SNSやニュースで目にする「ぶつかりおじさん」とは、混雑する街中や駅構内などで、わざと人に体当たりをする中年男性を指す俗称です。被害者は多くが女性で、とくにおとなしく地味目な服装の若い女性がターゲットになる傾向があります。
「ぶつかり行為」が故意に行われた場合、日本の刑法上で責任を問われる可能性があり、暴行や傷害といった罪にあたる場合があります。軽い接触に見えても、実際には危険で悪質な行為なのです。

法的責任の具体例――被害者が取りうる行動
「体当たり」行為が故意に行われた場合、日本の刑法上で以下のような刑事責任が問われる可能性があります:
- 暴行罪(刑法208条):体当たりという「不法な有形力の行使」にあたり、成立する可能性が高い。
- 傷害罪(刑法204条):被害者にケガを負わせた場合には、より重い責任が課され得る。
たとえ故意ではないぶつかりでも、民事上の過失として損害賠償請求対象になりますが、故意の場合には刑事・民事の両面で責任を追及しやすくなります。実際に行動を起こす場合は弁護士などの専門家に相談するのが安心です。
心理と背景――なぜ「ぶつかる」のか?
弁護士やメディアの分析によれば、「ぶつかりおじさん」が抱える可能性のある心理には、以下のような背景があります:
- ストレスのはけ口として、理不尽なターゲットにぶつかることで自己満足を得る。
- 「よけたら負け」理論として、譲らない意地の発露。
- 「相手が避けるべきだ」というゆがんだ意識
- 相手の驚きや反応を見て快感を得る愉快犯的心理。
- 単なるマナー違反や周囲への配慮の欠如による行動。
こうした背景から、「偶然」ではなく「攻撃的な意思」に基づいた行為である場合が多いのです。だからこそ単なる迷惑行為ではなく、悪質な暴力行為として社会全体で認識していく必要があります。

データで見る実態――被害は想像以上に広がっている
調査データによると、「ぶつかり行為の被害経験者は約14%」、目撃した人も6%にのぼるとされています。特に都市部での発生が目立ち、東京や大阪、神奈川など人が密集する地域で多い傾向があります。(「アイコニット・リサーチ」調べ https://www.iconit.jp/)
SNS上でも「自分も駅で同じような経験をした」「大きな荷物を持っていると狙われやすい」などの声が寄せられており、被害は決して珍しいものではないと分かります。報道でも警察が現場で加害者に厳重注意をしたケースが取り上げられており、社会問題として無視できない規模に達しています。
東京ドーム帰りの「ぶつかりおじさん」被害――被害者の叫び
2025年7月に東京ドームで開催されたライブ終了後、規制退場中に女性Aさんが後方から故意に体当たりされ、負傷したという事件について報道されています。
報道によると、事件はライブ終了後の規制退場中、多くの女性ファンが歩いている中で発生しました。被害女性Aさんは、家族や友人と共に歩いていたところ、見知らぬ男性に左側から強く突き飛ばされ、転倒しました。
この時、Aさんはショルダーバッグと大きなトートバッグを両肩にかけていたため、とっさに手をつくことができず、頭や肩を強く打ったとされています。その結果、全治2週間の怪我を負い、さらに頭部への後遺症の懸念も残っています。
転倒後、男性はその場から逃走しようとしましたが、Aさんの娘や友人、そして周囲にいた女性たちが協力して男性を取り押さえ、通報を受けた警察官が駆けつける事態になりました。
男性はワイシャツ姿で仕事帰り風であったと報じられており、取り押さえられた際には「ごめんね!」と謝罪の言葉を述べたとのことです。
この事件は、単なる接触事故ではなく、悪意を持った「ぶつかりおじさん」による暴行事件として、大きな問題となっています。このような行為は、被害者に身体的な怪我だけでなく、精神的な恐怖心を与えるものであり、社会的な問題として広く認識されつつあります。
SNSでは応援の声とともに、被害を「前方不注意」や「大げさ」などと誤解・中傷する書き込みもあり、被害者にさらなる心理的負担が及んでいる現状も明らかになっています。
社会ができること――防止と支援の視点から
このような悪質な行為を根絶するためには、以下のような社会的取り組みが不可欠です:
- 公共空間の防犯強化:駅や会場での防犯カメラ設置、警備員の巡回強化。
- 被害者支援制度の充実:法的相談へのアクセス、安全確保、心のケア支援などの態勢整備。
- 意識啓発と教育:譲り合いのマナーや悪質行為への対応策を広く周知すること。
「人が多いから仕方ない」では済まされない「暴行」であることを社会全体で共有し、被害に遭った方が安心して声を上げられる環境を築きたいものです。

結びに――「ぶつかりおじさん」という表現の裏にある現実
「ぶつかりおじさん」というキャッチーな言葉には、一見ユーモラスな響きもありますが、その行為自体は決して笑って済ませられない悪質な暴力です。被害者はいまもなお恐怖や不安、社会的な誤解という二重の苦しみにさらされています。
法律に基づく明確な責任追及、周囲の助け合い、社会の制度整備――こうした積み重ねこそが、「被害者を救い」「再発を防ぐ」ための最も確かな道。われわれも「自分ごと」として関心を持ち続けたいと切に思います。