国際協力機構(JICA)が進める「ホームタウン」事業をめぐって、外務省とJICAが名称の変更を検討していることがわかりました。アフリカの国々と日本の都市をつなぎ、人材交流を深める目的で始まった取り組みですが、発表直後から「移民が増えるのではないか」という不安がSNSを中心に広がり、いまも騒動が収まっていません。
多くの市民が心配しているのは、「名前を変えても中身が変わらなければ不安はなくならない」という点です。ここでは、これまでの経緯や背景をわかりやすく整理しながら、この問題の本質を考えてみたいと思います。
ホームタウン事業とは何か
今回話題になっている「ホームタウン」事業は、2024年8月に横浜で開かれたアフリカ開発会議(TICAD)の場で発表されました。JICAは、次の4つの都市をアフリカの国々の「ホームタウン」として選びました。
- 山形県長井市 … タンザニア
- 新潟県三条市 … ガーナ
- 千葉県木更津市 … ナイジェリア
- 愛媛県今治市 … モザンビーク
この取り組みは、日本の地方都市とアフリカの都市をつなぎ、学生や若者の交流、ビジネスや技術協力を進める狙いがあるとされています。つまり、本来は「相互理解を深める国際交流プログラム」です。
誤解が広がったきっかけ
ナイジェリア政府は、この「ホームタウン」認定に関して、大統領府のウェブサイト上で、日本政府が木更津市での生活や就労を希望するナイジェリアの若者向けに「特別な査証(ビザ)」を発給すると発表しました。その内容がSNSで拡散されると、「大量の移民が来る」「日本が移民を受け入れるための制度ではないか」という不安の声が一気に広まりました。
日本政府はすぐにナイジェリア側へ修正を求め、記事の誤りは訂正されました。しかし、一度広がった情報はなかなか消えません。4市の役所やJICAには「なぜ移民を受け入れるのか」「生活は大丈夫なのか」といった抗議や問い合わせが相次ぎました。
このことからも、市民の多くが外国人受け入れについて敏感になっていることがわかります。

技能実習制度の経験が影を落としている
今回の「ホームタウン」事業に対して市民の不安が強くなる背景には、文化や習慣、宗教の違い、治安の悪化への懸念など、さまざまな要因があります。その一例として、過去の外国人受け入れ制度も影響していると考えられます。
例えば、技能実習制度は「技術を学び母国に持ち帰る」という名目で導入されましたが、実際には日本の人手不足を補う労働力として、多くの外国人が働いてきました。その過程で、劣悪な労働環境や低賃金の問題が指摘され、国際的にも批判を受けてきました。
さらに、多くの実習生が失踪したという報告がされています。失踪した方の中には、不法に働いたり、生活に困って犯罪に関わってしまうケースもあります。
出入国在留管理庁:技能実習生の失踪防止対策について
こうした経緯を知る市民からすれば、「インターンシップだから大丈夫」と言われても、すぐに安心することは難しいのです。
名称変更では不安は解消されない
政府やJICAは、誤解を避けるために「ホームタウン」という名称を変えることを検討しています。しかし、SNSやネット上の意見をみると、「名前を変えただけでは不安は解消されない」という声が圧倒的です。
これは単なる誤解ではなく、過去の制度への不信感が根強く残っているからです。「技能実習制度」での問題を見てきた人たちにとっては、新しい名前の制度も「結局は同じことが繰り返されるのでは」と感じてしまうのです。
つまり、問題は「ホームタウン」という言葉そのものではなく、日本が外国人をどう受け入れて、どのように共生していくのかという根本的な部分にあるのです。
本当に必要なのは正直な説明と仕組みづくり
多くの市民が求めているのは、制度の看板を変えることではありません。実際に外国人を受け入れる場合、次のような点をきちんと示してほしいと考えています。
- 受け入れる人数や期間はどうなっているのか
- 帰国を前提とするなら、どのように担保するのか
- 不法滞在や失踪を防ぐ仕組みはあるのか
- 地域住民と外国人が安心して共生できる方法はどう整えるのか
こうした情報を正直に伝え、市民の不安や疑問に耳を傾けながら制度を作っていくことが大切です。
特に子育て世代や主婦の方々にとっては、「治安や地域社会への影響」は生活に直結する大きな関心事です。外国人と日本人が同じ地域で安心して暮らせるようにするには、受け入れ制度の透明性と具体的なルールづくりが欠かせません。
まとめ:名前よりも中身の改革を
「ホームタウン」事業をめぐる混乱は、単なる名前の問題ではありません。日本が外国人をどのように受け入れるのか、移民政策をどう考えるのかという大きな課題が背景にあります。
名称を変更することは一つの対応策かもしれませんが、それだけで市民の不安が解消されるわけではありません。大切なのは、誤解を生まないよう丁寧に説明すること、そして過去の制度の失敗を繰り返さない仕組みをつくることです。
少子高齢化で人手不足が進む日本にとって、外国人との共生は避けて通れない課題です。だからこそ、看板だけを変えるのではなく、中身を改革し、市民が安心できる制度を整える必要があります。今回の「ホームタウン」騒動は、そのことを私たちに強く問いかけているのではないでしょうか。