米国の科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は、人類滅亡までの象徴的な残り時間を示す「終末時計」を「85秒」と発表しました。これは、終末時計が公表されるようになった1947年以降、最も短い時間です。
終末時計は実際に時間を測るものではなく、世界がどれほど深刻な危機に直面しているかを象徴的に示す指標です。今回の発表は、国際社会が抱えるリスクが極めて高い水準にあると、科学者たちが判断したことを意味しています。
終末時計とは何か
終末時計とは、人類が自ら引き起こす可能性のある破滅的な危機に、どれほど近づいているかを象徴的に示す時計です。時計の針が進むほど、人類が自滅的な状況に近づいていることを意味します。
この時計は、世界の政治情勢や安全保障、環境問題などを専門家が総合的に評価し、毎年調整されます。「午前0時」を人類滅亡や文明の終焉を象徴する基準とし、そこまでの残り時間として示されます。
ただし、終末時計は実際に未来を予言するものではありません。世界がどれほど危機的な状況にあるのかを、一般の人にも直感的に理解してもらうための「視覚的なツール」です。あくまで警鐘としての役割を担っており、人類の行動次第で針が戻る可能性もあることを示しています。
終末時計が生まれた背景と目的
戦後の危機感から生まれた
終末時計は、第二次世界大戦後の1947年に設けられました。当時、世界は米国が原子爆弾を開発・使用した直後であり、核兵器の破壊力と将来の軍拡競争への懸念が強まっていました。その危機感を象徴的に伝えるため、科学者たちが「時計」という形式で世界の危険度を示す仕組みを作ったのです。*
雑誌の編集者や科学者が協議し、視覚的にも直感的にも理解しやすい形として「時計=残り時間」を採用しました。当初は「残り7分」という設定でした。これは、当時の政治・軍事情勢を受け、比較的深刻な危機感を示したものです。
目的は「危機意識の共有」
終末時計が目指すものは、単なる警告ではありません。
- 世界のリーダーや市民に危機感を共有してもらう
- 危険な政策や競争を回避するための政治的・社会的議論を促す
- 安全保障や環境問題、倫理的なテクノロジー利用についての議論を喚起する
といった積極的な変化を促すメッセージ性があります。つまり、時計の針が進むのは警告ですが、戻る可能性もあるため、行動次第で世界は改善され得る、と科学者たちは考えています。
終末時計の推移から見える世界の変化
終末時計はこれまで何度も調整されてきました。主要なポイントを押さえると次の通りです。
冷戦期の緊張
- 1947年:残り7分(初設定)
- 1953年:残り2分(米ソが水爆実験)
ここでは核戦争のリスクが極めて高いと評価されました。
冷戦終結後の緩和
- 1991年:残り17分
冷戦の終結と米ソ間の軍縮進展により、これまでで最も“安全な状態”と評価されました。
近年の危機加速
2000年代以降、核の他に環境問題や人工知能など複合的なリスクが反映され、時計は再び“深刻な位置”へ進んできました:
- 2017年以降は「分」から「秒」へ表現が細分化
- 2020年:100秒
- 2023年:90秒
- 2025年:89秒
- 2026年:85秒(今回・最短)
これは、核戦争の危険だけでなく、気候変動やAIリスク、国際協力の衰退が加味された結果です。

なぜ終末時計は85秒まで進んだのか
2026年の発表では、次の要因が特に強調されました:
- 人工知能(AI)の統制不足と悪用リスクの顕在化
- 核兵器を保有する主要国(ロシア、中国、米国)の対立激化
- 国際協調の崩壊と大国間競争の加速
- 地球温暖化の進行と政策対応の遅れ
さらに、国際社会における協調や信頼関係が弱まり、「勝者総取り」の大国間競争が強まっている点も大きな懸念材料とされています。また、AIについては単なる技術進歩ではなく、誤情報の拡散、軍事利用、社会的不安の増大といった負の側面がリスクとして加えられています。
終末時計が0になったらどうなるのか
「終末時計が0になったら人類は滅亡するのか」と不安に思う人も少なくありません。しかし、終末時計が0になることは、特定の日時に世界が終わることを意味するものではありません。
0はあくまで象徴であり、人類が自ら招いた危機によって文明が存続できない状態に至る可能性が極めて高い、という評価を示すものです。
重要なのは、終末時計は人類の行動次第で針が戻る可能性もある、という点です。過去には実際に、国際協調の進展によって針が大きく後退した例もあります。
終末時計が私たちに投げかける問い
終末時計は、専門家だけの議論ではありません。政治の選択、企業の行動、そして市民一人ひとりの意識も、長い目で見れば世界の進路に影響します。
核兵器を巡る議論、気候変動への向き合い方、技術をどう管理するのか。これらはすべて、終末時計の針に反映される要素です。
終末時計が示しているのは「絶望」ではなく、「まだ引き返せる余地がある」という警告だと言えるでしょう。
まとめ
終末時計が示す「残り85秒」は、過去最短であり、世界が極めて不安定な状況にあることを象徴しています。しかし、それは人類の未来が確定したという意味ではありません。
終末時計は、危機を直視し、行動を変えるためのメッセージです。私たちがどのような選択を重ねるのかによって、針の進み方は変わります。
今こそ、終末時計の意味を正しく理解し、人類の未来について考える時期に来ているのではないでしょうか。

