自民党と日本維新の会が12月1日、衆議院の議員定数削減について「小選挙区と比例代表を合わせて1割削減する」方針で合意しました。
これまで維新は「比例代表のみ1割削減」を掲げており、与党側は慎重姿勢を取っていましたが、今回は小選挙区削減にも踏み込んだ点が大きな転換点といえます。削減数の目安として示されたのは、小選挙区25、比例代表20。合計45議席の削減となり、現在の定数465から420前後へと見直される方向です。
今回の合意は、単なる数字調整ではありません。選挙制度そのものの見直し、さらに人口減少時代における民主主義のあり方など、より大きな議論にもつながる重要な動きです。
ここでは「なぜ議員定数削減が必要なのか」という根本から解説しつつ、今回の合意が日本政治にどのような影響をもたらすのかを丁寧にまとめます。

なぜ今、議員定数の削減なのか?
議員定数削減は、政治改革の文脈で長年議論されてきました。特に近年は、政治不信の高まりの中で「まず政治家が身を切る改革を」と求める声が大きく、国民の関心が高いテーマとなっています。
政治不信が背景にある「身を切る改革」への要求
背景として最も大きいのは、政治とカネの問題や不祥事が続き、国会議員への信頼が揺らいでいることです。「自分たちの待遇だけは守ろうとしているのではないか」「国民の生活が苦しいのに議員数を維持し続けるのはおかしい」といった不満が根強くあります。そうした世論に向き合うためにも、一定の削減は不可避だという主張が政党間で共有されてきました。
人口減少が招く「1票の格差」と選挙制度のゆがみ
また人口減少が進む中で、「人口が減るのに議員数はそのままでいいのか」という問いもあります。地域によっては人口が大きく減り、1票の価値の不均衡が生まれやすくなっています。こうした状況を是正し、より公平な選挙制度に近づけるため、議席の見直しは避けられません。
財政負担の大きさと、議員数削減に対する国民の理解
さらに財政への負担も理由の一つです。議員1人あたりの歳費、秘書給与、事務所費などを合計すると年間数千万円の公費が使われます。もちろん「国会議員の仕事に必要な経費」であることは前提ですが、財政状況が厳しい今、国民から見れば削減への理解は得やすい状況にあります。
一方で「定数削減にはデメリットもある」という現実
定数削減は国民の支持を得やすいテーマではありますが、問題がないわけではありません。専門家の間では「むしろ慎重にすべきだ」との意見も少なくありません。
① 小選挙区の統廃合が起きる
まず、懸念されるのが、地方の声が国政に届きにくくなることです。小選挙区の削減は、とくに人口の少ない地域に痛みを伴います。議員1人が背負う地域が広がれば、細かい声を拾いにくくなり、地域代表としての役割が弱まる可能性があります。
② 比例代表の議席が減ることで中小政党に不利
また、比例代表の削減は、中小政党に大きな影響を与えます。比例代表の議席は政党の多様性を支える重要な要素であり、これが減ると議席の獲得が難しくなります。その結果、大政党に有利な“少数政党排除型”の政治になりかねないという指摘があります。
③ 議員と有権者の距離が広がる
さらに、議員数が減ることで、議員ひとり当たりの仕事量は確実に増えます。国会活動、委員会対応、地元活動、政策立案……どれも質を落とさずこなすには限界があります。単純に数を減らせば良いという話ではなく、「民主主義の質を下げないための工夫」がセットで求められます。
今回の合意のポイント──「実効性担保」で後戻りを防ぐ
今回の自民・維新合意の大きな特徴は、「実効性担保」を法律に盛り込む点です。これは、選挙制度全体の議論を1年間行っても結論が出なければ、自動的に議員定数1割削減を実施するという仕組みです。「どうせ議論しても決まらない」という政治への不信を踏まえ、先送りを防ぐ“踏み絵”のような意味合いを持ちます。
① 小選挙区25、比例代表20を削減
現行の衆院定数465を、約1割(45議席)削減する方針です。
維新が主張していた「比例のみ削減」案から変わり、小選挙区も含めた削減で与野党の意見を一定程度取り込む形となりました。
② 1年間議論し、それでも結論が出なければ自動的に削減
いわゆる「実効性担保条項」です。
制度改革の結論が出なくても削減が自動的に発動するため、政治の先送りが防がれる仕組みになっています。
③ 与野党協議を前提に進める
自民党幹部は「野党の協力を得ることが重要」と説明。
特に区割り変更(小選挙区の再編)には幅広い調整が必要であり、与党だけでは進められないテーマです。
④ 選挙制度改革そのものは別途議論
今回の削減とは別に、「中選挙区制への回帰」「比例復活の見直し」など、制度全体の見直しについて1年間かけて議論が続く予定です。
吉村代表が説明したように、小選挙区25、比例20をベースに議論を進めることで、各党との交渉もスムーズに進めやすくする狙いがあります。自民党の鈴木幹事長は「野党の意見も取り入れながら合意形成を図りたい」と述べており、幅広い合意を得る姿勢を示しました。

定数削減で社会はどう変わるのか?
議員定数が1割減れば、国会の構造にも直接的な影響があります。まず小選挙区の統廃合が避けられません。地域区割りが変わると、地元政治にも大きな影響が及びます。住民が「自分たちの代表」をより遠く感じる可能性もあり、地域密着政治のあり方が問われます。
比例代表の削減は政党政治の流れも変えるかもしれません。小規模政党は厳しくなり、政党間の勢力図が変化する可能性もあります。政治の多様性を保つために、政党助成金制度や議席配分方法の見直しを合わせて行うべきだとする意見も出ています。
しかし、制度そのものの“本質的な”課題はここからです。議員を減らしただけで政治不信が解決するわけではありません。むしろ、政治資金の透明化、政策議論の質向上、情報公開の徹底など、国民の信頼回復には幅広い改革が必要です。今回の定数削減は、その大きな議論の入口に過ぎません。
まとめ
今回の自民・維新による議員定数1割削減の合意は、日本の政治改革に大きな一歩を刻むものです。小選挙区と比例代表を合わせて削減するというバランス型の案は、与野党の意見を反映しつつ現実的に進めるための妥協点といえます。
しかし、定数削減にはデメリットも存在し、単純に数を減らせば良いわけではありません。地域の声の反映、多様性の確保、議員の業務負担、政治の質──これらをどう保つかこそが本質的な課題です。
人口減少時代にふさわしい選挙制度とは何か。日本の民主主義をどうアップデートしていくのか。今回の合意は、その大きな議論を進めるための第一歩に位置づけられます。今後の国会での議論が、より開かれ、丁寧で、国民の納得を得られるものになることが求められています。

