奨学金の返済を企業が肩代わりするそんな「代理返還制度」が、今、注目を集めています。
大学卒業後、奨学金の返済に悩む若者は少なくありません。一方で、企業側も優秀な人材を確保し、早期離職を防ぐための手段を模索しています。そんな中、企業が従業員の奨学金を代わりに返済する制度が、双方のニーズを満たす新たな福利厚生として急速に広まりつつあります。
代理返還制度とは?
「代理返還制度」とは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が提供する制度で、企業が従業員に代わってJASSOへ奨学金の返済を行う仕組みです。2021年に正式に導入され、企業は奨学金の一部または全額をJASSOへ直接送金する形で従業員の支援を行えます。
従業員本人に金銭的な請求がされることはなく、実質的に手取り収入が増える効果があります。これは単なる手当支給とは異なり、確実に返済に充てられるという点が特徴です。
なぜ今、代理返還制度が注目されているのか?
近年、この制度が脚光を浴びる理由には以下の背景があります。
1. 奨学金返済の長期化・高額化
日本学生支援機構(JASSO)によると、4年制大学卒業生の平均借入額は約313万円。多くの若者が、社会人としての生活と並行して十数年にわたり返済を続けています。
2. 売り手市場の就活と企業の人材難
少子化や人手不足により、現在は学生に有利な「売り手市場」。企業側は、魅力的な福利厚生で他社と差別化しなければ優秀な人材を確保できない時代に突入しています。
3. 離職率の高さと早期退職問題
新卒者の3年以内離職率は約30%とされ、特に若手の定着が企業の大きな課題です。奨学金返済支援は、企業に「恩義」を感じた社員の定着を促す効果も期待されます。

代理返還制度の企業側メリットとは?
制度を導入することで、企業は以下のような利点を得られます。
◎ 人材確保力の強化
福利厚生として学生に大きくアピールできるため、採用活動における競争力が高まります。実際に、企業説明会などで「代理返還制度の有無」を学生から質問される場面も増えているとの報告があります。
◎ 早期離職の防止
JASSOによると、制度を導入した企業の中には「制度利用者の離職率が全体よりも明らかに低い」というデータもあります。社員のロイヤリティ向上や継続勤務への動機づけに繋がります。
◎ 税制上の優遇措置
企業が奨学金を代理返還する場合、一定の条件下で法人税の課税控除の対象となる場合があります。給与手当よりも効率的な福利厚生手段といえるでしょう。
実際の導入事例
代理返還制度は、現在多くの企業に広がっています。導入企業数は2024年10月時点で2,587社から、2025年6月には3,721社へと急増。以下にいくつかの実例を紹介します。
● ゆで太郎システム(飲食業)
最大144万円を8年間にわたって返還。就活時の魅力向上と、離職防止に効果があると評価されています。
● 日本国土開発(建設業)
8年間で最大96万円の支援。導入から4年で52名の新入社員が利用し、制度利用者の離職率は著しく低下しました。
学生・求職者にとってのメリット
学生や若手社員にとって、「代理返還制度」は目に見える経済的支援であり、心理的にも安心感を得られる仕組みです。
- 手取り収入の増加(実質的な賃上げ)
- 生活設計の見通しが立ちやすくなる
- 企業選びの判断基準になる
奨学金返済を考える就活生にとって、代理返還制度の有無は「働き続けたい企業かどうか」の重要な判断材料になります。
海外の奨学金制度との違い
日本の奨学金は、基本的に「貸与型(=借金)」が中心で、卒業後に自分で返済するのが原則です。一方、欧米では給付型の奨学金や大学自体の無償教育政策が整備されている国もあります。
アメリカでも一部の企業が従業員のローン返済支援を行っていますが、国家主導での代理返還制度は日本独自の特徴といえるでしょう。
代理返還制度を導入したい企業が注意すべきこと
- JASSOへの登録・契約手続きが必要
- 支援金額や対象者の明確な社内ルールづくり
- 税務処理や社会保険への影響を事前に確認
また、社員が退職した場合の取り扱い(返還継続の有無)など、運用ルールの整備も重要です。
まとめ|代理返還制度は“新時代の人材戦略”
「奨学金の代理返還制度」は、単なる福利厚生ではありません。これは、若者の未来を支え、企業の持続的成長を可能にする新しい人材戦略のひとつです。
人手不足が続く今、制度を活用する企業が増えることで、社会全体の教育と雇用のあり方にも良い循環が生まれるかもしれません。