
OTC類似薬=市販薬(OTC)と同じ成分・似た効能を持つ処方薬のこと。
たとえば、
- アレルギー薬(点鼻薬・点眼薬・内服薬)
- 解熱鎮痛薬
- 保湿剤(ヒルドイドなど)
- アトピー性皮膚炎の外用薬
- 風邪薬の一部成分
こうした“日常的に使う薬”の多くが対象になります。
現在は、診察と処方を受ければ健康保険が適用されるため少ない負担で入手できます。
しかし保険から外れれば、ドラッグストアで買うのと同じように全額自己負担になります。
なぜ「見直し」を言うのか
政府は「現役世代の保険料負担を抑制するため」と説明しています。
- 医療保険財政の抑制:医療費の増大を抑えるため、保険給付の対象や範囲の見直しが求められている。
- セルフメディケーションの促進:低リスクで一般的な症状には、市販薬を活用して個人負担で対処する流れをつくり、医療機関の受診を抑制する狙い。
背景には、医療費増大が続く中、「比較的価格が低く、市販薬でも代替できる薬は保険から外しても良いのでは」という考え方があります。
しかし、専門家は次のように指摘します。
- OTC類似薬の医療費は医療費全体(48兆円)の最大2%程度にすぎない
- 保険外しで軽減される保険料は、1人あたり月100円程度
- にもかかわらず、患者の薬代は年間数万円〜十数万円の負担増になる
つまり、国の財政効果はきわめて小さいのに対し、患者負担だけが大幅に増える政策になっているのです。

どんな薬が対象になりそうか?
明確な対象リストはまだ正式公表されていませんが、具体的に議論で名前が挙がっている有効成分の例としては、皮膚保湿剤のヘパリン類似物質、制酸剤の酸化マグネシウム、抗アレルギー薬のフェキソフェナジンなどがあります。
維新の会が示した28成分リストにはこうした日常診療で広く使われる成分が含まれています。これらは、アトピーや花粉症、胃酸過多、軽度の痛みや炎症など、慢性的・反復的に用いられる薬が多く含まれており、対象範囲が広い点が問題視されています。
対象となる可能性が高い薬
- 解熱鎮痛薬
- 抗アレルギー薬(点鼻・点眼・内服)
- 風邪薬の一部
- 皮膚保湿剤(ヒルドイドなど)
- 花粉症治療薬
- 一部の胃薬・整腸薬
これらは市販薬に似た成分を持つ処方薬のため、「OTC類似薬」と分類されています。
保険が外れたら負担はどうなる?
最大の問題は、薬代が一気に20〜30倍に膨れ上がる可能性があることです。
● 現在
- 診察 + 処方薬 = 保険適用で軽い負担
- 後発医薬品(ジェネリック)ならかなり安い
● 保険外し後(想定)
- 処方薬が市販薬と同じ「全額自己負担」へ
- 月3000円だった薬が1万円以上になるケースも
特に影響を受けるのは、慢性的に薬が必要な人です。
当事者団体や医師側が指摘する主な懸念は次の通りです。
- 薬代の急増:保険適用で1~3割負担で済んでいた薬が全額自己負担になると、同じ薬を市販価格で買うことになり、薬剤費が大きく跳ね上がる(報道や当事者試算では“薬代が20〜30倍になる”といった衝撃的な数字も示されています)。
- 生活崩壊のリスク:当事者が行ったアンケート(有効回答1万2301件)では約90%が保険適用外に反対、84.9%が「薬代が高くなる」と回答しました。治療継続が経済的に困難になれば、日常生活や就労、子育てに支障が出る恐れがあります。
- 自己判断による市販薬利用や受診抑制:受診を控えて市販薬で自己判断する人が増えれば、薬の飲み合わせや副作用、重大な病気の見逃しにつながるリスクが高まります。「飲み合わせや副作用」「病気の見逃し」も懸念されます。
- 制度的救済の喪失:保険給付から外れると、高額療養費制度や難病・子ども医療費助成の適用対象から除外される可能性があり、医療支援のセーフティネットが縮小します
誰が最も困るのか?
① アレルギー・アトピー患者
毎日薬が必要な人ほど負担が増大します。
アトピー協会の試算では、負担増が年間12万円に達するケースも。
② 難病・慢性疾患の患者
日常生活を維持するために必要な薬ほどOTC類似薬に該当しやすく、
「薬を控える → 症状悪化」という悪循環が懸念されます。
③ 子育て世帯
花粉症、アレルギー、アトピーを持つ子どもは多く、家庭の負担は非常に重くなります。
「少子化対策に逆行する」という声も強い理由です。
④ 医療的リスクを避けたい人
市販薬で自己判断する機会が増え、
- 副作用リスク
- 病気の見逃し
- 受診控え
が増えることを医師が懸念しています。
なぜここまで反発が大きいのか?
この政策の進め方が「通常の医療制度改革と異なる」と批判されているためです。
通常なら、
- 厚労省が審議会で議論
- 医師・患者団体のヒアリング
- 詳細な影響評価
を経て慎重に決定されます。
しかし今回は、
“補正予算の中で、結論ありきで進められた”
という異例のプロセスだったため、現場の医師からも強い反発が起きています。
まとめ:生活に直結する問題として広く知ることが必要
OTC類似薬の保険外しは、
“医療費抑制の象徴”のように見えて、実は患者側の負担が異常に大きい政策です。
- 対象は生活に欠かせない薬
- 患者負担は増加、保険料軽減はごくわずか
- 医師・患者の反対が強い
- 議論のプロセスも不透明
という点から、社会的な議論が進むことが求められています。
薬は「贅沢品」ではありません。
特に、アレルギー、アトピー、持病を持つ人々にとって、日常を支える“生活必需品”です。
今後、対象範囲の詳細や制度設計がどうなるのか、注視する必要があります。

