水銀を含む体温計や血圧計の誤った廃棄が、焼却炉の停止や公共施設の利用停止といった深刻な影響を及ぼすことがあります。
2025年春、名古屋市中川区の「富田北プール」が、隣接するごみ処理場「富田工場」の焼却炉停止により臨時休場となりました。この事態は、水銀を含む製品が可燃ごみとして誤って捨てられたことが原因とされています。
水銀を含む製品の廃棄がもたらす影響
富田工場では、排ガス中の水銀濃度が名古屋市の自主管理値(30μg/㎥N)を超過したため、3基ある焼却炉すべてが稼働停止となりました。
この影響で、同工場の熱を利用していた富田北プールも利用できなくなりました。水銀血圧計1個に含まれる水銀の量は約50グラムであり、わずかな量でも焼却炉の稼働に大きな影響を与えることがわかります。
水銀を含む製品の適切な廃棄方法
体温計や血圧計は、可燃ごみとして捨てるのではなく、自治体の指示に従って適切に処分する必要があります。名古屋市では、各区の環境事業所で水銀を含む製品の回収を行っています。また、蛍光ランプやリチウムイオン電池なども、専用の回収ボックスや指定の回収場所で処分することが推奨されています。
以下に、いくつかの自治体の対応を紹介します。
- 静岡県富士市:水銀使用物は市役所などへ直接持ち込む必要があります。
- 札幌市:地区リサイクルセンターや清掃事務所で無料回収を行っています。
- 堺市:回収拠点への排出が難しい市民を対象に、ごみ収集時に作業員が回収します。
- 島田市:市役所や支所などで回収を行っており、割れている場合は特定の施設に持ち込む必要があります。
これらの例からもわかるように、自治体ごとに廃棄方法が異なるため、必ずお住まいの自治体の指示を確認してください。
水銀とは何か?
水銀は、常温で液体の状態を保つ唯一の金属で、化学記号は「Hg」です。熱膨張の特性を利用して、かつては体温計や血圧計、スイッチ、蛍光灯などに広く使われていました。
しかし、その高い毒性のため、現在では多くの国で製造や輸出入が制限・禁止されています。日本でも2021年から、水銀を使用した体温計や血圧計などの製造・輸出入が原則禁止となりました(「水銀に関する水俣条約」に基づく)。
毒性についてもっとも危険とされるのが、水銀が気化した「水銀蒸気」の吸入です。水銀は常温でも気化し、吸い込まれると肺から体内に取り込まれ、全身に影響を及ぼします。
環境へ与える影響
水銀は自然界に放出されると、大気・水・土壌を通じて広く拡散され、やがて食物連鎖に取り込まれていきます。焼却炉から水銀が排出されると、以下のようなリスクが生じます。
- 雨に混じって河川・湖に沈着 → 水生生物が取り込む
- 魚介類にメチル水銀が蓄積 → 人間が摂取
- 土壌に蓄積 → 作物の汚染
こうして人間社会に再び巡ってくるため、「ごく少量でも油断できない」性質を持っています。
私たちにできること
水銀を含む製品の誤った廃棄は、焼却炉の停止や公共施設の利用停止など、社会全体に影響を及ぼします。一人ひとりが正しい知識を持ち、適切な方法で廃棄することが、環境保護と安全な社会の実現につながります。自治体の指示に従い、正しい分別と廃棄を心がけましょう。
また、学校や家庭での環境教育を通じて、子どもたちに正しい知識と行動を身につけさせることが、将来的な環境保護につながります。