おこめ券は不公平?自治体任せの背景と対応がバラつく理由

おこめ券は不公平?自治体任せの背景と対応がバラつく理由 時事・ニュース
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物価高が長期化する中、家計への負担を少しでも軽くしようと、国は今年度補正予算案に自治体向けの「重点支援地方交付金」を拡充し、「おこめ券」の配布を含む食料品価格高騰対策を盛り込みました。
とはいえ、その具体的な支援内容は自治体ごとに大きく異なり、「なぜ国ではなく自治体任せなのか?」「どこがすでにおこめ券を配っているのか?」「いくら分もらえるのか?」「いつから始まるのか?」といった疑問が相次いでいます。

本記事では、こうした疑問にわかりやすく答えながら、自治体任せになっている理由、これまでに実施した自治体の例、受け取れる金額や実施時期の傾向までまとめて解説します。

鈴木農相、おこめ券含む食料品高騰対策は市区町村の「必須項目」(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
鈴木憲和農相は2日の閣議後記者会見で、国の今年度補正予算案に自治体向けの「重点支援地方交付金」を拡充し、「おこめ券」の配布を含む食料品価格高騰対策を盛り込んだことについて、「市区町村に対応いただき
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なぜ「自治体任せ」なのか?

まず最初に。なぜこの「おこめ券(おこめギフト券)」の配布が、全国一律ではなく「自治体任せ」なのか。その背景には、制度設計と財源のあり方があります。

2025年11月21日、政府は「令和7年総合経済対策」を閣議決定。その中に、食料品などの物価高騰に対する支援策として、重点支援地方交付金(地方交付金の拡充)が盛り込まれました。これにより、「おこめ券を使った支援」や「電子クーポン」「地域ポイント」「現物支給」など、複数の選択肢が自治体に提示されています

つまり、国が「おこめ券を配る」ことを一律義務にするのではなく、「自治体ごとの事情・予算・住民構成に応じて適した方法を選んでほしい」と判断し、最終決定権は自治体に委ねられているのです。これに対して、国(特に農林水産省)は「自治体が困ったときの相談窓口」「優良事例の紹介」「実施の後押し」をする、というスタンスをとっています。

自治体実施のメリットとデメリット

メリット

  • 各自治体の実情(財政状況、住民構成、小売流通事情など)に応じた施策が可能。
  • 住民のニーズに合った支援形式(おこめ券・クーポン・水道料金軽減など)を柔軟に選べる。
  • 国の制度設計・管理コストを抑えつつ、多様な対応を促せる。

デメリット

  • 地域ごとに対応がばらつき、「配る自治体」と「配らない自治体」が生じる → 不公平感。
  • 自治体の判断で支援内容が異なるため、住民間格差が拡大。
  • 支援対象・金額・申請条件・配布時期などが自治体によって異なり、住民が情報をキャッチしにくい。

このような構造になっているため、「自治体任せ」にせざるを得なかった、という事情があります。

また、国の立場からは「最も負担感が少なく迅速に支援が届く方法を自治体に選んでほしい」「自治体が相談できるよう支援する」という説明があります。


どこで、どのように「おこめ券」を配布しているか

現在、全国で複数の自治体が「おこめ券」を配ることを決めています。ただしその対象、金額、方法、配布時期などは自治体ごとに異なっています。以下、代表的な例です。

▶ 東京都台東区

  • 対象: 令和7年9月1日時点で同区に住民登録のある世帯すべて。申請手続きは不要。
  • 配布額: 基本は「4400円分(440円×10枚)」。ただし、18歳以下の子どもがいる世帯、または世帯人数が3人以上の世帯には「8800円分(440円×20枚)」を配布。
  • 配布開始時期: 2025年10月24日から順次発送を開始し、12月上旬までに完了予定。

▶ 兵庫県尼崎市

  • 対象: 令和7年7月1日時点で住民基本台帳に登録されているすべての世帯。
  • 配布額: 1世帯あたり「2,200円分(440円分×5枚)」。
  • 配布時期: 2025年10月末までに全世帯発送済み。

▶その他

  • 一部自治体は「住民税非課税世帯のみ」を対象とするケースもあります。たとえばある町では「1世帯あたり6,160円分(440円×14枚)」を非課税世帯に郵送で配布するという通知が見つかっています。
  • また、自治体によっては「おこめ券ではなく現物の米(玄米や無洗米など)」を配る、あるいは「子育て世帯限定」「妊産婦・高齢者限定」など、対象を絞る例もあります。たとえば、ある自治体では妊産婦に無洗米9kgを配布する事例があります。
  • ただし、すべての自治体が配布を決めているわけではありません。「配らない」と明言している自治体もあり、全体像はいまだ流動的です。

どれだけ「もらえる」のか?──政府・国の目安と自治体ごとの差

国の側では、今回の重点支援地方交付金を通じた物価高対策において、「おこめ券などを使った支援として、1人あたりおおよそ3,000円相当を別枠で特別加算する」という試算を示しています。

ただし、この「3,000円」はあくまで“目安”。実際に住民の手に渡る金額は、前述のように自治体の判断によりかなり幅があります。たとえば台東区では世帯あたり4,400〜8,800円、尼崎市では2,200円というように、かなりの差があります。

また、対象となる世帯条件(全世帯/子育て世帯限定/非課税世帯限定など)や、申請の必要の有無、送付・配布方法(郵送か窓口か)なども自治体によって異なります。

この差こそが、「同じ国の支援なのに、住んでいる場所によって受け取れる額や支援内容が違う」――という不公平感の源になっているのです。


いつから始まったか、配布開始のタイミング

今回の動きのきっかけとなったのは、前述のとおり「令和7年総合経済対策」の閣議決定(11月21日)と、それに伴う重点支援地方交付金の拡充。国はこれを受け、自治体に対して食料品支援策の選択肢を提示しました。

そして、実際に配布を決めた自治体では、2025年10月末〜12月上旬ごろを中心におこめ券の発送・配布を行っているところが複数あります。たとえば台東区では10月24日から順次発送を開始。尼崎市では10月末までに発送完了としています。

ただし、配布を「これから検討」「配布対象を絞る」「別の支援策を選ぶ」という自治体も多く、すべてが同じタイミングで始まるわけではありません。今後、2026年春〜初夏あたりまでに、さらに配布を始める自治体もあると見られています。


実施しない自治体も続々——理由は“コスト”と“効果”の疑問

一方で、すべての自治体が「おこめ券」を配布するわけではありません。むしろ現時点では、実施しないと明言した自治体や、見送り・未定のまま判断を保留している自治体が少なくないのが実情です。
たとえば大阪府交野市は、市長が「経費率が高すぎる」として配布しない方針を明言。東京都でも、江戸川区や中野区が「配らない」と回答しており、住民サービスとしての効率性に疑問を持つ自治体が複数出ています。

背景にあるのは、単純に財源の配分だけの問題ではありません。

  • 券の印刷・郵送・換金などでコストがかさむ
  • 住民へ一律配布すると事務量が膨大になる
  • 「米を買う人」に限定されるため、支援効果が広く届かない可能性がある

といった理由から、「同じ予算を使うなら、上下水道料金の減免や給食無償化など、より効率的な支援に回したい」という判断が出ているのです。

こうした事情により、全国の自治体の多くは依然として『配布する/しない』の判断を保留中。国が交付金を用意したとはいえ、その使い道は完全に自治体の裁量に委ねられているため、対応に大きな差が生じているのが現状です。

報道で「配らない」と明言した自治体の例

自治体(市区町村)状況出典
交野市(大阪府)市長が明確に「おこめ券は配布しない」と宣言一連の報道で「配布せず」と報道。経費率の高さなどを理由に挙げている。
江戸川区(東京都)「配らない」と回答東京23区への聞き取り調査で「配らない」と明言。
中野区(東京都)同上、「配らない」同上。

こうした例は、報道で確認できる「配布見送り」の確定例ですが、あくまで“ごく一部の自治体”にとどまります。

特に交野市は市長が複数回にわたり宣言しており、その決意が報道でも取り上げられています。

東京都の江戸川区・中野区も、東京23区への調査で「おこめ券は配らない」と答えたものの、多くの区は「未定」のまま、との報道があります。


公平性・実効性・持続性への疑問

上述の通り、自治体任せの方式は柔軟性を持つ一方で、地域間格差や情報格差、不公平感を生みやすい構造です。特に、低所得者支援が目的とされたはずの交付金・政策が、結果として「住んでいる自治体次第」で差が出るのは、多くの国民から見て納得しづらいものがあります。

さらに、以下のような課題も指摘されています。

  • 実効性の限界:たとえおこめ券をもらっても、もらって終わり。一回限りの支援では、長期的な物価高の圧力には対処できない、という批判があります。
  • 産業構造・価格への影響:おこめ券によって需要が一時的に高まれば、流通量が限られている中で価格がさらに上昇する懸念もあります。国側もこの点を認識しています。
  • 情報の複雑性:対象世帯、申請要否、配布時期、使える店、引換方法などが自治体ごとに異なるため、住民が正しく理解・利用するには、自治体からの丁寧な広報が必要です。

つまり、おこめ券は「応急的な支援のひとつの手段」であって、根本的な食料価格や家計負担の解決にはなり得ない、というのが多くの批判者の見方です。


「どこに住むか」で受けられる支援に差が出る

「おこめ券」施策は、国と地方自治体による「裁量型支援」の典型例です。住んでいる地域、自治体の判断によって、受けられる支援が大きく異なります。一方で、「これしか方法がなかった」という面もあります。全国一律の現金支給や定額給付とは異なり、地域の実情に応じた柔軟性を優先した結果、と言えます。

私たち住民としては、まず自分の自治体がどう対応するかをきちんと確認すること。そして、もし納得できないなら自治体への意見表明や情報公開を求めることが重要です。行政は「なぜこの施策を選んだか」「どのような対象か」「どれくらい支援になるか」を明示する責任があります。

また、国には、単発の券配布だけでなく、継続的な物価対策や食料安定供給、低所得者支援の仕組みの強化が求められます。おこめ券は“応急措置”の一つでしかない――そう認識することが、公平で持続可能な支援につながると思います。

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