2025年5月、アーティストのGACKTさんがSNSで「エスカレーターは立ち止まって使うべき」「急いでいるなら階段を使え」と発言し、大きな話題を呼びました。この発言の背景には、長年続いてきた“片側を空ける”というエスカレーター利用マナーの是非があります。この記事では、「エスカレーターの片側空けはいつから始まり、なぜ今も根強く残っているのか?」という問いを軸に、安全性や公共マナーについて深掘りしていきます。
エスカレーターの片側を空ける習慣は“いつから”始まったのか?
現在、日本の多くの都市では、エスカレーターに乗るとき「片側に立ち、もう片方を急ぐ人のために空ける」という行動が暗黙のマナーとされています。東京では左側に立ち右側を空け、大阪では右側に立ち左側を空けるという“地域差”もよく知られています。
では、この習慣はいつから始まったのでしょうか?
実はこの習慣は、1970年の大阪万博の少し前、1967年頃に阪急電鉄が呼びかけたことがきっかけとされています。当時、「大阪の人はせっかち」と言われており、混雑緩和のために左側を空けて右側を歩くというルールが広まりました。
その後、1980年代から90年代にかけて、東京など関東でも「急いでいる人のために片側を空けるのがマナー」とされ、企業の研修やマナー講座でも教えられるようになります。これにより、全国に「片側空けマナー」が定着していきました。
エスカレーター片側空けの習慣はなぜ今も根強く残っているのか?
“片側空け”は、一見すると「他人に配慮した行動」に見えるため、良いマナーとして支持されてきました。特に混雑した通勤時間帯などでは、「急いでいる人がスムーズに移動できるから」という理由で、今でも続いています。
では、なぜこの習慣がこれほどまでに根強く残っているのでしょうか?
- 長年の習慣が定着しているから
一度「マナー」として浸透した行動は、それを変えることがとても難しいという現実があります。社会に長年根づいた暗黙のルールは、たとえ危険性が指摘されてもなかなか変わらないのです。 - 明確な規制がないため、強制力が弱いから
エスカレーターの使い方について、法的な拘束力はほとんどなく、鉄道会社や自治体のアナウンスに頼るしかありません。多くの人が「空けるのが当然」と思っている限り、自発的な変化は起こりにくいのが実情です。
GACKTさんの発言「急いでるなら階段使え」は正しい?
2025年5月、GACKTさんは以下のようにSNSで発言しました。
「そもそも急いでいるなら階段を使えって話」
「エスカレーターの段差は高く、角も鋭い。転倒したら連鎖的に倒れる危険がある」
「海外ではエスカレーターで歩く人はほとんどいない」
この投稿には、300件を超えるリプライが集まり、「まったくその通り!」「エスカレーターは立ち止まって使うべきだ」と共感の声が多く寄せられました。
しかし一方で、「混雑した駅で階段は逆に危ない」「海外でも片側を空けている国はある」といった反論も少なくなく、意見が二分されています。
エスカレーターの事故の実例と安全性の問題
GACKTさんが指摘するように、エスカレーターでの“歩行”は実際に事故の原因になっており、日本エレベーター協会によると、転倒や接触による事故は毎年発生しています。
エスカレーターの設計は「立ち止まって利用する」ことを前提にしており、歩行用には作られていません。特に、段差の高さが大きく、手すりと歩幅が合わない構造は、スムーズな歩行を妨げます。
2018年には国土交通省も「歩かずに使ってください」と呼びかけ、2021年には埼玉県で「エスカレーター歩行禁止条例」も施行されました。これは全国初の試みとして注目され、徐々に“歩かない派”が増えつつあります。
海外ではどうなのか?
GACKTさんは「海外では歩かない」と述べていますが、これは地域によって異なります。
- イギリス・ロンドン:右側立ち・左側空けが徹底されている
- 台湾・香港・韓国:片側空けマナーが見られる
- シンガポール・タイ・中国:場所により片側空けあり
- アメリカ・フランス・ドイツ:歩く人もいるが統一はされていない
つまり、海外=歩かないというのは一概には言えませんが、公共機関が「エスカレーターは歩かず立ち止まって」と呼びかける国は増えてきています。
エスカレーター片側空け:今後のマナーはどうあるべきか?
では、今後のエスカレーター利用マナーはどうあるべきなのでしょうか。
重要なのは、「急ぐ人のために空ける」から「すべての人が安全に使える」マナーへと転換することです。高齢者、ベビーカー利用者、障害のある方など、多様な利用者に配慮すれば、立ち止まって2列で利用する方が合理的で安全です。
また、鉄道会社や自治体による**「歩かないでください」という呼びかけだけでは限界**があるため、私たち一人ひとりがマナーを見直すことが必要です。
まとめ:「マナー」は変えられる
エスカレーターの片側空けマナーは、「いつから?」「なぜ?」という問いから見ても、その発端や理由は一見合理的であっても、現在の社会においてはリスクの方が大きいことがわかってきています。
GACKTさんの「急いでいるなら階段を使え」という言葉は、単なる炎上狙いではなく、「自分だけがよければいい」という考えを見直すきっかけになるかもしれません。
マナーは時代とともに見直されていくものです。「空けるのがマナー」ではなく、「安全に立ち止まるのがマナー」へ——。
その変化の第一歩は、私たちの日常の行動から始まります。