日本が誇る高級茶、宇治抹茶。深い緑色、上品な香り、まろやかな旨味で、世界中の茶愛好家から長く愛されています。
ところが近年、中国の市場やオンラインショップで「宇治抹茶」と表示された商品が急増しています。しかし、その多くは実際には中国産の抹茶で、日本の宇治抹茶とは別物。消費者の混乱やブランド価値の低下が懸念されています。
本記事では、中国市場で起きている商標や産地偽装の問題、そして消費者が本物を見分けるためのポイントまで詳しく解説します。
中国市場における商標の壁
宇治抹茶ブランドを守るうえで大きな障害となっているのが、中国の商標制度です。日本の企業が中国で「宇治」という商標を登録していたとしても、一定期間その商標を使って商品を販売しなければ「未使用取消請求」によって取り消される可能性があります。
実際、東日本大震災以降、日本からの農産物輸入が一部制限された時期に、輸出できない状態が続いたことで商標を失った企業もあります。その結果、現地企業が「宇治抹茶」という名前を自由に使用できる状態になり、本物と偽物の区別がつきにくくなっています。
模倣品や産地偽装の現状
中国のスーパーや通販サイトを覗くと、「宇治抹茶」と書かれた商品がずらりと並びます。パッケージには茶道具や京都の風景写真が使われ、日本らしい雰囲気を演出しています。しかし中身はほとんどが中国産の茶葉を粉末にしたものです。
見た目はそれらしくても、味や香りは本物とは大きく違います。これらの模倣品や産地偽装は、日本の老舗茶舗が守ってきたブランド価値を損ねる大きな要因になっています。
「宇治抹茶」の本当の定義
日本では「宇治抹茶」という言葉は厳密に定義されています。
京都府・奈良県・滋賀県・三重県で収穫された茶葉を、京都府内の業者が宇治地域に由来する製法で仕上げ加工し、石臼などで挽いたものだけが名乗ることができます。
中国産の「宇治抹茶」は、この条件を満たしていません。ただ抹茶を作って「宇治抹茶」とラベルを貼るだけのケースも多く、日本基準では完全に別物です。
品質の差とブランドイメージへの影響
本物の宇治抹茶は、鮮やかな深緑色とまろやかな旨味、ふくよかな香りが特徴です。一方、中国産の抹茶は黄色みが強く、渋味や苦味が前面に出やすい傾向があります。
こうした商品が「宇治抹茶」として広まれば、「宇治抹茶は意外と美味しくない」という誤解が世界中で広まる危険性があります。
法的対応と限界
日本の業界団体や企業は、中国当局にブランド保護を求めています。国際商標や地理的表示(GI)制度の活用も試みられていますが、中国では「宇治」という地名が一般的に知られていないという理由で、特別扱いが認められにくいのが現状です。
さらに、中国の商標制度は「早い者勝ち」の色合いが強く、現地企業に先に商標を取られてしまうと、後から取り戻すのは非常に困難です。

宇治抹茶を守るための戦略
この問題を解決するためには、複数のアプローチが必要です。
- 現地でのブランド認知度向上
本物の宇治抹茶の魅力を、中国の消費者に知ってもらう取り組みが不可欠です。イベントや試飲会、SNSを使った情報発信などが効果的です。 - 国際商標とGI制度の強化
国際的な知的財産制度を活用し、偽物の市場流通を減らす法的基盤を整える必要があります。 - 認証マークの導入
本物であることを証明する統一認証マークを設け、消費者が見分けやすくすることも有効です。

消費者が本物を見分けるためのポイント
消費者自身も、購入時に次のポイントを押さえておくことで、偽物や粗悪品を避けられます。
- 原産地表示を確認する
パッケージに「原産地:京都府」など具体的な産地表示があるかどうかを必ずチェックしましょう。「日本製」だけの表記は曖昧です。 - 製造者や販売者情報
信頼できる日本の老舗茶舗や正規代理店の名前が記載されているか確認します。 - 色と香り
本物の宇治抹茶は深い鮮やかな緑色で、海苔や若草のような香りがあります。黄色や茶色がかっている場合は注意が必要です。 - 価格
高品質な宇治抹茶は手間と時間がかかるため、極端に安いものは偽物や低品質の可能性が高いです。 - 認証マークや公式ラベル
日本の茶業界団体が発行する認証マークが付いているかをチェックします。
宇治抹茶は文化そのもの
宇治抹茶は、日本の茶道や食文化の象徴です。その味わいはもちろん、歴史や製法、職人の技術が詰まっています。模倣品や偽装表示からブランドを守ることは、単なる経済的利益の問題ではなく、日本文化そのものを守ることにもつながります。
本物の宇治抹茶を選び、味わうことは、その伝統を未来へとつなげる行為でもあります。消費者一人ひとりが正しい知識を持つことで、ブランドの価値は守られていくでしょう。